【普及奨励事項】
玉ねぎ新畑に対する熔燐多用効果
道立中央農業試験場(化学部・稲作部)
農務部農業改良課

・ 目的
 玉ねぎの栽培地帯は一般に河川流域の肥沃な沖積土に限られており、かつ、近年、市街地周辺農地の宅地化に伴い玉ねぎの作付面積が増加の傾向にあるが、この場合、玉ねぎ畑としての新畑では3〜4年の連作以降でなければ満足な収量が得られない現状である。従って新畑における低収の原因とその改良対策について検討を加えようとしたものである。

・ 試験方法
 1. 道立中央農業試験場、化学部
  1) 新畑の低収要因の解析
   玉ねぎの栽培年数が15年以上の経年畑と近接した直播区と移植区を設置し、その生育収量、養分吸収と訴状肥沃度の差異を比較した。
  2) 熔燐質肥料の多用による新畑の改良対策
   直播及び移植両系列に、1.標準区、2.P2O55kg/a区、3.10kg区、4.15kg区、5.20kg区、6.25kg区、7.畦加150kg/a、共通施肥量は、両試験地共N1.2kg、P2O51.5kg、K2O1.0kg/a
 2. 稲作部
  亜泥炭土壌の玉ねぎ3年目連作土で実施
   試験区…P2O5 0.2kg(標準)5kg、10kg、20kg、30kg/a施用し、当年及び2年目にはP2O5区以外の区にはP2O520kgを各区一定量の施用とし、持続効果の検討を行った。
   栽培法…移植 45×15×15cmのチドリ植(複条)
   品種……札幌黄
 3. 農業改良課
  1) 第1日目−堆肥3t/10a、N10〜15kg/10a、K2O15kg/aを共通とし、P2O512kg/10a、,60kg/10a、120kg/10a、240kg/10aを過石で基肥として全面施用し、直播及び移植により生育収量につき調査(昭和39〜41年)
  2) 2〜3年目−区を折半し、くり返し施用のもと、P2O5をNの3倍及び5倍量とするものを設け、直播及び移植により生育、収量につき比較(昭和40〜41年)
  3) 試験場所−札幌(元町・篠路)、真狩(2)、当別、岩見沢、三笠、滝川(2)、美瑛(2)、北見の8ヶ所、12圃場

・ 試験成果の概要
 1. 北海道立中央農業試験場、化学部
  1) 新畑の低収要因解析
   ① 経年畑に対して、新畑における玉ねぎの初期生育及び鱗茎の肥大化は極めて不良で、収量は経年畑の30%前後である。
   ② 新畑の養分吸収量は経年畑の1/2程度で、特にP2O5の濃度が低く、その吸収量が極めて少なく、かつ鱗茎部への移行状態も最も悪い。
   ③ 新畑土壌は酸性が強く、活性のアルミが多く、可給態P2O5は経年畑の50mgに対して20mg以下で少なく、特に作土と心土との肥沃度の差異は大きい。
   ④ 新畑における玉ねぎの生育及び球根不良の要因は土壌P2O5の供給力とP2O5吸収状況の不良性に基因する。
  2) 燐酸質肥料の資材的施用による新畑の改良対策
   ① 改良資材として新畑にP2O5を多施することによって、土壌中の可給態P2O5及び置換性石灰の増加と相埃って玉ねぎのP2O5吸収量が著しく増加し、初期生育の促進と鱗茎の肥大化を良好にする。
   ② 収量面においても、施用1年目では最高40%、2年目の連用で30%、残効でも25%前後の増収を示した。
   ③ P2O515〜20kg/a程度に相当する過石の施用が必要と判断された。
 2. 稲作部
  施用当年及び2年目(持続効果)共に初期活着、生育は良好でその傾向はP2O5量多い程良好であった。しかし、2年目は8月の豪雨により帯水を見たので収量、球茎分布に相当影響したものと考えられる。球肥大の時期もP2O5量の多い程良好で100kg/10a施用以上は特に明らかであった。従って青立歩合もP2O5100kg/10a以上では皆無であった。
 収量では両年共にP2O5200kg/10a施用が最高を示し球茎分布割合では標準(P2O550kg/10a)に比し、大球では200kg/10a以上施用で約2倍、中球では初年目は約5割、2年目は同程度、小球では初年目約4割、2年目は約8割となり、P2O5多用により明らかに球肥大に関係している。また、商品価値としてもP2O5施用量増加により良質となることが認められた。
 跡地土壌では、PHは100kg/10a施用が高く所調中高となり、Y1も施用量増加につれ低下した。
 3. 農業改良化
  1) P2O5施用量と玉ねぎの生育、収量の間には密接な関係がみられた。P2O5の少ない(12kg)区では従来いわゆる新畑でみられたように生育は遅延し、不整になるだけでなく、青立株が発生しやすく収量品質が低下したがP2O5量の増加(60〜240kg)につれて生育は早まり、整一になり、生育経過も正常化し、青立株は急激し、品質、収量は向上し、P2O5240kgは12kgに比べ直播は162〜1093%、移植は154〜267%で極めて顕著な増収効果を示し、いわゆる熟畑に比べ遜色のない生育、収量を示し、極めて顕著な熟畑化効果がみられた。
  2) 洪積、沖積、火山性土、泥炭地など各種土壌条件の普通畑、水田において一様に顕著な効果がみられたことにより、道内のかなりの地域で同じ方法で、水田や畑を急速に玉ねぎ畑として熟畑化することが可能なものと思われる。
  3) 2〜3年目はくり返し大量施与する必要はなくNの3〜5倍量を基準にすればよい。

・ 主要成果の具体的データー
 1. 北海道立中央農業試験場、化学部
  1) 新畑の低収要因解析
項  目/
区  別
a当
収量
(kg)
鱗茎平均
1個重
(g)
直播・新畑区 141 125
 〃 ・経年畑区 611 191
移植・新畑区 222 126
 〃 ・経年畑区 677 197

項  目/
区  別
PH
(H2O)
置換性
CaO
(m-e)
石灰
飽和度
(%)
Truog-
P2O5
(mg)
活性
AI2O3
(mg)
新畑  作土 4.65 19.1 65.7 17.9 14.1
 〃   心土 5.95 18.5 68.3 8.5 9.0
経年畑 作土 6.05 21.4 76.0 50.8 5.4
 〃   心土 6.20 21.0 73.2 47.9 7.1

  2) 燐酸質肥料の資材的施用による新畑の改良対策
項  目/
区  別
a当収量(kg) トルオーグ法P2O5(mg) 置換性CaO(m-e)
1年目 2年目 1年目 2年目 1年目 2年目
残効 連用 残効 連用 残効 連用
標 準 区 325
(100)
294
(100)
302
(100)
21 18 18 17.5 17.3 17.5
P2O55kg/a区 358
(110)
315
(107)
334
(111)
37 32 50 19.2 19.4 20.4
 〃 10 〃 428
(132)
330
(112)
342
(113)
60 42 78 22.4 20.2 23.6
 〃 15 〃 449
(138)
346
(117)
378
(125)
97 61 130 23.1 20.7 26.9
 〃 20 〃 462
(142)
268
(125)
389
(129)
122 78 160 25.2 21.1 27.3
 〃 25 〃 472
(145)
367
(124)
404
(134)
144 100 189 27.9 22.3 28.0
畦  15 〃 417
(128)
304
(103)
317
(105)
22 16 17 19.9 19.4 18.1

 2. 稲作部
  1) 収量比率
項 目/
区 名
稔重 屑(箇数/a)
40 41 40 41 40 41 40 41 40 41
1. 無燐酸 75 51 117 92 127 118 91 90 108 284
2. 標 準
(P2O520)
100
(209.0)
100
(48.7)
100
(107.6)
100
(107.4)
100
(22.9)
100
(56.0)
100
(339.5)
100
(212.1)
50 321
3. P2O5 50 129 177 80 108 83 76 113 115 42 234
4.  〃 100 141 159 74 115 87 84 116 117 8 184
5.  〃 200 188 191 62 111 38 79 138 121 0 179
6.  〃 300 188 208 54 111 26 62 135 120 0 346
  注) 表中( )内数字はkg/a

  2) 跡地土壌の性状
項目/
区名
PH Y1 P2O5(mg)
H2O Kcl トルオーグ法 吸収係数
1 4.55 3.90 12.0 10.6 1052
2 4.40 3.80 11.9 16.3 1008
3 4.75 4.00 7.7 21.2 1097
4 5.00 4.30 3.8 30.4 1155
5 4.70 4.05 5.5 40.4 1104
6 4.95 4.15 4.1 61.7 1148

 3. 農業改良課(初年目)
場 所 作型 年次 10a規格内収量(t) 増収率
(対1区)
 
1区(12kg) 2区(60kg) 3区(120kg) 4区(240kg)
札  幌 直播 40 0.32 2.42 3.47 3.58 1093
篠  路 41 0.12 0.56 2.65 3.19 2658 水田
真狩(1) 40 0.33 0.73 0.84 1.01 162
 〃 (2) 41 0 0.06 0.21 1.23 1237以上
美瑛(1) 40 0.45 0.64 1.17 2.30 507
 〃 (2) 41 2.67 3.37 3.60 3.25 135
札  幌 移植 39 2.50 3.24 3.63 3.86 154
篠  路 41 1.85 2.75 4.41 4.51 244 水田
滝川(1) 40 3.18 4.46 5.45 6.16 194
 〃 (2) 41 1.99 2.85 4.36 5.32 267
三  笠 40 4.31 4.44 4.58 4.94 114
真狩(1) 40 2.30 2.69 2.65 4.37 190
 〃 (2) 41 0.03 0.46 1.63 1.30 4809
当  別 40 2.51 0.55 3.17 2.92 126
岩見沢 41 2.53 2.76 3.27 3.86 150
北  見 40 2.45 3.64 3.90 4.00 163

 (2〜3年目)
場所 作型 年次 P2O51年目のくりかえし P2O5札幌30kg、滝川45kg
1区 2 3 4 1 2 3 4
札幌 直播 2年目 3.40 100 102 107 102 96 87 99 102
3 〃 3.14 100 116 117 112 103 83 96 102
札幌 移植 2 〃 4.66 100 99 106 94 101 93 97 98
3 〃 4.50 100 101 106 103 117 101 84 97
滝川 2 〃 4.39 100 101 100 108 95 102 96 94

・ 奨励又は指導参考上の注意事項
 1) 玉葱畑としての新畑では土質の如何をとわず燐酸の多用は顕著な効果が見られた。しかし余りの多用は、鱗茎部の肥大は早い反面、葉部の生育量が劣り、やや凋落的な様相を示す。
 2) 燐酸の適量は培地の燐酸濃度、土壌条件によっても異なるが、初年目の直播では160〜250kg/10a、移植では120〜200kg/10aとし、2〜3年目は直播の場合N施用量の3〜5倍量、移植の場合はN施用量の3倍量を一応の基準とし、4年以降は慣行量(窒素の1.5〜2.5倍量)とする。
 3) 堆肥3〜4t/10aを前年秋に施用し、またPH6〜6.5を目標に前秋に酸性を矯正しておくとよい。
 4) 燐酸資材としては過石単用が優ったので、過石を主体に考える。
 5) 新畑での栽培当初は移植を主体に考える。