水稲新品種候補「上育445号」の摘録

                                         北海道立上川農業試験場水稲育種指定試験地
                                          株式会社 北海道グリーンバイオ研究所

1.特性一覧表
系 統 名上育445号交配組合せ 上育428号/空育159号
特性長所短所
1.早生で耐冷性が強く多収である
2.「ほしのゆめ」並の良食味である
3.移植栽培と直播栽培ができる
1.玄米等級がやや劣る
採用予定県および普及予定面積北海道4,500 ha
調査地上川農業試験場(比布町)中央農業試験場(岩見沢市)
調査年次平成14〜17年(中苗移植標肥、直播)平成14〜17年(中苗移植標肥、直播)
 系統・品種名
     形  質
上育445号対照品種
ゆきまる
対照品種
ほしたろう
比較品種
ほしのゆめ
上育445号対照品種
ゆきまる
対照品種
ほしたろう
比較品種
ほしのゆめ
出穂期の早晩性早生の早早生の中中生の早中生の早早生の中早生の中中生の早中生の早
成熟期の早晩性早生の晩早生の晩早生の晩中生の早早生の晩早生の晩中生の早中生の早
草型穂数型穂数型穂数型穂数型穂数型穂数型穂数型穂数型
苗立ち率(%) 72 74   59 76  
低温苗立性 やや弱 やや弱        
出穂期(月・日)7.238. 37.258. 37.267.267.298. 67.318. 68. 58. 5
成熟期(月・日)9. 89.239. 99.229.109.109.169.199.179.209.219.22
登熟日数(日)475146504646494448454748
稈長(cm)586358565860566554616265
穂長(cm)15.815.215.713.714.814.815.615.714.813.915.614.9
穂数(本/㎡)7368867158627607627919307741012778790
一穂籾数37.336.242.436.239.035.640.036.046.040.745.844.5
割籾歩合(%)46.717.834.118.965.378.36.84.14.03.913.825.3
芒の多少・長短極稀・極短中・短稀・短少・短    
ふ先色黄白黄白黄白黄白    
脱粒性    
耐倒伏性中〜やや強やや強やや弱〜中やや弱〜中    
穂ばらみ期耐冷性やや強〜強やや強〜強    
いもち病真性Pia,PiiPia,Pii,PikPia,Pii,PikPia,Pii,Pik    
抵抗性遺伝子型        
葉いもち耐病性やや弱やや強やや弱    
穂いもち耐病性やや弱〜中やや弱    
玄米重(kg/a)49.947.146.341.348.246.348.854.444.750.351.349.3
玄米重標準比(%)108114100100104100109108100100115110
玄米千粒重(g)23.823.021.020.622.121.323.524.320.922.422.121.5
玄米等級2中2下2上1中2中2上2下2中2上2上2中2中
玄米品質中上中中中上中上中上中上中上中上中上中上中上中上
アミロース含有率(%)19.821.519.920.820.621.019.920.420.020.121.521.6
蛋白質含有率(%)7.16.37.46.97.27.07.67.38.07.96.87.1
食味上下上下中上中上上下上下      

「上育445号」と「ゆきまる」の左欄:中苗移植栽培、右欄:落水出芽法による湛水土中直播栽培。
「ほしたろう」と「ほしのゆめ」は中苗移植栽培。
中央農試直播栽培は、鳥害のため平成15年の数字を除く。

 

2.特記すべき特徴
 

 「上育445号」は、出穂期が早生の早と早く、成熟期は早生の晩であり、北海道中央部での直播栽培も可能な熟期である。また、「ほしのゆめ」並の良食味で、さらに多収で耐冷性が強い。

 

3.優良品種に採用しようとする理由
 北海道における粳の栽培品種は、販売上の理由により中生品種がほとんどを占める。その中で「ほしたろう」は中生品種でも比較的熟期が早いため、特に稲作期間が短く気象条件も厳しい地帯に作付けされている。しかし、これらの地帯では遅延型冷害に遭遇する危険性が高いので、本来は安定生産のために早生品種を主体に作付けすることが必要である。
 また、農家の高齢化や米価の低迷に対応する複合経営と規模拡大のために、省力化が求められている。直播栽培はそのための有効な栽培技術として期待されている。しかし、直播栽培面積は平成17年度で209.9haであり、ここ数年面積は増加していない。この原因として、主要稲作地帯の道央部で用いられている早生品種の「ゆきまる」は、移植栽培の主要品種に比べ、食味が劣り収量も低いことが挙げられる。また、販売上の利点から中生の良食味品種の「ほしのゆめ」による直播栽培も試みられているが、熟期的に遅く収量性が不安定である。直播栽培を安定技術として普及させるには、現在の移植栽培の主要品種並に良食味で、「ゆきまる」並に熟期が早い多収の品種が必要である。
 「上育445号」は、「ゆきまる」より多収で、中生品種の「ほしたろう」並に収量性が高い。さらに、熟期が「ゆきまる」並に早く、耐冷性が強で「ゆきまる」「ほしたろう」より強く、移植栽培での安定生産が期待でき、直播栽培にも利用可能である。食味水準は、いずれの栽培法においても「ゆきまる」に優り「ほしのゆめ」と同等である。
 以上のことから、「上育445号」を「ゆきまる」「ほしたろう」の全てと栽培条件の厳しい地帯の中生品種に置き換えて作付けすることにより、北海道米の食味水準を引き上げるとともにその生産の安定化を図る。

 

4.普及見込み地帯
 1) 栽培地帯   網走、上川、留萌、空知、石狩、後志、日高、胆振、渡島および檜山各支庁管内 
  直播栽培は「落水出芽法を用いた水稲直播栽培の安定多収技術(平成16年普及推進  事項)」における「ゆきまる」の栽培適地とする。
 2) 対照品種  「ゆきまる」、「ほしたろう」
                       
 

5. 普及見込み面積  北海道 4,500 ha 
   
 

6.栽培上の注意
 1)成苗移植栽培では早期異常出穂の恐れがあるので、育苗ハウスの適正な温度管理に努める。
 2)移植栽培では初期の分げつ性がやや劣り穂数確保が難しいので、側条施肥などにより初期生育を促進する。
 3)直播栽培では苗立ちが劣る場合があるので、塩水選などの種子準備や落水出芽における水管理に十分留意する。
 4)直播用種子の採種にあたっては、「汎用コンバインによる水稲直播用種子の収穫技術(平成15年普及推進事項)」を遵守する。