成績概要書(2002年1月作成)
研究課題:テンサイそう根病抵抗性の検定法とDNAマーカーによる選抜       
担当部署:中央農試 農産工学部 遺伝子工学科
協力分担:
予算区分:受託(国費)
研究期間:1996〜2001年度

1.目的
 テンサイそう根病は、てんさいの根重、根中糖分を著しく低下させる土壌伝染性の
ウイルス病で道内の約20%の圃場が汚染されており、今後もその拡大が危惧されている。
本病の発生地帯は、抵抗性品種の導入以外に実用的な対策はない。
 てんさいは2年生でかつ自家不和合性作物であり、1年生の自殖性作物に比べ育種法が
複雑である。そこで、テンサイそう根病抵抗性品種育成の効率化を図るため、精度の高い
検定法を開発するとともに、育種作業の中でテンサイそう根病抵抗性を選抜できる
DNAマーカー開発を目的に試験を行った。


2.方法
供試材料:北海道農業研究センター育成系統「NK263」および「シュベルト」
抵抗性検定:グロースチャンバー内で育苗したテンサイにウイルス(BNYVV)を保有する
Polymyxa betaeの遊走子を接種し、24時間後に殺菌剤により二次感染を抑制した。
接種後10日目にエライザ法により一次感染を確認後、細根を取り除き移植し育苗した。
その後30-40日目に
エライザ法により新たに伸張した細根中のウイルス濃度を検定した(図1)。
DNAマーカー解析:RAPD分析法によって解析を行い、その情報を基に連鎖地図を作成した。


3.成果の概要
1)「NK263」197個体を用いて抵抗性検定を行ったところウイルス濃度には明確な差が見られ、
抵抗性個体が120、感受性個体が77であった(図2)。本検定法によって、「シュベルト」の
交配後代について抵抗性検定を行ったところ、判定結果と期待値は非常によく一致し、
本検定法の精度の高さが確認された(表1)。
 これまでの圃場検定では、検定時期や検定部位によってウイルスの検出率が異なり、
精度は十分でなかった。しかし、本検定法によってテンサイそう根病抵抗性遺伝子を正確に
判定できるようになった。

2)現在の抵抗性品種は全てHolly由来の抵抗性遺伝子Rr-1を有する。Rr-1と同じ連鎖群にある
マーカーを用いて「NK263」について連鎖解析を行ったところ、抵抗性と連鎖関係のあるマーカーは
見いだされなかった。したがって、「NK263」のもつ抵抗性遺伝子は、Rr-1とは異なる新しい遺伝子で
あることが明らかとなった。

3)選抜したマーカーと「NK263」の抵抗性の遺伝子型をもとに連鎖解析をしたところ、図3に示す
地図が作成できた。もっとも強い連鎖はOPD18-1000(D18)のマーカーで14.3cMであった。
OPD18-1000マーカーによる判定と抵抗性検定法の結果が一致した個体は、抵抗性個体群では
105/120で88%であった(図2)。DNAマーカーによる抵抗性選抜は、精度は完全ではないが、
短期間に多くの材料について検定でき、育成途中の個体の検定も可能であるなどの利点があり、
テンサイそう根病抵抗性品種の育成に有用である(表1)。
 なお、OPD18-1000の断片の塩基配列情報から作成した抵抗性遺伝子を判定するための
プライマー(RR2)は特許出願予定である。



図1 室内検定法の概略



図2 「NK263」におけるOPD18-1000の遺伝子型とエライザ値



図3 テンサイそう根病抵抗性遺伝子の連鎖地図
D18:OPD18-1000, Rgene:抵抗性遺伝子


表1 テンサイそう根病抵抗性検定試験の比較


4. 成果の活用面と留意点
 1)テンサイそう根病抵抗性の判定には、今回開発した室内抵抗性検定法が活用できる。

 2)新たに見いだされた「NK263」に存在するテンサイそう根病抵抗性遺伝子は、親系統の遺伝資源として
活用できる。また、本抵抗性遺伝子の検定には、開発したDNAマーカーが利用できる。


5. 残された問題点
 テンサイそう根病抵抗性遺伝子の単離