【指導参考事項】
1. 課題の分類  豚 管理
2. 研究課題名  冬期における肉豚生産性低下の防止法に関する試験
            (冬期における豚の飼養管理技術の体系化に関する試験)
3. 期 間  (昭46〜49年)
4. 担 当  滝川畜試飼養科、経営科、衛生科
5. 予算区分  総合助成
6. 協力分担  なし

7. 目 的
 北海道の養豚は経営の大型化に伴い、冬季の肉豚の飼料効率の低下や舎内環境の悪化に伴なう疾病の多発などの生産性低下が大きな問題となって来た。そこでこれら寒地特有の問題点を解決するために、畜舎環境、飼料給与法および多発疾病などについて解析し、寒地にpける経済的合理性をもった畜舎環境の設定および飼養かんり技術の体系化を図る。

8. 試験研究方法
 (1) 北海道における豚の飼養管理と経営実態
 (2) 寒冷環境が豚の発育に及ぼす影響に関する試験
 (3) 飼育環境と疾病発生に関する試験
 (4) 冬季における飼料給与の合理化に関する試験
 (5) 寒地における豚舎暖房の経済性に関する調査試験
 (6) 豚舎に対する投資水準の経営的評価

9.結果の概要・要約
 (1) 比較的大規模な養豚についての実態調査から、冬季の肉豚の出荷日令の延長や事故損耗の増大が明らかにされた。寒冷対策として飼料の増給がかなり一般的に実施されている。また豚舎の給温も普及しつつあるがその効果は十分でない。
 (2) 豚舎に対する施設投資は府県に比べてやや高いが、寒冷条件を考慮すればむしろ低水準にある。
 (3) 冬季の舎内微気象は、温度7〜11℃相対湿度80〜90%示し、ほとんどの豚舎でアンモニアガスが検出されるなど、低温、高温の状態である。
 (4) 低温環境下で豚の発育は著しく阻害され、5℃の環境温度下では、子豚期および肉豚期の適温(20℃、15℃)より飼料要求率がそれぞれ0.6、0.9悪化する。
 (5) 低温下における床面の湿潤などによる豚体の濡れはさらに発育の遅れを助長する。
 (6) 肉豚の斃死、濁汰率は夏より冬に高く、とくにSEP、ARなどの慢性呼吸器疾患は冬にその発生が高く、病勢の高度なものが多くなる。
 (7) 豚舎の換気不良はSEPによる飼料効率の悪化を助長する。
 (8) 冬季の発育遅延を防止するために飼料を20%程度を増給することによって肥育日数を約20日短縮出来た。
 (9) 動物性油脂を7.5および15%添加して飼料を高カロリ−化することによって、肥育日数それぞれ18および28日短縮され飼料要求率は0.56および1.0低下した。しかし油脂の添加によって枝肉の脂肪割合の増加と脂肪の融点の低下、および不飽和脂肪酸が増加する傾向が認められた。
 (10) 木造腰ブロックコンクリ−ト床の本道における標準的豚舎において、電熱による床面暖房と重油による温風暖房の効果を比較したところ、温風暖房では明らかに舎内温度の保持に効果があり、経済的に有利なことが確かめられたが、床面暖房ではこの傾向が明らかでなかった。
 (11) 道中部における経営体において、夏季と冬季の2回にわたり、構造断熱の度合、材料などから、「ほぼ良好」「中位」「低位=簡易型」の3ランクの豚舎を選定して、肉豚の肥育試験を実施した結果、夏と冬では飼料要求率で0.2から0.3の差となり、これを豚舎建築費の水準に関わる豚舎負担経費と飼料費からみると、夏と冬および「断熱豚舎」と「不完全断熱豚舎」の生産性の差の経済的評価は出荷肉豚1頭あたり1.000円〜2.000円程度と推定され、細菌の養豚経営の収益性水準からみて無視できない額といえる。
 (12) 以上の成績から寒地における肉豚の飼養管理と施設のあり方を示せば以下のとおりである。
   1. 豚舎内の飼育環境は温度10℃以上、湿度85%以下で床面や豚体が湿潤せず一定の換気量が確保されること。
   2. 豚舎の新雪にあたっては単に建築費の低減のみにとらわれず、豚舎環境の保持、とくに断熱換気に十分意を用いること。
   3. とくに寒冷の厳しい地方はおよび現有の豚舎においては、暖房施設、器具の採用が推奨される。
   4. 舎内の温度を保持し得ない場合は、飼料の増給と高熱量飼料の給与が有効であるが、その場合厚脂や脂肪の軟化に注意すること。

10. 主要成果の具体的数字
 (1) 冬季における豚舎内微気象の実態
豚舎数 床面積

(m2)
加熱面積/
100kg体重
(m2)
平均温度 相対
湿度
(%)
CO2
濃度
(%)
NH3
濃度
(PPm)
暖房
換気
外気温

(℃)
舎内温度

(℃)
日較差

(℃)
13 369.6
(160〜778)
9.7
(5.8〜18.4)
-3.3
(-0.1〜-7.2)
10.3
(7.2〜15.6)
6.9
(4.4〜11.3)
83.6
(73〜92)
0.274
(0.085〜0.7
11.2
(0〜20)
暖房7
強制換気 5
     1〜3月の間 1ヵ月間の測定による
     (  )は範囲を示す

 (2) 低温が飼料要求率に及ぼす影響
  温度(℃) 0 5 10 15 20


3.71±0.34           2.78±0.12
      3.44±0.30 2.87±0.21
   3.23±0.12 2.94±0.09
   2.78±0.13 2.73±0.06
推定値 3.763±0.145 3.400±0.145 3.120±0.145 2.887±0.145 2.830±0.006
多重検定                     └─────┴─────┘
                    └─────┘
           └─────┘
  └─────┘


    4.56±0.30     3.68±0.28    
    4.48±0.71 3.88±0.23
推定値 4.658±0.301 4.382±0.301 3.778±0.174
多重検定                     └─────┘
           └─────┘
 
 (3) 低温域における高湿度と湿潤の豚発育に及ぼす影響(仔豚期)
区 分 日増体量 (g) 飼料要求率 区 分 日増体量 (g) 飼料要求率
5℃ 60〜75% 371 3.39 7.5℃ 乾燥区 581 3.11
5℃ 90%以上 383 3.23 7.5℃ 湿潤区 522 3.52

 (4) 季節による肺炎(SEP)、ARの発生比較
   供試
頭数
肺病変(%) AR病変(%) 日増
体重
(g)
飼 料
要求率
++〜++++  胸膜炎 ++〜++++ 
夏 季 146 27.1 46.4 12.1 14.5 39.6 51.8 8.6 624.4 3.1
冬 季 140 12.6 15.4 54.1 18.6 36.1 40.6 23.3 603.2 3.3
             SEP   豚流行性肺炎
             AR 伝染性萎縮性鼻炎

 (5) SEP人工感染豚の発育に及ぼす影響
換気 舎内微気象 前期 (25〜45kg) 後期 (45〜75kg)
日増体量(g) 飼料要求率 日増体量(g) 飼料要求率
6〜14℃  60〜90% 465 3.42 937 2.84
CO2    0.03〜0.6%
不良 5〜13.5℃     95% 398 3.94 883 2.85
CO2     0.5〜0.7%

 (6) 寒冷環境下の肉豚に対する飼料増給と油脂添加の効果
区 分 肥育日数(日) 日増体量(g) 飼料要求量 背脂肪厚(cm) ロ−スの
脂肪割合(%)
不飽和酸(%) 脂肪融点(℃)


対 照 126.5 558 3.99 2.79 33.14 62.16 31.3
10%増 116.0 613 4.02 2.86 33.54 61.70 28.3
20%増 105.7 665 4.06 2.88 35.72 62.82 29.9
保 温 108.0 659 3.50 2.83 32.44 59.65 31.4



対 照 126.6 556 4.09 2.19 27.47 64.9 29.7
7.5% 108.8 647 3.53 2.37 28.98 68.2 27.2
15% 98.2 716 3.09 3.05 33.83 68.6 25.8
保 温 111.8 632 3.62 2.49 28.62 62.0 30.2

 (7) 暖房豚舎の温・湿度の推移


 (8) 暖房効果の試算
区 分 温風豚舎 電熱豚舎
1〜2月 2〜3月 全期 1〜2月 2〜3月 全期
無暖房の総増体重
の減少値
46.90(kg) 228.7 697.7 222.5 ▲16.2 20.63
上記を暖房と同一
レベルにする飼料
追加必要量
2.204.3(kg) 935.4 3.139.7 1.001.3 ▲63.3 938.0
同上の飼料費 158.710円 67.349 226.059 72.094 ▲4.558 67.536
暖房のコスト暖房効果 55.104円 40.043 95.147 33.775  28.452 62.227
103.606円 27.306 130.912 38.319 ▲33.010 5.309
  注:飼料単価kg72円

 (9) 年間出荷頭数1頭当り豚舎負担経費および飼料費                (単位:円)
豚 舎 A B C
費 目 豚舎経費 飼料費 豚舎経費 飼料費 豚舎経費 飼料費
夏 季 1044 13.650 14.694 1.660 14.469 16.129 1.236 14.469 15.705
冬 季 940 14.196 15.136 1.768 15.246 17.014 1.236 14.742 15.978
季節間差 ▲104 546 442 108 777 885 0 273 273
豚 舎 D E
費 目 豚舎経費 飼料費 豚舎経費 飼料費
夏 季 366 13.650 14.016 356 13.790 14.146
冬 季 388 15.064 15.452 400 15.701 16.101
季節間差 22 1.414 1.436 44 1.911 1.955

 (10) 現地肥育試験成績                                (単位:kg)
豚舎 季節 開始
頭数
開始時
平均体重
終了
頭数
終了時
平均体重
平均増
体量
所要
日数
1日平均
増体量
総増
体量
飼料
消化量
飼料
要求率
A 35 14.4 31 97.1 82.7 129 641 2699.3 8090 3.00
30 27.8 30 112.1 84.3 120 703 2530.5 7904 3.12
B 30 23.5 29 83.9 60.4 101 598 1772.6 5635 3.18
31 32.6 31 80.8 48.2 88 548 1495.4 5003 3.35
C 30 24.6 30 84.3 59.7 101 591 1792.4 5706 3.18
29 27.6 28 78.4 50.8 88 577 1407.8 4554 3.24
D 22 15.5 22 95.3 79.8 124 644 1755.1 5256 3.00
20 30.3 20 105.4 75.1 125 601 1503.1 4968 3.31
E 29 21.3 28 101.3 80.0 124 645 2319.8 7018 3.03
30 28.6 29 101.6 73.0 125 584 2138.9 7376 3.45

11. 今後の問題点
 1. 寒地向けの換気計画の策定
 2. 寒冷に対する豚舎構造、暖房、飼料給与の相互関係の検討
 3. 寒地向けの豚舎の建築設計基準の策定
 4. 糞尿処理、管理作業なども含めた総合的な飼養管理体系の確立

12. 成果の取扱い