農業研究本部

コムギにおける異型発生の遺伝機構
第2報 秋播小麦「ホクエイ」に出現する異型の特性

長内 俊一、楠 隆、後藤 寛治

北海道立農試集報.6,52-67 (1960)

 本報では、秋播小麦「ホクエイ」に出現した異型の特性について、1957年から1959 年にわたる若干の実験結果によって次のような知見がえられた。 

1.長稈型異型を稈長についてT型のほかに、N型より5㎝から10㎝高く、T型との中間を示すM型と、N型より10㎝程短稈なD型、稈長以外の形態的形質から N'型を区分した。これらはいずれも、自殖個体によつてえられ、次代検定によって確認された。
2.N型から発生した異型を、稈長以外に穂型、芒、帯白性、葉色、稈の強さなどの形質によって分類し、T型24、M型l9、N'型9、D型3、計55種類を得た (第1表)。
3.多発系統の後代からも、同様な分類によってT型18、M型20、N'型15、D型2、計55種類をさらに追加し(第2表)、合計110種類の異型が得られた。
4.多発系統は稈長以外の形態的あるいは生理ないし病理的形質に対しても多くの変 異を示し、mutabilityの高いことが認められた。
5.出穂期や秋播性程度についてoriginalな「ホクエイ」に遺伝的変異性が存在し、 T型異型では一層豊富であった(第3表、第2図)。さらにこれらの形質と稈長 の間には、polygenicな正の連関が認められた(第4表、第4図)。
6.T型異型の中には、きわめて秋播性の高いものから、中間型ないし春播型に近い系統が含まれており(第3図)、この原因については、組合わせ親品種の特性と育成環境から、組合わせ当初の変異性が後代にも維持されることの可能性を説明した。
7.実用形質に関して異型の比較試験を行ない量的形質についても変異性が認められた。一般にT型異型は低収の傾向を示したが、多発系統に由来した1系統とほかの1系統には、N型よりも多収で粒質のすぐれたものが見出された(第7表)。
8.鴻巣、盛岡、北見の3地域で、異型の特性と発生頻度を比較した。出穂期や稈長に見られた地域間の差は(第5図、第8表)、T型、N型の秋播性程度の差と地域 の環境条件のちがいによって説明された。T型個体の発生率に対してもT型の発現力を抑制する要因が、暖地の環境の中に存在することが暗示された。
9.異型の種類と自然突然変異について、2、3の論議を行ない、低頻度でおこる無 芒→長多芒、褐ふ→白ふ、葉色における濃緑→鮮緑の変化は、遺伝子突然変異によって生じたものとした(第9表)。また穂型、短少芒、帯白性のように発生頻度の高い形質に対しては、稈長の場合と同様に突然変異を活性化する遺伝子の存在も暗示されるが異型個体の中には、いくつかの形質に異型の特性をあらわすものがあって、これらの発生原因はきわめて複雑となった。しかしながら多発系統の遺伝機構、あるいは易変性の遺伝様式を解明することが、異型の発生原因を解く 鍵であることが考えられた。


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