【指導参考事項】

紙筒移植栽培のてん菜に対する施用窒素形態の効果 北海道農業試験場畑作部火山灰土壌研究室

・　目的
　塩安は発芽および初期生育に著しい障害作用を及ぼすことがあるとされているが、紙筒移植によるてん菜栽培においては発芽障害の問題は回避し得ると考えられるので塩安を含めた硫安、尿素およびチリ硝石配合の効果を明らかにし、合理的肥料形態の資料を得ようとするものである。

・　試験方法
　(39年)　移植栽培のてん菜における各種窒素形態の効果を3段階のN施用レベルにおいて検討した。
　(40年)　移植栽培のてん菜に対する窒素肥料として硫安、塩安、尿素を使用する場合のチリ硝石併用効果を検討した。
　(41年)　移植栽培のてん菜に対する窒素肥料としてチリ硝石を併用する場合の硫安、塩安、尿素の施用効果を検討した。

・　試験成果の概要
　(39年)　頸葉収量は各肥料間に差は認められなかったが、菜根収量は尿素＞硫安＞塩安の傾向で、塩安系列は施用量の増加とともに減収の傾向を示した。しかしN8kg/10aの段階では塩安も硫安に匹敵する効果が見られ、低レベルでは硫安、尿素なみに安全に使用しうる可能性が認められた(39年度は異常気象年であり試験結果も平年とやや異なる可能性も考えられる。)
　(40年)　頸葉収量は硫安、尿素の各系列に比し塩安系列はややまさったが、菜根収量は各系列とも大差が認められなかった。またチリ併用の効果は各系列ともチリ割合の高い程、菜根収量は高い値であった。
　(41年)　草丈、頸葉収量は40年と同じく塩安系列が高い値を示し、菜根収量は39年と同じく尿素＞硫安＞塩安の傾向を示したが、塩安系列と硫安系列の差は大差あるものでなく、また本試験では39年の結果と異なり塩安系列もN施用量の増加とともに増収した。

・　奨励又は指導参考上の注意事項
　十勝乾燥統火山灰土壌におけるてん菜に対する本試験で、移植栽培における各種窒素肥料の効果を検討した結果、全般的に地上部の生育収量は塩安が硫安、尿素にまさる傾向を示し、菜根収量は尿素＞硫安＞塩安の傾向であった。しかし発芽、初期生育に障害を及ぼすことがいわれている硫安もチリを併用した40年は直播においても硫安と大差なく、単用の場合も41年の移植栽培では硫安に比してむしろ高い菜根収量を示し、また可製糖分率も塩安が他に著しく低い効果も認められず、経済的に有利な塩安肥料が紙筒移植栽培のてん菜に硫安、尿素なみに安全に利用できることを認めた。
　ただ、本試験からは塩安を単用した直播栽培に対しては論ずることはできないが、39年は異常年とはいえ塩安系列単用では施用量の増加により移植栽培においても減少していることでもあり、直播栽培における塩安の単用は考慮を要する。
　なお、塩安のこの程度の施用で、塩素が飼料価値としての家畜に及ぼす影響や、製糖歩止まりには、いまのところ悪い影響はないものと考えられる。

・　主要成果の具体的データー
　(39年)処理区分(第1表参照)、供試品種(導入2号)、共通肥料P₂O₅20(過石)、K₂O10(硫加)、MgO5(硫苦)、栽植密度：畦巾10cm×株間20cm、試験規模：1区3.6m(6畦)×5m＝18m²、12処理×3連＝36区
　(40年)処理区分(第2表参照)、供試品種(ポリベータ)、供通肥料P₂O₅20(過石)、K₂O12(硫加)、MgO6(硫苦)、P₂O₅(硼砂)0.5kg/10a、栽植密度：畦巾55cm×株間25cm、試験規模：1区2.2m(4畦)×5m＝11.0m²14処理×4連＝56区
　(41年)処理区分(第3表参照)、供試品種(ポリベータ)、供通肥料P₂O₅25(過石)、K₂O15(硫加)、MgO8(硫苦)、P₂O₅(硼砂)kg/10a、栽植密度：畦巾55cm×株間25cm、試験規模：1区2.2m(4畦)×5m＝11.0m²16処理×4連＝64区

　第1表　39年度

N用量(kg/10a)	収量(kg/10a)		菜根 重比	根中 糖分 (%)
	頸葉	菜根
硫安　　8	2506	3287	94	16.97
〃　　12	3734	3494	100	16.45
〃　　16	4173	3512	101	15.59
塩安　　8	2750	3234	93	17.74
〃　　12	2753	3164	91	16.42
〃　　16	4342	2781	80	15.72
尿素　　8	3062	3497	100	16.98
〃　　12	3763	3580	102	16.36
〃　　16	4170	3543	101	16.23
硫安　6：6チリ	3309	3824	109	〃
無　　窒　　素	1204	2096	60	〃
硫安　6：6チリ※	4722	3475	99	16.42

　第2表　40年度

N用量(kg/10a)	収量(kg/10a)		菜根 重比	根中 糖分 (%)
	頸葉	菜根
硫安　12：0　チリ	2677	4659	100	19.42
〃　　9：3　 〃	2357	4980	107	18.30
〃　　6：6　 〃	2469	5203	112	18.51
塩安　12：0　 〃	2839	4755	102	18.00
〃　　9：3　 〃	2913	5053	108	17.62
〃　　6：6　 〃	3296	5287	113	18.64
尿素　12：0　 〃	2332	4646	100	18.29
〃　　9：3　 〃	2566	5052	108	18.31
〃　　6：6　 〃	2391	5594	120	18.18
硫安　 6：6　 〃※	2753	4119	88	17.92
塩安　 6：6　 〃※	3033	4139	89	17.02
尿素　 6：6　 〃※	2734	4193	90	1764
無　　　窒　　　素	846	2273	49	17.65
〃　　　 ※	774	1869	40	17.84

　第3表　41年度

N N用量(kg/10a)	収量(kg/10a)		菜根 重比
	頸葉	菜根
硫安　6：4　チリ	4144	4446	100
8：4　 〃	4609	4958	111
10：4　 〃	5287	4643	104
12：4　 〃	5310	4942	111
塩安　6：4　 〃	4669	4388	99
8：4　 〃	5390	4692	106
10：4　 〃	6069	4598	103
12：4　 〃	6496	4838	109
尿素　6：4 　〃	4179	4816	108
8：4　 〃	4690	5211	117
10：4　 〃	4854	5062	114
12：4　 〃	5166	5279	119
硫安12：0　 〃	4053	4193	94
塩安12：0　 〃	5159	4484	101
尿素12：0　 〃	3983	4646	104
無　　窒　　素	1485	2024	46

　　※　直播栽培