【指導参考事項】
外科的手法による結実促進試験
・ 期 間  昭和45〜48年
・ 担 当  道立中央農試園芸部江部乙りんご試験地  小賀野 隆一
        道立中央農試園芸部果樹科           峰岸 恒弥
              〃                     細貝 節夫
・ 予算区分  道単
・ 協力分担  なし

・ 目 的
 近年、老令樹園の更新にともなってデリシャス系の栽植が増大しており、早期多収をはかるために密植が行われている。しかしデリシャスは他の品種よりも結果樹令に達するのが遅く、このため収支相償うまでの経済負担が大きいので、外科的手法を用いて早期に結実の促進をはかる。

・ 試験方法
 供試品種  スタ−キング・デリシャス/ミツバカイドウ8年生 36本/10a植
 試験区  ①対照区:標準的剪定を行う。 ②剥皮逆接区:昭和45年6月中旬、主幹地際50cm上部に幹周の2/3の部分を巾5cm剥皮、これを上下逆にして元の位置にはめる。 ③スコアリング(環状切皮)A区:昭和45年6月主幹地上50cmの部分にナイフでらせん状に2周木質部に達する傷をつける。 ④スコアリング(環状切皮)B区:傷のつけかたを1周するほかスコアリングA区と同様。 ⑤夏期剪定区:6月中旬に新梢を基部から3〜4芽残して剪定する。冬期剪定は対照区より軽く行う。

・ 結果の概要
 ① 外科的処理が幹周、樹高、開張などの樹体の生育に与えた影響は小さかったが、新梢の伸長量が劣り、花芽の形成率が高まり、結実促進の効果は顕著であった。処理効果の著しいものは剥皮逆接、スコアリングAおよびBの各区であり、夏期剪定の効果はやや劣った。
 ② 処理効果の現れ方は、処理当年が最も強く現れ、その効果は経年的に減少し、効果の持続期間は剥皮逆接、スコアリングAおよびBとも処理後3〜4年と推定された。
 ③ 処理当年を含めた4ヵ年間の1樹当り累積収量は、剥皮逆接区が最も多く次いでスコアリングB区、スコアリングA区、夏期剪定区の順であった。

・ 主要成果の具体的数字
 表1 幹周
区 別 樹数
(本)
44年
(cm)
45年
(cm)
46年
(cm)
47年
(cm)
48年
(cm)
対   照 12 28.9 32.9 37.1 41.5 44.6
剥皮逆接 6 32.8 36.2 39.7 43.7 47.2
スコアリングA 6 30.5 34.8 38.5 43.2 46.7
スコアリングB 6 30.5 33.2 36.6 40.2 43.8
夏期剪定 6 31.7 36.0 4.02 44.7 47.7
  注) 1樹平均 地上30cm の幹周

 表2  新梢伸長量
区 別 調査
樹数
46年 47年 48年
A
(cm)
B
(cm)
A
(cm)
B
(cm)
A
(cm)
B
(cm)
対   照 6 27.3 42.7 29.1 39.2 25.3 34.5
剥皮逆接 3 20.9 28.0 24.9 31.2 29.2 39.2
スコアリングA 3 24.2 34.4 30.4 39.9 28.5 37.9
スコアリングB 3       28.7 34.0 26.5 35.1
夏期剪定 3 26.0 39.7 25.2 40.5 21.2 36.1
  注) Aは調査主枝2本を定め、その主枝上の全新梢長。
     Bは樹冠全体における側枝上の最長枝。
     新梢の長さは5cm以上

 表3 新梢伸長停止時期
区 別 調査
樹数
45年 46年 47年 48年
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
停止率
(%)
7月7日 7月22日 8月7日 7月7日 7月23日 8月9日 7月8日 7月20日 8月5日 7月8日 8月7日
対   照 6 3.3 66.7 63.3 2.7 66.9 77.5 49.6 86.2 95.0 81.4 98
剥皮逆接 3 10.0 90.0 96.7 18.2 71.1 86.3 55.8 94.0 97.3 81.6 99
スコアリングA 3 13.3 86.7 100.0 17.3 50.3 73.1 48.6 76.0 96.3 64.9 100
スコアリングB 3 3.3 90.0 100.0 65.5 88.2 86.4 73.2 100
夏期剪定 3 3.3 36.7 63.3 18.2 45.4 67.0 51.5 52.7 90.5 73.2 98
  注) 45年は1樹10本の新梢にラベルを付して調査
     46年以後は、調査主枝2本を定め、その主枝上の全新梢の停止時期の調査

 表4 花芽率
区 別 調査
樹数
46年 47年 48年
調査数 花芽数 割合
(%)
調査数 花芽数 割合
(%)
調査数 花芽数 割合
(%)
対   照 12 1.431 721 50.4 5.033 1.940 38.5 3.201 2.269 70.9
剥皮逆接 6 687 597 86.9 2.540 1.513 59.6 1.552 1.215 78.2
スコアリングA 6 675 612 90.7 2.686 1.085 40.4 1.660 1.305 78.6
スコアリングB 6 743 623 83.8 2.409 1.041 43.2 1.579 1.384 87.7
夏期剪定 6 753 526 69.9 2.748 1.125 40.9 2.690 2.038 75.8
  注) 1. 1区6樹 1樹内の4年枝4本の頂芽 対照区は12樹 区合計
     2. 48年度は外科的処理区各区3樹、対照区は6樹調査。区合計

 表5 収果重量
区 別 樹数
(本)
45年
(kg)
46年
(kg)
47年
(kg)
48年
(kg)
累計
(kg)
割合
(%)
対   照 12 6.8 33.5 21.7 56.2 118.2 100
剥皮逆接 6 14.0 57.7 39.1 63.9 174.7 148
スコアリングA 6 12.4 41.7 22.8 59.4 136.3 115
スコアリングB 6 13.3 48.8 26.1 70.5 158.7 132
夏期剪定 6 7.7 31.9 25.0 67.5 132.1 112

  注) 1樹平均

・ 今後の問題点

・ 次年度の計画(成果の取扱い)
 ① 処理方法は剥皮逆接、スコアリング主幹に1周あるいは螺旋状に2周いずれの方法でもよいが、剥皮逆接は処理方法が面倒であるから実施にあたってはていねいに行う。
 ② 処理対象樹令は5年生程度以上で樹勢が強く、花芽着生、結実不良樹に用いる。
 ③ 剥皮逆接処理に対しては、乾燥防止とそう入樹皮の密着をはかるために、ビニ−ルフィルムを巻きつけ縛っておき、ゆ合組織の形成された時期(50〜60日後)にとりはずすこと。
 ④ スコアリングの傷口には、癒合促進とフラン病防止のために癒合塗布剤を塗布する。