【指導参考事項】
総地力増進を基盤とする畑作物の高度多収技術の確立に関する試験
 Ⅰ、新鮮有機物の分解過程と跡地土壌に及ぼす影響
(昭和44〜47) 北海道立中央・十勝農試

・ 目 的
 新鮮有機物のC/N比について種類別、地域別に整理するとともに分解の難易を規制する要因について検討し、さらに、実際圃場における分解過程と跡地土壌に及ぼす影響を調査し、施肥改善・地力増進方策確立のための基礎資料を得る。

・ 試験方法
 A、新鮮有機物の分解の難易
  生として中央農試で室内実験としてすきこみ材料の性質、分解の難易と材料の性質、分解に及ぼす土壌、地湿、N添加の影響を調査する。
 B、圃場における新鮮有機物の分解過程と土壌理化学的の変化
  中央農試では、道内4試験地での同一麦稈による分解の差異、各種新鮮有機物の分解過程と跡地土壌の理化学性に及ぼす影響、水分環境を異にした場合の分解などについて調査する。
  十勝農試では、各種新鮮有機物の分解過程と跡地土壌の化学性、微生物について、また秋まき小麦稈に対するC/N間節の意義について検討する。

・ 試験成果の概要
 A、新鮮有機物の分解の難易
  1) 新鮮有機物のC含有率は40%前後で、未本科>豆類>根菜類と順次するが、作物間の変異は小さい。N含有率は変異の巾が広いが、その平均値は、てん菜>豆類>馬鈴薯>とうもろこし>麦類と順次し、C/Nは主にN含有率によって規制される。
  えん麦(道央)・秋まき小麦(十勝)のC/Nの地域的変異はかなり高い。
  2) 各種新鮮有機物の分解はC/N比の小さいものほど容易であり、また易分解性Nの多い土壌では少ない土壌でよりも分解が早まり、N添加の効果は易分解性Nの少ない土壌で高かった。また、N固定率は道央地区の土壌では易分解性Nの少ない有珠系b火山系を除いて易分解性Nの多い土壌ほど低くなった。
 B、圃場における新鮮有機物の分解過程と土壌理化学性の変化
  1) 各種材料をビニール網袋に詰め、圃場に埋設し、2ヶ年にわたり残存率とC/N比を測定し、残存率は材料C/Nと関係が深いほかC/Nの推移は秋まき小麦がもっとも高く、てん菜がもっとも低く、他のものは中間に経過した。
  2) 秋まき小麦とえん麦茎葉を用いた長沼、芽室、西別府、訓子府の圃場での同一材料の埋設試験の結果では長沼<西別府<芽室<訓子府順に残存率が高かった。埋設期間において材料のC/N比が30以下になる時期は、えん麦稈は各地とも翌春の5〜6月であるのに対して秋まき小麦稈では翌秋の11月頃であった。
  3) 芽室、西別府、長沼圃場で各種材料をすきこみ、秋まき小麦茎葉については、C/N調節処理をした結果。
  (1) 分解に伴う土壌の無機能Nの固定から再放出への進展は、てん菜顕葉>とうもろこし茎葉>秋まき小麦茎葉とC/Nの低い順に早く、てん菜顕葉はもとっも堆肥に近い無機能N比を代替30W以下にすると良いと思われた。
  (2) C/N比の高い秋まき小麦茎葉は、そのままではかなり長期間、土壌の無機能Nを固定し、長沼では、芽室、西別府土壌より早くに固定Nお放出がみられた。
   この窒素飢餓を防止し、さらに土壌への窒素の附加再放出を図るにはC/N比を大体30W以下にすると良いと思われた。
  (3) C/N比調節は、速効性窒素で行なっても土壌への若干の窒素の附加再放出が認められるが、そのもののC/N比の低いてん菜顕葉、とうもろこし茎葉には及ばず、この点を補うためには緩効性のC/N比調節資材の検討が必要であることを推定した。
  (4) 土壌間の比較では、西別府の方が芽室より秋まき小麦茎葉の窒素固定段階が早くおわり、その各種有機物からの窒素の放出も若干多いように思われた。
  4) 新鮮有機物のすき込みが土壌水分に及ぼす影響をみると粗粒火山性土では明瞭なFPの変化は起らなかったが、長沼沖積土では粗孔ならびに有効水分域の孔がますことにより、無すきこみ区と比べ低FPに推移し、この傾向は分解が不充分な処理の前半で大きかった。  
 無機能Nの消費をみると、多量灌水条件では少量灌水条件より低い値を示す場合が多く、とくにこの傾向は沖積土で目立った。しかし、その程度は新鮮有機物のすきこみによって緩和された。

・ 試験成果の具体的データー
 表1、各種作物茎葉のC/N比
   秋播小麦 えん麦 とうもろこし
長沼 芽室 十勝管内 訓子府 長沼 道央部 芽室 訓子府 長沼 芽室 訓子府
C(%)
(CN)
44.7 40.8 36.5
(5.0)
42.0 43.2 49.8
(3.9)
    39.6 45.3 40.4
N(%)
(CN)
0.51 0.43 0.54
(23.9)
0.85 0.56 0.56
(26.4)
0.29 0.84 0.77 0.86 1.18
C/N 88 95 72 49 77 95     47 42 35

  菜 豆 小 豆 馬鈴薯 甜 菜 1年目
アカク
ローバ
堆 肥
長沼 芽室 訓子府 長沼 長沼 訓子府 長沼 芽室 訓子府 長沼 長沼
C     40.3 38.5   37.4 35.4 41.8 35.8 43.0 27.2
N 0.78 0.69 0.93 0.93 0.75 2.09 1.61 1.42 2.43 4.24 2.33
C/N     42 36   18 21 32 15 10 12

 図1 えん麦稈の分解に及ぼす各種条件


 図2 同一秋播小麦稈分解の地域差異


 表2、新鮮有機物すきこみ後の土壌無機能Nの消費

すき込み 昭44 昭45 昭46
種類 時期 9月 10月 11月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 4月 5月 6月 8月




ムすきこみ 0.73 0.85 0.96 0.28 0.35 0.63 0.50
てん菜 Ⅰ、30 0.60 1.28 1.25 0.37 0.76 0.77 0.60
小豆 Ⅳ、30 0.75 0.75 0.95 0.29 0.46 0.82 0.58
玉蜀泰 Ⅸ、30 0.54 0.76 0.93 0.32 0.62 1.08 0.65
えん麦 区、1 0.78 0.81 0.83 0.45 0.68 0.87 0.74
秋播小麦 0.59 0.74 0.95 0.31 0.51 0.74 0.61
仝+C/N 0.83 0.70 1.1 0.26 0.69 0.82 0.69


(乾
燥)
ムすきこみ 0.72 0.78 1.21 0.67 0.83 0.68 1.09 0.8 0.79 0.60 0.62 0.56
堆肥 Ⅴ、9 0.86 1.32 1.87 1.21 0.85 1.1 0.81 0.67 0.76
てん菜 Ⅹ、20 0.64 0.77 1.19 1.76 1.19 1.63 1.3 0.86 0.67 0.67 0.76
玉蜀泰 0.72 0.64 0.78 1.03 0.78 1.34 1.14 0.78 0.75 0.70 0.68
秋播小麦 Ⅸ、3 0.53 0.54 0.45 0.50 0.68 0.54 0.89 0.58 0.71 0.61 0.61 0.62
仝+C/N 5.6 5.85 4.48 0.71 0.94 0.78 1.26 0.89 0.83 0.82 0.58 0.82
西


(湿
性)
ムすきこみ 1.35 1.07 2.39 0.84 1.11 1.21 1.9 1.74 1.44 1.81 1.13 1.32
堆肥 Ⅴ、9 1.57 2.12 2.37 2.64 5.57 3.02 2.77 1.67 1.22
てん菜 Ⅹ、18 0.54 0.77 1.13 1.58 2.08 3.39 3.66 4.01 2.24 1.64 0.99
玉蜀泰 0.84 0.82 0.93 1.42 1.45 23 2.87 3.14 2.68 1.15 1.20
秋播小麦 Ⅸ、2 0.58 0.26 0.72 0.75 0.89 1.18 2.32 2.08 1.48 1.31 0.94 1.08
仝+C/N20 5.27 4.36 7.77 0.82 1.14 1.39 2.2 1.76 1.31 1.23 0.96 0.94

 表3、灌水量・土壌を異にした場合の茎葉すきこみが土壌水分に及ぼす影響



有機物処理 週別のPF平均量
1 2 3 4 5 6


無すきこみ 2.32 2.28 2.23 2.37 2.40 2.30
秋小麦稈すきこみ 2.23 2.15 2.13 2.16 2.23 2.23
無すきこみ 1.80 1.72 1.84 2.03 2.11 2.11
秋小麦稈すきこみ 1.66 1.65 1.67 1.86 2.04 2.10





無すきこみ 1.77 1.79 1.78 1.92 1.93 1.75
秋小麦稈すきこみ 1.79 1.79 1.78 1.92 1.93 1.75
無すきこみ 1.70 1.74 1.76 1.79 1.73 1.72
秋小麦稈すきこみ 1.65 1.73 1.74 1.82 1.76 1.74