【指導参考事項】
米質向上のための栽培環境改善試験成績
1.作季移動と米質向上
(昭和45〜47年) 北海道立上川農業試験場 水稲栽培科

・ 目 的
 移植時期および出穂期などの移動に伴って、異なった温度、光条件下の登熟や米質が問題となる。そこで登熟期の温度が米粒の発育と米質・群落水稲に対する保温・補光処理の登熟性と収量・米質および移植時期を異した場合の穂揃性と米質に及ぼす影響を検討する。

・ 試験方法
 試験Ⅰ (ポット)45・46年 イシカリ・ささほなみ
L17℃/11℃ ├┼┼┼┼┼┤
M23/17 ├……………┤
H29/23 │=====│
H1L ├┤====│
L1H ├┤…………│
L1M ├┤…………│
L2M │…├┤……│
L3M │……├┤…│


 試験Ⅱ (圃場)45・46年 イシカリ
区別 処理 共通
無処理    20.2 10.2 106
畦巾30cm
株間 20cm 10cm 10cm
植本数 2 2 6
遮 光 カンレイシャ
補 光 アルミ反射板
補 温 ビニ−ルハウス
冷 風 ク−ラ−
 試験Ⅲ (圃場)47年
  移植時期:5月13日、5月25日、6月15日
  品   種:きよかぜ、はやゆき、イシカリ、しおかり、そらち、マツマエ
  苗の種類:稚苗、普通苗、熟苗

・ 試験結果の概要
 Ⅰ(1)生体玄米粒重は前半L<M<Hであるが、後半は逆転してL>M>Hとなり、最高値はLで50日前後、M・Hで30日前後に認められた。
   (2)Hの米粒の発育は早いが、粒は小さくなり、死米・腹白が多く、一方Lは米粒の発育が遅く、未熟粒・腹白が多く、ともに米質は低下した。Mは粒の発育と米質の面で最適と思われた。
   (3)「ささほなみ」の粒の発育は特に弱勢籾において「イシカリ」より劣り、1穂内の粒揃も劣った。品種間差は低温よりも、中高温条件で認められた。
   (4)白米のアルカリ崩壊度、米でんぷんのヨ−ド呈色度はステ−ジの影響よりも、処理温度の影響が強く、高温程低い値であったが、品種間差はほとんど認められなかった。また異なる温度を組合せるとこれらの指数は中間的な値を示し、低温や高温の処理時期の影響は登熟の後期よりも前期、あるいは中期の影響が強かった。
   (5)以上の結果から、登熟気温が平均値として低い場合でも、一時的な高温かその前期に発現していれば品質低下は改善されうる場合があると思われる。
 Ⅱ(1)保温区は日中5〜10℃の昇温で25〜35℃となり、日射量の低下も極小で、収量・登熟・米質は向上した。補光区は日射量が4割高く、収量・登熟・米質は良化したが、増収はしまかった。遮光区は日射量が4割低く、収量・登熟・米質が劣った。冷風区は日中断続的ではあるが5℃前後の低下で収量・登熟・米質が劣った。
   (2)光温度条件の改善によって収量・品質ともに向上したが密植した場合も収量・品質はともに向上した。しかし遮光による減収と品質低下は密植の方が著しかった。
 Ⅲ(1)完熟粒歩合と正の相関々系がみられ、また登熟気温800℃以下になると急激に減少する。
   (2)整粒歩合は完熟粒歩合と高い正の相関々系があり、整粒歩合が70%以上となるためには登熟気温750℃以上必要と推察された。
   (3)被害粒歩合は、穂揃いに影響され穂揃いが悪いと被害粒が多くなる。
   (4)穂揃性は品種・苗質・移植時期によって異なる。「きよかぜ」は悪く「マツマエ」「そらち」はよい。苗令の進んでいるものほど悪く晩種すると悪くなる傾向がみられた。
   (5)穂揃性は主稈と2次分けつの平均出穂日の差と関連性をもつ。

・ 主要成果の具体的デ−タ
 第1表 登熟期の温度と米質(45年)
29日目 45日目 65日目
整粒 青米 死米 腹白 整粒 青米 死米 腹白 整粒 青米 死米 腹白
L 62 63.7 30.1 0 (79.3) (11.8) 8.9 2.8 78.6 16.8 4.6 29.4
M 61.4 29.5 9.1 0 98.3 0.8 0.8 0.4 98.0 0 1.9 2.6
H 91.2 1.5 7.3 6.7 93.3 0 6.7 18.8 88.3 0 11.8 34.1

 第2表 登熟期の温度と米質(45日目)(46年)
品種 処理 整粒
(%)
青米
(%)
死米
(%)
半米死
(%)
ねじれ
奇 形
アルカリ
崩壊度
ヨ−ド
呈色度
40日間
平均温度



H 73.4 0.0 0.0 12.3 14.3 5.25 200 26.0
H1L 72.2 0.0 6.3 10.7 10.7 5.65 200 17.0
L1H 69.6 0.0 0.0 15.2 15.2 6.45 213 23.0
M 90.0 0.0 0.0 0.9 9.1 6.35 224 20.0
L1M 82.5 0.0 0.0 9.0 8.3 7.35 235 18.5
L2M 80.7 0.0 2.1 3.4 13.8 7.85 240 18.5
L3M 85.6 0.0 0.0 0.5 13.8 6.85 237 18.5
L 45.9 20.0 0.0 2.0 2.0 8.45 240 14.0




H 55.3 0.0 0.0 23.2 21.6 5.10 201 26.0
M 75.4 0.0 0.0 10.9 13.6 6.50 226 20.0
L 32.6 3.0 4.1 27.4 23.7 8.35 240 14.0

 第3表 光・温度環境と米質(46年)
区別 全重
(kg/a)
玄米重
(kg/a)
収量比 不授精
(%)
登熟
(%)
1.8mm〜
千粒重
(g)
米質(粒数%) 等級 出穂期
(月日)
整粒 青米 その他
20.2無処理 135.9 45.2 (100) 41.1 53.6 20.9 54.9 19.0 26.1 5上 8 .3
10.2  〃 144.9 56.2 (100) 30.5 58.9 21.3 62.6 10.8 26.5 4中    .2
10.6  〃 149.9 59.6 (100) 23.4 70.0 21.4 66.8 7.8 25.4 4上    .1
20.2遮 光 126.5 44.1 98 46.5 45.9 20.8 55.8 21.2 23.0 5上    .3
10.2  〃 138.1 53.0 94 30.4 52.4 21.2 68.0 12.0 20.0 4下    .2
10.6  〃 134.7 55.6 93 24.7 64.0 21.2 66.7 8.9 24.4 4中    .1
10.2補 光 150.5 56.9 101 31.6 60.0 21.7 71.8 7.2 21.0 4中    .2
10.2保 温 145.7 59.6 106 32.5 61.5 21.4 71.6 9.4 19.0 4中    .2
10.2冷 風 136.5 48.0 85 51.5 21.3 54.0 24.4 21.6 5上    .2


 第1図 成熟期の完熟粒歩合と登熟気温(47年)


 第2図 主稈とⅡ次分けつの出穂差と穂揃性(47年)