【指導参考事項】
牛肺虫子虫検査法に関する試験成績 滝川畜試 衛生科 (昭和42〜43年) |
・ 目 的
牛肺虫の生前診断は糞便内に第1期子虫を検出することが最も確実な診断法である。子虫の検査法は従来Baermann法およびCoffin氏法が行われていたが、家畜農試上野技官によりBaermann法を改良した遠心管内遊出法が考案され、従来の方法に比して極めて良好な子虫の検出率が得られるようになった。しかしながらこの方法は、本道のように大頭数の集団において検診を行う場合には迅速性に問題がある。そこで牛乳用過紙(ミルパップ)を用いて迅速性おいび実際に則しての検査法を設定せんとした。
・ 試験方法
1. 糞便包装材料としてのガ−ゼとミルパップの比較
2. 遊出温度を10・25および37℃とした場合の比較
3. 遊出時間を3・6・16および24hとした場合の比較
4. Baermann法Coffin氏法、渡辺氏法および硫酸亜鉛浮遊法と本法の比較
5. 糞便採取時間9.00、12.00、15.00および18.00の比較
6. 糞便保存温度を4・25および37℃として日数の経過による小虫遊出数の比較
7. 可検便の採取部位を糞表面、中心および混合したものとの比較
8. 遊出容量内の尖底遠沈管、精液管および中試験管の比較
9. 糞便量を2・3および4gとした場合の比較
10. 遊出操作前処理として軟便および下痢便に対する乾燥オガ屑の混入。普通便の細切した場合の比較
・ 試験成果の概要
1. ガ−ゼとムルパップは遊出子虫数においては害を認めなかったが、ミルパップの方が操作が簡易でしかも沈渣に混入物が少なく鏡見が容易であった。
2. 遊出温度は25℃が最適と認められた。
3. 遊出時間は16時間すなわち1晩程度が最適である。
4. 本法は明らかに従来の方法より子虫数および検出率ともに優れていた。
5. 糞便採取時間は特別に定める必要はない。
6. 保存温度は4℃とし、4日まで保存可能である。
7. 子虫数の多い側では可検便表面に子虫は多く存在するが、かなりバラツキがあり、糞便混合後叉は糞の各所より採取する。
8. 遊出容器は尖低遠沈管が優れていた。
9. 糞便量は2・3および4gの間に遊出子虫(Lpg)では差を認めなかったが、操作上3gが適当である。
10. 軟便および下痢便の場合は乾燥オガ屑を混入することが、普通便の場合は細切することが遊出子虫数を多くする。
・ 主要成果の具体的デ−タ−
糞便包装材料、温度および時間についての遊出子虫数の比較および統計学的検討は次のようであった。
ガ−ゼとミルパップ沈渣の比較は次のとおりであった | ||||||||||||
10℃ | 25℃ | 37℃ | ||||||||||
時 間/ 包装材料 |
3h | 6h | 16h | 24h | 3h | 6h | 16h | 24h | 3h | 6h | 16h | 24h |
ガ−ゼ | ++ | +++ | ++++ | ∞ | +++ | ++++ | ∞ | ∞ | ++++ | ++++ | ∞ | ∞ |
ミルパップ | + | + | ++ | +++ | ++ | ++ | +++ | ++++ | +++ | +++ | ++++ | ++++ |
・ 普及指導上の注意事項
1) 残存虫体数の対照群に対する減少率はA・B及びC群で各々64.0、94.2及び99.7%で感染2週間でほぼ95%以上の駆虫効果を有することが認められた。
2) 可検便の排量は糞便をよく混合し3gを排量する。
3) 軟便及び下痢前にはオガ屑を適当量混合する。
4) ミルパップの上部は特に閉じることなく開放したままの方が検出率が高い。
5) ミルパップは使用後水洗乾燥すれば10回は使用可能である。
6) 沈殿物が多い場合は10〜25℃の水に沈渣を再び投じ3〜6時間静置した后検査を行う。
7) 鏡下に見られる子虫は常に牛肺虫子虫とは限らず、消化管内線虫子虫(特にストロンキロイデス属)の他まれには土壌線虫も見られることがあるので以下の点に注意して鑑別することを要す。
(1) 体長300〜360uでやや体幅が広い。
(2) 体内の無構造。
(3) 子虫体の前1/3を除いて無数の黒色顆粒が認められる。
(4) 運動が緩漫である。
(5) 尾部が太く切れている。