【指導参考事項】
1. 課題の分類  病害・果樹
2. 研究課題名  リンゴ黒星病薬剤耐性菌の出現
3. 期 間  (昭和48〜50年)
4. 担 当  道立中央農試病虫部発生予察科
5. 予算区分  総合助成経費
6. 分担・協力

7. 目 的
  昭和48年に中央農試で認められたベンツイミダゾ−ル系農薬の防除効果低減の原因を解明して防除対策の資に供する。

8. 試験研究方法
 1) 室内試験  長沼町農試、由仁町および滝川市江部乙町の旭から病原菌を分離し、薬剤添加培地上での生育、薬剤添加素寒天上での分生胞子発芽状況等を調査した。
 2) 圃場試験
  ① 7年生の旭に開花直前の5月22日から防除基準に拠つて7月5日まで5回、各種の防除剤を散布し、効果の比較、再検討をした(3反復)。
  ② 11年生の旭に開花直前の5月22日から防除基準に拠つて落花20日までの重点防除4回を各種防除剤の組合わせで行ない、防除効果を比較した(4反復)。

9. 結果の概要・要約
 1) 農試および由仁産の菌株はトツプジンM、サンメ−トおよびベンレ−トを50ppm〜100ppm含む培地上で生育し、これらを同濃度で含む素寒天上で分子胞子も発芽したが江部乙産の菌株は5ppm以下で生育・発芽が阻害された。
 2) 麦芽エキス寒天上での菌叢の50%生育阻止濃度は耐性菌(農試産、由仁産)では感受性菌(江部乙産)の200〜1100倍におよんだ。
 3) 圃場での防除効果は、前年同様上記3薬剤が明らかに劣った。サイプレックス、スパットサイド、オ−ソサイドおypびダイカモンの効果は安定していた。
 4) トツプジンMの使用回数が多いほど発病は多く、本剤で初期防除をした後、他剤に切り換えても余り効果はあがらない。また他剤で初期防除をしてもその後、トツブジンMを用いると発病は増加した。

10. 主要成果の具体的数字
 1) 薬剤50ppm添加培地(PDA)上での菌叢の生育(20℃15日間培養)
菌 株 トツブジンM サンメ−ト ベンレ−ト 無添加 備 考
産地 株数
農試 10 ++ −発芽せず。
由仁 5 ++ +1個は菌
滝川 5 +++ 直径約5mm

 2) 薬剤添加培地(麦芽エキス寒天)上での菌 の50%生育阻止濃度(ppm)
菌 株 トツブジンM サンメ−ト ベンレ−ト キノンド− サイプレックス
産地 記号
農試 N1−1 153(1100) 44(300) 64(480) 36(3) 40(6)
由仁 Y1−1 74(550) 29(200) 34(250) 25(2) 39(6)
滝川 E1−1 0.13(1) 0.13(1) 0.13(1) 11(1) 0.64(1)
  注1. ( )は対照菌株E1〜1に対する倍数(概数)を示す。
    2. 0.1〜800ppmの14濃度で20℃3日間培養。

 3) 薬剤添加素寒天上での分生胞子の50%発芽阻止濃度(ppm)と発芽管長(μm)
菌 株 トツブジンM サンメ−ト ベンレ−ト 無添加
産地 記号 ppm μm ppm μm ppm μm μm
農試 N1 63 110 53 127 67 115 195
由仁 Y2 98 136 33 139 75 169 225
滝川 E2 5> 28 5> 35 5> 33 211
  注:発芽は5〜500ppm5濃度で調査。発芽管長は0.1ppmの場合を示す。

 4) 防除効果の再検討(旭7年生)
薬 剤・濃 度 病 葉 率 備 考
7月2日 7月17日 8月6日
スパツトサイド 75%×1000 2.2 2.7 4.1 散布月日 5月22日
サイプレックス 65%×1500 2.2 2.9 4.6        6月 4日
オ−ソサイド  80%×800 3.6 7.3 9.8        6月13日
ダイカモン    70%×500  7.0 5.5 11.9        6月24日
ポマゾ−ルF  80%×600 15.0 13.1 21.8        7月 5日
キノンド−    40%×800  17.5 13.8 29.5 初発病   6月 6日
ベンレ−ト    50%×3000 *31.1 *41.5 *45.9 *印はベンツイミダゾ
ゾ−ル系農薬。
トツブジンM   70%×1500     *38.8 *47.9 *60.2
サンメ−ト    50%×2000 *41.8 *48.0 *63.5
対 照 無 防 除 41.3 39.1 65.1

 5) 防除剤の使い分けによる効果(旭11年生)

花 期 落花後 30日
以降
病葉率 病果率 備 考
直前 直後 10日 20日 7月1日 7月22日 8月21日 10月2日
1 トツブジンM通年9回→ 24.6 47.1 63.3 92.1 使用濃度は前表の通り。
2 トツブジンM
キノン
ドー
3回


オーソ
サイド
2回
22.7 45.4 47.1 60.9
3 トツブジンM オ−ソサイド 27.4 36.9 31.7 47.4
4 トツブジンM ダイカモン 17.0 34.3 27.8 28.3
5 トツブジンM サイプレツクス 15.4 20.6 11.6 21.4
6 サイプレツクス トツブジンM 2.8 8.6 19.6 22.2
7 サイプレツクス オ−ソサイド 1.9 7.7 8.6 9.1
8 サイプレツクス ダイカモン 2.5 6.4 5.3 4.3
9 スパツトキイド オ−ソサイド 3.1 10.6 9.0 15.8
10 スパツトサイド ダイカモン 3.6 6.5 5.5 7.0
11 対 照 無 防 除 37.6 52.8 68.4 80.6

11. 今後の問題点
 1) 薬剤耐性菌の分布状況の把握
 2) 薬剤耐性菌の密度低下方法の検討

12. 次年度の計画・成果の取扱い
 1) 道内各地の49年度多発病菌から菌を分離して薬剤耐性の有無を検討する。
 2) 耐性菌の発生地帯では防除剤の選択に注意する。
 3) 薬剤の連用防止の指導を徹底する。