【指導参考事項】
晩秋用放牧草地に対する施肥試験
(昭和45年〜昭和47年)  根釧農試 草地科

・ 目 的
 放牧期間延長手段の一つとして、秋の終牧時期を延長するために、8月中〜下旬に準備する晩秋放牧草地(ASP)に対する施肥管理法を確立する。

・ 試験方法
 1、3要素試験およびちっ素用量試験(昭45〜47)
   草種:オ−チャ−ドグラス、チモシ−、ラジノクロ−バなど主要6草種。
   施肥(8月中〜下旬の追肥区別):3要素区と各要素欠除区(5区)
   ちっ素は、10a当たりN 2,4,6kgの3区(マメ科草は半量)
   晩秋利用時期:10月上旬、11月上旬
 2、カリ用量試験
   オ−チャ−ド単播草地に7月中旬あるいは9月上旬に、10a当たりK2Oを0,4,8,16kgを追肥し、秋10月下旬〜11月上旬に刈取調査。
 3、試験区面積 1区7.5㎡、2連、刈取調査。


・ 試験成果の概要
 1、晩秋利用草地に対する8月中〜下旬の施肥効果は、イネ科草にはちっ素、マメ科草にはカリの影響が大きかった。
 2、イネ科草にN4〜6kg/10aを施用すると、晩秋の草量、株や根などの貯蔵器官の重量、秋の茎数(とくに幼分けつ)などを高めた。しかし、貯蔵器官中のTACを低めることがあり、冬枯が多くなる場合があるが、秋の茎数増加があるため、春の再生茎数、1 番草収量に与える影響は少ないか、むしろプラスとなった。マメ科草に対するちっ素施用はマイナスであるがN2kg/10a程度では影響が少なかった。
 3、カリ施用効果は草種や年次により異なったが、イネ科草ではK2O8kg/10a程度の施用で、貯蔵器官の割合やフラクトサン含量を高めて、越冬性に好影響を及ぼすと推定された。マメ科草に対するカリ施用は、晩秋および翌春の草量を増加させた。
 4、リン酸・施用効果は、草種、利用時期によって異なったが、一般に影響は少なかった。
 5、晩秋利用草地に対する施肥効果は草種によっても若干異なり、とくに、オ−チャ−ドグラスやメドウフェスクではちっ素施用により晩秋草量は確保されるが、冬枯をうけやすい。一方、チモシ−やケンタッキ−ブル−グラスでは、晩秋草量はやや少ないが、冬枯が少なく、翌春の再生量も多い。
 6、利用時期では、越冬性の面から11月上旬が有利であった。

・ 主要成果の具体的データ
 表1、3要素試験およびちっ素用量試験
  (3要素区またはN2kg/10aに対する割合)
試験の種類 3要素試験 ちっ素用量試験
最終利用時期 10月上旬 11月上旬 10月上旬 11月上旬
施肥区別 -N -P -K -N -P -K N4 N6 N4 N6
晩秋利用時
の草量
イネ科平均 26 84 97 36 104 96 141 184 148 200
マメ科平均 120 112 80 94 90 68 95 93 97 107
Or 29 73 73 23 88 86 121 178 154 258
Ti 23 77 95 25 101 87 192 237 149 173
翌春の
再生草量
イネ科平均 52 77 78 39 104 102 141 194 133 133
マメ科平均 107 75 49 101 77 67 89 89 116 115
晩秋の貯蔵器官重量
(昭46)
Or 73 104 91 53 79 88 114 103 129 113
Lc 83 94 118 76 102 94 78 93 90 79
面積当りTAC含量
(昭46)
Or 68 92 97 58 94 102 139 137 118 119
Lc 62 84 121 59 102 98        
晩秋立毛数 Or 68 100 108 49 83 102 179 195 212 223
 〃 幼分けつ Or 13 86 22 64 103 109        
  注)Or:オ−チャ−ドグラス、Ti:チモシ−、Lc:ラジノクロ−バ

 表2、カリ用量試験
施肥時期(再生期間) 7月中旬(7/14→8/17) 9月上旬(9/5→10/28)
K2O用量(kg/10a) 0 4 8 16 0 4 8 16
風乾物収量(kg/10a) 169 201 205 216 140 118 128 129
同上比(%) 100 119 121 128 100 84 91 92
全量に対する貯蔵
器官の割合(%)
風乾物量 41 35 43 41 60 59 62 68
K2O吸収量 24 18 22 18 37 44 43 45
TAC中のフラクトサン割合(%) 51 50 54 52 69 65 82 80

・ 普及指導上の注意事項
 1、晩秋利用のため草地は8月中〜下旬から準備する。このとき、イネ科主体の草地ではN4〜6kg/10a、マメ科草の多い草地ではN2kg/10a程度、K2Oはいずれも8〜10kg/10a程度施肥するとよいと推定された。
 2、晩秋の草地利用は10月上旬を避けて、10月下旬〜11月上旬が望ましい。
   (昨年度指導参考事項)
 3、晩秋利用草地に対する施肥に当たっては優占草種に留意すべきでとくに、例年冬枯の大きいところのオ−チャ−ドグラス、メドウフェスク似たいしては注意すべきである。チモシ−、ケンタッキ−ブル−グラスでは、晩秋草量はやや少ないが、冬枯の危険性が少ない。
 4、適用範囲は道東の火山灰草地一円とする。