十勝地方における「とうもろこし」の亜鉛欠乏とその対策に関する試験成績
(道立十勝農試土蔵肥料科)
(昭和47〜50年)
目 的
十勝地方のとうもろこしに生育異常が発生し、品質および収量の低下を招いている。本試験では、その原因を微量要素との関連で調査し、適切なる対策を明らかにする。
試験方法
1.土壌の種類別亜鉛含量調査
2.とうもろこしの生育異常実態調査
(1)生育異常とうもろこし体の養分含量調査
(2)生育異常発生土壌の分析調査
3.とうもろこしの生育異常対策試験
(1)亜鉛欠乏土壌に対する堆厩肥施用効果試験(枠試験)
(2)輪作と亜鉛欠乏発生程度に関する調査(圃場試験)
(3)亜鉛の土壌施用試験(ポット試験)
(4)亜鉛の葉面散布試験(圃場試験)
成果の概要
1.火山性土は、沖積土と比較すると全亜鉛可給態亜鉛含量とも低い。火山性土では、作土および心土を構成する火山灰の可給態亜鉛含量が低く、亜鉛欠乏の発生する条件下にあった。
2.とうもろこしの生育異常障害は、亜鉛欠乏に起因し、褐色火山性土でその発生が著しく、黒色火山性土および沖積土では認められなかった。その症状は、生育初期の第5〜8葉期(6月中〜7月下旬)に葉身の中央部が黄白化。さらに症状が激化すると白色となり、枯死するものもある。
3.亜鉛欠乏症の発生する亜鉛含量の限界値は、土壌中の可給態含量が1.5ppm前後、作物体では第5〜8葉期において15ppm前後と推定された。また、褐色火山性土において可給態亜鉛含量と腐植含量との間に高い相関が認められた。
4.亜鉛欠乏対策は、酪農地帯では堆厩肥5t/10a程度の施用、畑作地帯では適切な輪作体系による有機物管理および堆厩肥の施用による亜鉛の可給化が前提である。しかし、発生が認められた場合には、応急的な処置として0.3%硫酸亜鉛液を100L/10a葉面散布することで症状の軽減および収量の回復が認められた。
主要成果の具体的データ
1.土壌別亜鉛含量
2.土壌型別の亜鉛含量
3.生育異常とうもろこし体の養分含量(第5〜8葉期)
P2O5 % |
Mn ppm |
Zn ppm |
Cu ppm |
P/Zn | ||
農試 | 健全 | 0.71 | 56 | 15.2 | 13.6 | 204 |
異常 | 0.90 | 110 | 9.8 | 17.2 | 324 | |
毛根 | 健全 | 0.60 | 77 | 17.6 | 7.6 | 150 |
異常 | 1.09 | 194 | 13.2 | 20.4 | 356 | |
上士幌 | 健全 | 0.76 | 85 | 20.3 | 7.5 | 166 |
異常 | 1.07 | 158 | 13.4 | 11.4 | 352 |
4.とうもろこしの亜鉛含量
5.生育異常土壌の亜鉛含量
6.腐植含量と可給態亜鉛
7.亜鉛欠乏土壌に対する堆厩肥施用効果
施用量 | 収量kg/㎡ | A-Zn(ppm) | 発生程度 |
1.0(t/10a) | 6.8 | 0.8 | +++ |
2.2.5 | 8.3 | 1.0 | ± |
3.5.0 | 9.3 | 1.5 | − |
4.10.0 | 10.9 | 2.3 | − |
注:−なし、+小、++中、+++多
8.亜鉛の葉面散布試験結果
普及指導上の注意事項
1.十勝地方の地力低下した褐色火山性土において、とうもろこしの亜鉛欠乏が発生したが、この防止対策の第一前提は、堆厩肥施用および適正な輪作体系による有機物管理による地力の増強にある。
2.散布液は、水酸化カルシウム300gを加えて亜鉛石灰液とすることによって薬害の発生をさけることができる。