【指導参考事項】
場所・科名  北海道立十勝農業試験場、農業機械科
課題名  傾斜地における大型作業機の適応化に関する試験(作業方法の組立)
試験年次  昭和44年〜46年

・ 目 的
 傾斜地牧草の機械収穫上、平地用機械の斜面適応化を図り、牧草の利用目的に即応した作業方式の検討を行う。

・ 試験方法
試験区別
試験期日 昭和44年7月2・3・4日 昭和45年6月15・16日 昭和46年10月21日
試験場所 北見市若松町 北見市若松町 士幌町新田牧場
供試機 1. MF135トラクタ 1. MF135トラクタ 1. F1880フォレ−ジハ−ベスタ
       (自走型) 
2. ゼトア3511トラクタ 2. F3000トラクタ
3. 6フィ−トモア− 3. フォレ−ジチョッパ−
  (イセキ千フィ−ト)
2. クロップキャリア−
     (4輪ワゴン)
4. ジャイロ型テッダ− 4. ハイエレベ−タ−
 (東洋農機TFA−45、最大36°)
5. バルト型テッダ−
 最小地上高 1:335mm
          2:220mm
5. 小型四輪車 3. フォ−ドスパ−4トラクタ 
6. トレ−ラ
試験条件 草種 レッドクロ−バ
チモシ−
オ−チャ−ド
レッドクロ−バ
オ−チャ−ド
チモシ−
草丈 69.4cm、90.4cm 105cm、56cm 72.4cm、81.0cm
収量 2.4ton/10a 5.5ton/10a 1.6ton/10a
圃 場
傾斜度 
15〜20度 13〜17度 平均9度 最大13度
試験要領 乾牧草の収穫調整を行うが、
特に重心位置の異なるトラクタ2
機種とモア−、テッダ−との組合
せで、斜面における適応性の究
明を行う。
組立て作業における並進走行の
難易搬送車の斜面走行、排出時
のマッチング、エレベ−タ−の能率
等の諸点について検討する。
サイレ−ジ用牧草収穫方式の簡略
化と機動性の面から自走型ハ−ベ
スタを対象にして、斜面走行について
検討する。
調査項目 1. トラクタ、作業姿勢 1. 並進作業性能 1. 作業機姿勢
2. 刈取精度、能率 2. 作業限界傾斜度 2. 施回性能
3. 反転効果 3. 搬送性能 3. 刈取登降板性能


・ 試験結果
 Ⅰ) (1) トラクタ自体の斜面走行は重心位置の低い方で比較的良好で、刈取作業でも表1に示す如く安定した、さらに刈取作業能率ははスタンダ−ドで1.15ha/aと若干の効果が認められた。これは廻行、トラブル時間が小さいことに起因する。斜面での刈取は通常のトラクタでも16〜17度迄可能である。
    (2) トラクタ重心位置差によるテッダ−の斜面適応性は明らかでなかった。しかし図1の通り乾草促進作用については機種間で、ジャイロ型が優り、表、下層とも水分の減少が著しいことから、斜面では放てき型が適している。
 Ⅱ) (1) 刈取作業については、傾斜度16度近辺迄可能であったが、チョッパ−装着トラクタの操縦性、連携動作、損失量等の点を考慮して、一定速度を保ちながら並進作業を行うには、13度程度が作業の限界である。また随搬車の積載量が増加すると登板時の連携作業が乱れるため、損失量が増大する。さらに降板でも走行が不安定で、下向廻行時に転倒の危険性が生じた。
    (2) 刈高、刈巾は図2の通り傾斜度が大になると刈残し量が多少増し、逆に刈巾は若干減少する傾向がある。
    (3) エレベ−タ−の搬送能力は1時間1人当り4〜5tonで、供給、搬送損失量率は2〜8%であった。
    (4) これら組作業における所要時間を表5に示したが、総面積56aを4人で延4時間35分で処理したことになる。これに対して慣行方式では5人で9時間10分を要し、対比すると本方式は約半分の時間で作業可能。
 Ⅲ) (1) ハ−ベスタ単体およびワゴン牽引時の等高線走行は速度が大になるとハ−ベスタの動的機体偏角が増加する。図3に示した如く単体では7度以下であるが、ワゴンを牽引した場合、また積載量が3600kg(約半載)では10〜14度になり、多少下方移動を認めた。しかしこの傾斜程度では走行上問題はない。またワゴンの斜面適応性については牽引率の違いによる差が明らかでピックアップ装置で静的偏角が高くなった。
    (2) ワゴン牽引時の刈取は登降板ともに可能であるが、積載量が増加して半載以上になると登板で駆動輪スルップ率が大きくなり、定速度が機体出来ない。半載13度で登板不能である。またピックアップ装置付ではワゴン牽引だけでも難しく、半載では9.5度が登板限界である。
    (3) 斜面での施回はピックアップ装置付で行ったが、U型、△型ともに良好である。ただしU型の片ブレ−キ施回はやや困難である。
 Ⅰ 表1 トラクタ作業機姿勢
作 業 名 刈取作業 反転作業
供 試 機 6フィ−トモア− ベルト型
テッダ−
ジャイロ型
テッダ−
トラクタ S S LC LC LC S LC
圃場傾斜度 前進方向 2.3 2.3 0 0 0 0 0
直角方向 16.8 16.8 19.9 19.9 18.9 21.4 23.1
トラクタ
駆動輪スリップ率
山側 (%) 19.1 15.3 9.5 8.0 10.5 20.1 3.1
谷側 (%) 26.2 23.0 13.4 7.9 7.2 20.1 2.9
作業速度 (m/s) 1.56 1.71 1.16 1.10 1.38 2.10 1.63
トラクタ
姿勢
前輪操舵角 21.5 10.0 5.3 1.0 3.5 18.0 11.5
機体偏角 8.0 7.5 4.5 1.8 6.0 9.0 8.0
機体傾斜度 20.0 23.0 21.5 20.5 18.0 23.0 23.0
作業巾 (m) 1.63 1.47 1.85 1.85 2.34 4.76 4.90
  注) S1MF135(最小地上高 335mm)、LC:Z3511(220mm)



                    図1 機種別反転効果

  表2 刈取作業能率   圃場傾斜度:15〜17度

供試
トラクタ
処理
面積
(ha)
作業
速度
(m/s)
トラクタ駆動輪スリップ率 所要時間 (sec) 総時間
(sec)
能率
(hr/h)
登板 降板 等高線 実作業 回行 トラブル
停止
S 0.251 1.41 R 26.2 2.4 17.2 64.7 112 212 97.1 0.93
L 14.7 3.4 24.6
LC 0.233 1.60 R 22.0 0.4 10.7 54.2 94 92 72.8 1.15
L 25.5 1.0 6.7

 Ⅱ 表3 フォレ−ジチョンパ−刈取性能
試験
NO
圃場
傾斜度
トラクタ 作業
速度
(m/s)
スリップ率
(%)
トラクタ
前輪
操舵角
機体
偏角
刈巾
(cm)
刈高
(cm)
変速 エンジン
(rpm)
3 13.0 2 1800 1.01 3.1 9.8 3.2 1020 8.4
4 13.6 2 1800 1.30 3.0 4.7 3.0 1020 8.5
5 14.0 2 1800 0.94 3.2 15.0 5.8 902 13.1
6 15.0 2 1600 0.72 4.5 13.0 6.5 852 10.8
7 16.0 2 1600 0.71 5.0 17.8 5.1 848 12.6



               図2 圃場傾斜度と刈取巾、刈高

   表4 エレベ−タ−搬送性能

処理
人員
搬送
コンベア−
速度 (m/s)
総重量
(kg)
所要
時間
(sec)
損 失 (kg) 時間当り
搬送量
(ton/h)
1人時間
当り処理量
(ton)
供給部 搬送部 率 (%)
2 1.07 263 83 11.0 5.6 6.0 11.4 5.7
3 1.00 300 106 8.4 5.0 8.0 10.2 3.4
3 0.89 583 185 6.0 3.0 9.0 10.4 3.5
4 1.07 368 82 2.6 8.4 2.0 16.2 4.1

   表5 本方式と慣行方式の比較
体系別 人員 処理
面積
(a)
刈取
(分)
運搬
(分)
調整
トラブル
(分)
サイロ
諸込
(分)
延総
時間
10a当り
処理時間
(分)
1) フィ−ルドチョッパ−
2) トレ−ラまたは四輪車
3) エレベ−タ−
5 56 82 76 17 100 275 49
1) 6フィ−トモア−
2) トレ−ラまたは四輪車
3) カッタ−
26 50 75 拾取
も含む
250
50 180 795 4時間
39

 Ⅲ 表6 等高線走行性能
試験
NO
ハ−ベスタ
アタッチメント
および
トラクタ
ワゴン
積載量
(kg)
走行
速度
(m/s)
駆動輪
スリップ率
ハ−ベスタ
後輪
操舵角
ハ−ベスタ− ワゴン
静的
偏角
静的
偏角
動的
偏角
1 S 1.20 15.1 0.5 6.8
2 S 0.66 2.2 1.5 3.6
3 S 0.58 4.9 1.0 5.0
4 S 1.46 5.4 10.5 7.5
5 S 1.31 5.1 1.3 6.2
6 S 0 0.65 0.8 4.5 11.3 1.0
7 S 0 0.60 6.6 6.3 10.0 1.0
8 S 0 1.36 11.0 6.2 12.5 0.5
9 S 0 1.45 6.3 0.3
10 S 3600 1.41 3.2 0.5 14.0 1.3
11 S 3600 1.27 6.7 0 13.7 1.6
12 P 3600 1.44 10.2 7.0 10.0 5.0
13 P 3600 1.25 8.8 7.5 12.0 6.8
14 スパ−4 3600 1.27 0 0 1.5
15 スパ−4 3600 1.21 6.8 5.0 0 1.8
  S:シックルバ−タイプ、P:ピックアップタイプ


           図3 等高線走行時のハ−ベスタ−機体角度

   表7 斜面における施回性能
施回方式 傾斜度 外側
(m)
時間
(sec)
施回
状況
U
ブレ−キ無 7.5 10.87 23.5
片ブレ−キ 8.0 9.36 21.7 やや困難
△型 8.0 10.60 20.8



             図4 等高線走行時のワゴン機体角度

   表8 登降板性能
ハ−ベスタ
アタッチメント
登降板
の別
ワゴン 傾斜度 走行速度
(m/s)
スリップ率
(%)
走行
状況
有無 積載量 (kg)
S 8.1 0.59 7.4
10.3 0.67 0
150 8.8 0.55 13.0
150 7.4 0.66 -5.0
3600 11.2 0.51 17.5 やや良
3600 11.5 0.55 -10.0 やや不良
P 7.7 0.95 4.8
9.2 0.66 15.0
0 9.0 0.50
3600 9.5 不能
3600 9.5 0.71 -15.5 やや不良

   表9 供試機仕様
ハ−ベスタ
自重
(kg)
シックルバ−
アタッチメント
(kg)
ピックアップ
アタッチメント
(kg)
ワゴン
容量
(m3)
自重
(kg)
3500 927 353 12.5 1667