成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  北海道 水田農業 3111
2.研究課題名  輪換初年目畑における春播コムギの根雪前播種とチゼル耕による多収技術
3.予算区分  経常・高品質輪作
4.研究期間  (平成2年〜4年)
5.担当  北農試・企連室・総研1
6.協力・分担関係  水田土壌管理研(美唄)

7.目的
 田畑輪換の作付体系を合理化するためには、春播コムギの安定多収技術を確立することが重要である。春播コムギの多収法として有望な根雪前播種法の特徴と不安定要因を明らかにし、さらに、簡易な耕耘法(チゼル耕)の導入によって物理性の劣悪な輪換初年目畑に根雪前播種法を連用する技術を確立する。

8.試験研究方法
1)供試土壌
  羊ケ丘土壌(褐色火山性土、北農試4号水田)、北野土壌(造成層、灰色低地土、羊ケ丘に移動して水田造
 成)、美唄土壌(泥炭土、客土量20㎝、水田土壌管理研圃場)、いずれも輪換初年目畑(一部の試験は輪
 換2年目)
2)耕耘法試験(1990〜1991,1991〜1992)
  チゼル耕:チゼルプラウにて深さ10〜15㎝を耕起,チゼルの幅は30㎝
  ロータリ耕(対照):深さ5〜10㎝をロータリにて耕耘
3)播種時期試験(1991〜1992)
  播種時期:10月9日、10月21日、11月11日、12月6日、1月23日
4)施肥量試験(1990〜1991、1991〜1992)
  播種時にN4㎏/10aを、融雪後にN8〜12㎏/10a相当量を化成肥料(N:P2O5:K2O=10:18:12)で施用し、
 さらに幼穂形成期または出穂期にN4㎏/10a(硫安)追肥を組み合わせた。P2O5およびK2Oは共通として29
 および19㎏/10aを施用。
5)栽培概要(試験処理以外の共通の栽培管理)
  10月下旬〜11月上旬にロータリにて耕転。11月下旬に措種,措穫量は600粒/㎡、散播とし播種後表面を
 軽く攪拌、施肥量は播種時にN4、融雪後にN12㎏/10a相当量を化成肥料にて施用(P2O5およびK2Oの合計
 施用量は29および19㎏/10a)、一部にN4㎏/10aを硫安で幼穂形成期に追肥。春播種は、4月下旬〜5月上
 旬に播種、播種量は500粒/㎡、畦幅20㎝の条播、施肥量はN12㎏/10aを化成肥料で施用(P2O5および
 K2Oは22,14㎏/10a)。1区面積15㎡、2〜3反復。

9.試験結果の概要・要約
1)根雪前播種された春播コムギは積雪下で発芽し、数本発生した種子根は越冬中にも伸長し続け、融雪時
 には個体当たり30㎝以上に達し、その後の速やかな生育が保障された(第1図)。
2)根雪前播種された春播コムギの生育は、通常の春播種と比ぺ10日〜2週間生育が早まり、収穫の遅れ
 による品質の低下及び病虫の被害を回避することが期待できた(第2表)。
3)春播コムギの収量は、根雪前播種によっておおむね500g/㎡以上の高収を示し、さらにチゼル耕との組
 み合わせで600g/㎡に達した。根雪前播種の多収の要因は安定した穂数の確保によるところが大きく、さ
 らにチゼル耕は穂数が増加してもロータリ耕に比べて一穂粒数の減少が少ないことが増収に関与してい
 た(第2表)。
4)10月9日〜1月23日まで6回の播種期試験では、収量差はなく根雪前播種の播種適期は明確ではなかった。
 しかし、雪腐れ病の回避を考慮すると播種は11月以降が良いが、発芽時の乾燥ストレスの回避、雪中で
 発芽した場合融雪後の圃場への定着等を考慮すると根雪に近いほうが望ましい(第1表)。
5)根雪前播種では播種期の窒素施肥はほとんど効果が認められず、融雪後に十分な施肥をすることが必要であった。根雪前播種では多収にともなって子実蛋白が春播種と比べ低下する傾向が認められた(第2表)。
6)根雪前播種では積雪下で発芽するため細かい砕土は必要なかった。輪換初年目畑の土壌の物理的条
 件が劣る圃場でもチゼル耕のような簡易な耕耘法が適用できた。
7)チゼル耕では、耕起された膨軟な部分と耕起されなかった緻密な部分とが1:1〜1:2の割合で存在し、根
 は膨軟部に集中していた。チゼル耕がロータリ耕よりも多収を示した要因の一つとして土壌の物理的な
 不均一性と養水分の吸収効率の向上との関連性が考えられた(第2図)。

10.成果の具体的数字
第1表  播種時期の違いと収量(1991〜92年 羊ヶ丘)
播種
月日
越冬前
葉数
雪腐れ病
程度
穂数
(本/㎡)
全重
(g/㎡)
子実量
(g/㎡)
10.9 2.5(10.15) 628 1626 582 100
10.21 1.5(10.28) 773 1592 584 100
11.11 -(積雪下) 673 1342 536 92
12.6 -(積雪下) 745 1477 584 100
1.23 -(積雪下) 717 1423 592 102
越冬前葉数の( )内は発芽した日

第2表  根雪前播種した春播コムギ(ハルユタカ)の収量
土壌 播種期
年月日
施肥量
(N)
耕うん
処理
穂数
(本/㎡)
全重
(g/㎡)
子実重
(g/㎡)
千粒重
(g)
1穂
粒数
出穂期
(月日)
赤かび病
被害
子実蛋白
含量(%)
羊ヶ丘 91.5.5 12 10R 411 767 376 100 39.5 23.0 6.15 12.5
90.11.20 4-12 10R 692 1228 576 154 40.9 20.3 6.3 11.0
4-12 チゼル 751 1383 638 170 40.2 21.1 6.3 10.2
北野 92.4.21 12 10R 487 1304 541 100 38.8 29.6 6.24 11.2
91.11.19 4-12 10R 775 1327 585 109 38.2 19.8 6.10 8.7
4-12 チゼル 750 1399 624 115 39.7 21.0 6.10 8.3
美唄 92.4.28 16 10R 535 1163 473 100 33.1 26.6   11.4
91.11.21 4-12 10R 644 1386 587 124 36.7 25.2   10.0
4-12 チゼル 589 1341 593 125 37.2 27.2   10.3
1)N施肥量は播種期−融雪後のN㎏/10a
2)10Rは、深さ10㎝ロータリ耕、チゼルはチゼル耕
3)出穂期は出穂始め

11.成果の活用面と留意点
(1)特に排水が悪い水田跡には適用しない。水田の輪換初年目畑であるので、水稲収穫後、圃場の表面
 排水には十分配慮する。
(2)道央の雪の多い地帯に適用する。
(3)本試験では種子消毒、雪腐れ病の防除はしていない。
(4)チゼル耕は稲わらの搬出は必要ない。

12.残された問題とその対応
(1)根雪前播種された春播コムギの越冬生理の解明および越冬率の向上
(2)根雪前播種は多収に伴い、子実蛋白が低下する傾向にあるので、蛋白含量の向上対策も含めた施肥
 法を確立する必要がある。