【指導参考事項】
株まきポットの実用性に関する試験
                              北海道農業試験場
                                 作物第1部稲第2研究室

試験目的
  水稲育苗用株まきポットの実用性を検討する。

試験年次
  昭和50年〜52年(3ヶ年)

試験方法
 (50年)
1.供試品種: 「ゆうなみ」(3ヶ年共通)
2.供試土壌: (1)羊ヶ丘(火山性壌土) (2)江別(泥炭を含む埴壌土)
(3)花岬(砂を含む埴壌土)
3.供試育苗箱: 1ポット当り 16mm×16mm×25mmのプラスチックの育苗箱(A型)
4.播種量 60g/箱(浸漬籾120cc) (3ヶ年)
5.苗代施肥: 基肥 N,P2O5,K2O各2g/箱(3ヶ年共通)
追肥 50年2L,51年2L,3L,52年3L
    各々N1g/箱
6.ポット崩壊程度の 測定: 1mの高さから板(木材)の上に落下させた場合の崩壊程度を調査
7.低温活着、伸長性の検定: ポリエチレンバット(33cm×25cm×12cm)
に移植し、12℃一定気温のファイトトロン
で移植後21日間の生育量測定(3ヶ年共通)

 (51年)
1.供試育苗箱:A型(16mm×16mm×25mm) B型(15mm×15mm×25mm
2.灌水回数:1回灌水(通常) 2回灌水(通常灌水+直し灌水)
 (52年)
1.供試育苗箱:A型(16mm×16mm×25mm)
2.ポット底部の穴の大きさ:3,6,8,10mm

試験結果
 (50年)
1.株まきポット育苗は、育苗期間が35日程度で葉令4.0葉、乾物樹30mg/個体以上の良苗を得ることができ低温条件下での生育についても問題がない。しかし、箱内床土が乾燥し易く、苗のブロック内およびブロック間に生育ムラが生じ易い。
2.株まきポットのブロック崩壊程度は、土壌間で大差がなく、いずれも紙筒ブロック程度の3強度(崩壊度)を示した。
 (51年)
1.株まきポット育苗箱の種類(A,B)では差が認められない。株まきポット苗の各区は、生育初期から過乾燥気味に推移したため乾物重も22kg前後で低い。
2.灌水方法(回数)の試験では、通常灌水区に対し、直し灌水(2回灌水)区は、生育初期から過乾燥がなく、苗生育が良好で、生育ムラも少なく好結果が得られた。
 これは、育苗箱がブロック状に仕切られているため、水の横浸透がなく更に有底箱であるため底面からの水補給がはなはだ僅かであることによる。
 (52年)
1.株まきポット苗(3mm-標準)の諸形質は、中苗および紙筒苗にまさり、葉数も4.1葉に達し、成苗並となった。しかし、乾物重は、成苗にくらべ明らかに低い。DW/草丈は2.00を超えており中苗、総筒苗にくらべると充実度が高い。
2.ポットの開孔別の苗生育は、草丈が穴の大きさ順じて伸長の傾向を示し、乾物重は、標準(3mm)にくらべ6mmで急増する。
3.ポットの開孔差による箱下貫通根量(断根)は標準(3mm)が18%程度で6mm以上で32〜35%程度で貫通する。
4.株まきポット苗の低温条件下における移植後の初期生育は、中、成苗にくらべ旺盛である。
5.ポット開孔が6〜10mm(断根量35%以下)程度であれば、移植後の初期生育への影響は比較的小さい(第1図)。

主要成果の具体的データ
 第1表 移植時の苗生育

区別 草丈 第1
鞘高
cm
第2
葉身長
cm
葉数 茎数
乾物重 DW
草丈
落下テスト後のブロック状態


%
平均
cm
CV 平均
CV 地上部
mg

mg

%
不良
%
水分
%
50





羊ヶ丘 13.9 14.4 2.5   4.0 9.0 1.5 33.2 4.3 2.39 85.2 14.8 31.9  
江別 12.6 17.5 2.4   4.0 10.6 1.7 33.6 3.7 2.67 81.9 18.1 40.7  
花岬 13.0 16.3 2.5   4.0 10.7 1.6 33.3 5.2 2.56 85.7 14.4 25.7  
紙筒苗 10.0 10.0 2.4   3.5 8.0 1.0 29.2 2.6 2.91 86.6 13.5 32.9  
成苗 13.5 9.5 3.6   3.7 5.0 1.2 40.0 7.6 2.96        
51

A型 9.0   2.0 3.5 3.6   1.3 22.0 2.8 2.44        
B型 8.8   2.0 3.4 3.6   1.4 21.5 3.5 2.44        
中苗 12.7   2.9 5.0 3.4   1.0 26.1 2.7 2.06        
成苗 13.7   2.3 4.0 4.4   2.0 40.9 4.3 2.99        


B型 9.9   2.4   3.5   1.0 20.6 3.9 2.08        
12.7   2.9   3.6   1.0 25.3 3.7 1.99        
52





3mm穴区 14.1 11.1 2.5 4.2 4.1 7.7 1.3 28.4 7.0 2.01          18
6  〃 14.8 11.6 2.4 3.9 4.3 6.7 1.3 32.9 6.2 2.22       34
8  〃 16.1 7.7 2.5 4.1 4.2 4.1 1.3 33.3 4.8 2.07       32
10  〃 16.8 7.4 2.6 4.5 4.1 2.9 1.4 34.7 4.1 2.07       35
紙筒苗 12.6 11.5     3.3 8.6 1.1 23.2 3.9 1.84        
中苗 12.0 8.1 3.0 6.0 3.2 11.4 1.0 22.1 3.5 1.84        
成苗 16.7 5.7 3.3 5.6 4.1 3.1 1.5 41.4 7.8 2.48        


第1図 移植21日後の乾物増加量、増加率(12℃)

 第2表 移植21日後の生育(12℃)

区別 草丈
cm
葉数
茎数
乾物重
地上部
mg

mg
増加量 増加率
50





羊ヶ丘 16.8 4.5 1.5 59.4 10.2 26.2 179
江別 15.4 4.5 1.6 55.3 10.1 21.7 165
花岬 16.2 4.6 1.5 60.3 10.8 27.0 181
紙筒苗 14.4 4.6 1.5 52.7 9.2 23.5 180
成苗 17.5 4.8 2.0 97.9 19.0 57.9 245
51

A型 14.5 5.2 2.2 67.3 11.3 45.3 306
B型 14.9 5.2 1.9 65.3 11.8 43.8 304
中苗 16.8 4.1 1.0 63.8 11.0 37.7 244
成苗 18.5 5.3 2.4 117.9 19.3 77.0 288
52





3mm穴区 18.7 5.0 1.8 82.7 17.8 54.3 291
6  〃 18.8 5.3 1.8 91.2 16.2 58.3 277
8  〃 20.8 5.2 1.9 97.0 21.2 63.7 292
10  〃 20.6 5.2 1.7 101.8 19.3 67.1 293
中苗 15.3 4.5 1.2 57.4 6.3 35.3 260
成苗 20.5 5.0 2.1 89.5 20.3 48.1 216

総合考察
 水稲育苗用株まきポットの実用について、昭和50年〜52年の3ヶ年に亘り検討したが、移植時の苗生育は、株まきポット苗が中苗、紙筒苗にまさり、葉数もほぼ4枚程度までに達し、低温条件下における移植後の初期生育が良好で、寒地稲作の安定のため、望ましい栽培法と考えられる。
 また、育苗箱のブロック内およびブロック間に生ずる過乾燥による生育ムラも2度灌水(通常灌水+直し灌水)により好結果が得られる。さらに、株まきポット苗のブロック崩壊程度およびバラ播による立苗率については、農業物理部、機械第2研究室の昭和50年成績によると、株まきポット苗は、紙筒苗にくらべ、振動回数と付着土率およびバラ播による立苗率がともに紙筒苗にまさる結果が得られているが、本試験の落下テストにおいても株まきポット苗は紙筒苗と同程度のブロック崩壊強度があり、実用上特に必要ないものと思われる。