【指導参考事項】

水田転換畑への畑作物導入に関する試験　(転換3ヶ年の総括) (昭和45〜47年)　　　　　　　　 　　上川農試土壌肥料科・畑作科

・　目　的
　水田作の不安定地帯を対象として、水田転換畑に導入する畑作物栽培上の支障制限要因について検討すると共に想定される根菜型、そ菜型、豆作型及び飼料型転換様式に対応する多収栽培技術体系の確立を図らんとする。

・　試験方法

1)　試験地　　；上川農試畑作科水田圃場(水田歴20年)、礫質土壌
2) 　試験処理；
A　転換様式……そ菜型(玉葱)、根菜型(甜菜)、豆作型(小豆)、飼料型(牧草)
B　技術対策……①　水位処理　−　地下水位40.60cm………………3年処理 　　　　　　　　　　　　　　②　石灰処理　−　石灰飽和度40、60、80%　………1年処理 　　　　　　　　　　　　　　③　耕深処理　−　普通耕(15cm)、心土耕(30cm)…2年処理
C　対照普通畑 　　　　　　　　処理区数はA×B×Cの組合せ65処理
3)　耕種法及び施肥量(kg/a)
作物 栽培法 N P K Mg 前作 甜菜 移植 1.5 2.5 1.2 0.5 甜菜〜小豆 小豆 点播 0.3 1.0 0.7 0.3 小豆〜甜菜 玉葱 移植 1.5 2.5 1.2 0.3 3年連作 イネ科 散播 0.6 1.0 0.6 0.2 3年目 マメ科 〃 0.3 1.0 1.0 0.3 〃
イネ科……オ−チャ−ドグラス 　　マメ科……赤クロ−バ−

・　試験成果の概要
　1)　水田転換畑における各作物の収量は普通畑に比して3ヶ年とも増収を示しており、その増収率は玉葱＞小豆＞甜菜＞オ−チャ−ドグラスの順に大きい。
　2)　地下水位の影響は作物の種類、年次によって若干異なり、水位40〜60cmの範囲では、玉葱、甜菜、赤クロ−バ−の3作物は何れも水位の低い方が、一方、小豆は転換初年目のみ水位の低い条件が、2年目以降はオ−チャ−ドグラスと同様に逆に水位の高いもの程、その生育、収量が良好である。
　3)　転換畑に対する心土耕による犁底盤破砕の効果は、深根性の甜菜、赤クロ−バ−では認められたが、他の作物では収量面に反映する度合いが小さい。しかし乍ら、土壌的にはその効果の持続性が充分認められる。
　4)　転換畑に対する石灰施用による増収効果は各作物とも転換初年目において最も大きいが、その後次第に低下する傾向を示し、石灰施用量としては、玉葱で石灰飽和度40%相当量、他の4作物では石灰飽和度60%相当量后が妥当だと思われる。
　5)　可給態N量、乾土効果は転換3年目においても、普通畑に比して転換畑の方が高く推移しているが、年数経過に伴ってN的地力が次第に減少する傾向を示し、且、炭カルの多施はその減少度合を助長する。
　6)　転換畑土壌は普通畑土壌に比して絲状菌、放線菌が少なく、しかも、絲状菌の中でTrichodermaが少ない特徴を示す。
　7)　更に、転換畑における甜菜、小豆、玉葱の生育収量は土壌中のEX-cao含量との関係が密接であった。
　8)　転換畑土壌の3相組成、土塊分布及び透水係数などの土壌物理性は転換2年目までは普通畑より劣るが、3年目では両畑の間に殆ど差が認められぬ。

・　主要成果の具体的デ−タ−
　1.　水田転換畑における畑作物の収量性(3ヶ年平均)

区　　別			玉　　葱			甜　　菜			小　　豆			オ−チャ−ドグラス		赤クロ−バ−
			収量 (kg/a)	比 (%)	1球 以上比 (%)	根重 (kg/a)	比 (%)	根中 糖分 (%)	子実重 (kg/a)	比 (%)	千粒重 (g)	乾草重 (kg/a)	比 (%)	乾草重 (kg/a)	比 (%)
普通畑			315	100	53.8	519	100	17.0	262	100	122	142	100	85	100
転換畑			446	142	75.2	611	118	16.3	332	127	139	148	104	104	123
転 換 畑	水 位	40cm	431	100	74.4	592	100	16.2	336	100	138	150	100	102	100
		60cm	462	107	76.0	630	106	16.4	328	98	140	146	97	107	105
	石 灰 飽 和	40%	465	100	81.2	576	100	16.7	340	100	141	146	100	103	100
		60%	436	94	74.9	626	109	16.2	339	100	139	156	107	105	102
		80%	438	94	69.5	631	110	15.9	318	94	136	142	98	105	102
	耕 深	普通耕	448	100	77.4	587	100	16.4	333	100	138	149	100	103	100
		心土耕	445	99	72.9	634	108	16.2	330	99	139	147	99	106	103

　2.　転換後の年次別収量推移(初年目の収量を100とした値)

区　別	玉　　葱			甜　　菜			小　　豆
	初年目	2年目	3年目	初年目	2年目	3年目	初年目	2年目	3年目
普通畑	100	156	138	100	121	118	100	105	82
転換畑	100	111	148	100	131	115	100	117	116

　3.　土壌科学性の推移

区　　別	層序	PH(H2O)			ex-cao(me)			Truog-p2o5(mg)			乾土効果
		初年目	2年目	3年目	初年目	2年目	3年目	初年目	2年目	3年目	初年目	2年目	3年目
普　通　畑	作土	4.99	5.00	5.67	2.80	4.00	5.91	13.8	24.0	19.3	1.83	2.08	1.90
転換畑〜水位60cm	〃	6.35	6.15	6.26	6.31	6.33	7.89	18.0	21.8	11.7	6.67	3.77	3.11
転換畑〜水位40cm	〃	6.25	6.05	6.42	6.10	6.03	8.41	14.0	19.1	10.0	9.01	4.11	6.69

　第1図　乾土効果とEX-caoのの関係


　第2図　小豆、甜菜の収量と土壌中のEX-cao含量の関係

・　普及指導上の注意事項
　1)　排水良好な乾田を畑地に転換した場合、多肥性の甜菜などの導入に当っては、石灰及び施肥の適切な施用に留意し、又、小豆では登熟遅延の傾向が認められるので、初霜の早い地帯では早生種の導入が必要である。