【指導参考事項】
1. 課題の分類
2. てん菜そう根病に対する汚染育苗土壌の熱処理効果試験
3. 期 間  (昭和45〜48年)
4. 担 当  北海道大学農学部、北農試てん菜部
        中央農試病虫部、北見農試
5. 予算区分  道費およびその他
6. 協力分担  日本甜菜製株式会社、北海道糖業株式会社

7. 目 的
 てん菜紙筒移植用の育苗土壌のそう根病発病土壌に対する熱処理による防除効果を明らかにし、実用に供しようとする。

8. 試験研究方法
 (1) 土壌は6mmのフルイを通した湿土を用い、D-D剤は55%を土壌1kgに施用しビニ−ル被覆後ガス抜き処理し、加熱処理は重油バ−ナ−加熱機(商品名 ヘクサペット)を用いて土壌温度73〜81℃(30分後71〜80℃)に保った。栽培は紙筒移植、1区12m23反復である。
 (2) 土壌は沖積汚染土を用い、加熱処理は空気混合蒸気により、所定温度±2℃で30分間処理した。樹皮堆肥(商品名 キノックス)は加熱処理前後に20kg/10a量を施用し、接種は苗立枯病菌類を培養して行った。栽培は紙筒移植、1区11m2で行い、苗調査は5月15日、そう根病調査は8月18日、収穫調査は10月12日に行った。

9. 結果の概要・要約
 (1) てん菜そう根病病土に対する加熱殺菌処理(60〜80℃、30分)の効果はそう根病防除に対し、極めて有効である。
 (2) 加熱方法は空気蒸気混合による低温蒸気処理および直接バ−ナ−による加熱処理で行ったが、特に優劣はなかった。
 (3) 苗立枯病に対する効果も期待出来るが、充分ではないので更に検討を要する。
 (4) 樹皮堆肥など有機物の施用の効果についてもなお検討を要する。
 (5) 以上の結果から、てん菜そう根病病土に対する加熱殺菌処理は65〜75℃で実施し、60℃以上に30分間保つことが有効であり、生育阻害作用もなく、実用に供しうると判断する。

10. 主要成果の具体的数字
 (1) 昭和48年度 北見農試 (北糖)

処理
区別
そう根病発病率 Polymyxa寄生程度 草丈
(7月3日)
(cm)
根重
(10月15日)
(kg/10a)
根中糖分
(10月15日)
(%)
7月25日 10月11日 5月29日 10月11日


無処理 66.7 76.7 PL〜+ ++ 30 2.720 12.1
D-D 1ml 1.7 0.0 - - 33 4.810 13.7
加熱 (秋) 1.7 0.0 - + 34 4.760 13.6
加熱 (春) 0.0 0.0 - - 35 4.800 13.2



無処理 100.0 100.0 PL〜+ +++ 20 120 4.8
D-D 1ml 1.0 3.7 - ++ 35 4.990 12.9
加熱 (秋) 0.0 1.7 - - 35 4.740 13.2
加熱 (春) 0.0 0.0 -   35 5.020 13.3

 2) 昭和48年度 北大農学部、北農試てん菜部 (日甜)
処理区別 樹皮堆肥
処   理
接種
時期
苗立枯
病率
(%)
そう根病
発病
(%)
苗生体重
(g/100本)
収穫時根重
(kg/10a)
根中糖分
(%)
無処理 無施用 24.4 100.0 103 2.040 11.2
施  用 24.1 100.0 107 1.940 12.4
施  用 82.5 73.5 87 930 12.6
60℃処理 無施用 12.7 0.0 97 6.200 15.4
前、後施用 3.7 0.0 108 5.930 15.7
前施用 75.3 0.0 98 6.200 15.5
80℃処理 無施用 4.7 0.0 93 7.130 15.7
前、後施用 2.5 0.0 117 6.940 14.7
前施用 48.8 0.0 82 6.110 15.8


・ Polymyxa菌に対する熱処理試験
 1. 試験研究方法
 (1) 供試土壌は沖積病土を用い、加熱は病土200gをポリエチ袋に入れて、温水中に浸して所定温度、所定時間に保ち、処理後は直ちに20℃に下げた。栽培は立枯病防除薬剤を加えてポリエチ製カップ3反復で温室内で行い、播種約2ヶ月後の植物体根部(長さ10mm×5本/個体)をピアネ−ゼ液で染色し、Polymyxa菌の寄生を検鏡した。
 (2) てん菜のPolymyxa菌寄生細根を風乾し、磨砕した懇濁液を所定温度に5分間予浸、10分間処理し、別に用意した高圧蒸気殺菌土壌にてん菜を播種し、同時に温度処理接種源を灌主して接種し、20℃温室で栽培した。調査は播種55日後の植物について観察し、Polymyxa菌については(10mm×20本/個体)細根を検鏡した。

 2. 試験結果
 (1) 昭和45年 北海道大学農学部 (日甜)
処理区別 寄生個体率
(%)
寄生細根率
(%)
備考
無処理 93.3 40.0  
50 ℃、30分間 6.7 1.3  
50 ℃、60分間 6.7 1.3  
52.5℃、30分間 40.0 9.3  
55 ℃、30分間 0.0 0.0  
55 ℃、60分間 0.0 0.0  
60 ℃、30分間 0.0 0.0  

 (2) 昭和46年 北見農試
処理区分 寄生程度 葉部症状 根部症状
無接種 -、-、-、 正 常 正 常
70 ℃、10分間 -、-、-、 正 常 正 常
60 ℃ 10分間 -、-、-、 正 常 正 常
55 ℃、10分間 ++、-、+ やや黄化 やや褐変
50 ℃、10分間 +++、+++、+++、 黄 化 細根褐変
45 ℃、10分間 +++、+++、+++、 黄 化 細根褐変
25 ℃、10分間 +++、+++、+++、 黄 化 細根褐変


・ 熱処理の影響に関する試験
 1. 試験方法
 (1) 供試土壌は排泥土を用い、加熱は重油バ−ナ−加熱機により所定温度30分間処理を行い、1区15m22反覆移植栽培によった。(対照の蒸気処理は65〜90℃、30分間)
   調査は播種60日後の20個体当り風乾重、およびPolymyxa菌の寄生程度を、収穫時に発病と収量と常法によって行った。
 (2) 供試土壌は病土(1)は排泥土、病土(2)は美幌町火山性壌土を用い前者には5%の過燐酸石灰を、後者には2.5%過石と熔燐2.5%を加えた。加熱は蒸気による100℃30分間処理を行い、栽培は温室(書間24〜36℃、夜間14℃)で紙筒育苗し、1区5.4m24反覆で行った。調査は育苗時に白カビ病を50日苗について生育とPolymyxa菌の寄生率を検し、発病調査は生育中期に、収量は収穫時に常法によって行った。


 2. 試験結果
 (1) 昭和47年 北見農試 (北糖)
処理区別 初期生育 Polymyxa菌
寄生程度
発病株率
(%)
根重
(kg/10a)
根中糖分
(%)
葉重
(g)
根重
(g)
無処理 12 5 ++ 19 3.830 13.0
D-D0.5ml (対照) 12 3 - 0 4.190 11.0
蒸気処理 (対照) 11 4 - 0 4.220 13.1
64℃ (水分36.8%) 14 5 - 0 4.610 12.9
77℃ (  〃  ) 16 4 - 0 3.790 12.6
64℃ (水分27.7%) 12 4 - 0 5.160 12.6
77℃ (  〃  ) 7 3 - 0 4.490 13.3
  註、低水分で高温処理は土壌の吸収が悪くなり、初期生育に影響することがある。

 (2) 昭和47年 北大農学部 (日甜)
処理区別 土壌
PH
初期生育 白カビ病
発生程度
Polymyxa
寄生率
(%)
そう根病
(黄化)
発生率
(%)
根重
(kg/10a)
根中
糖分
(%)
草丈
(cm)
根重
(g)
病土 (1) 6.6 12.7 11.1 - 78 76.3 2.590 11.8
同蒸気処理 7.1 9.9 10.9 - 0 0.0 7.300 14.4
病土 (2) 5.9 10.8 13.0 + 14 33.8 6.540 14.6
同蒸気処理 5.6 8.6 6.5 +++ 0 0.0 7.430 14.8
  註、PHが低い土壌を高温処理し、紙筒育苗すると白カビ病(仮称)が発生しやすい。

11. 今後の問題点
 (1) 苗立枯病と同時防除効果の検討
 (2) 再感染防除方法の検討
 (3) 加熱処理方法の経済性の検討

12. 成果の取扱い(指導上の注意事項)
 (1) 加熱土壌は物理性をよくし(フルイを通すなど)湿潤に保つこと。
 (2) 過度の加熱(80℃以上および長時間処理)は土壌の物理性を害し、又、有用微生物を死滅させるので行わないこと。
 (3) 土壌PHが低い場合(5.5以下)には紙筒育苗で白カビ(仮称)発生の可能性があるので注意すること。
 (4) そう根病および苗立枯病に対する育苗技術は守ること。