【普及奨励事項】
1.課題の分類  分類番号Ⅰ-a 整理番号111-2-1
2.場所名  北海道立十勝農業試験場豆類第1科,北海道立上川農業試験場畑作科
3.新品種候補系統名
  大豆十育167号(十交4008・P2・22・4・1・2・5・3・9・4・P11・P12・2)

4.来 歴
 白目・中粒・良質・多収品種の育成を目的として,昭和40年十勝農試において,「十育129号」を母とし,「十育118号」(トヨスズ)を父として人工交配を行ない,以来選抜固定を図った。昭和45年より生産力を検定するとともに系統適応性検定試験に供し,さらに昭和47年より「十育167号」の系統名で地方適否を検定するとともに特性検定試験に供試した。昭和52年度で雑種第13代にあたる。

5.特 性
 (1)形態的特性:主茎長は「ヒメユタカ」より短く,「トヨスズ」並かやや長い。主茎節数は10〜11節で「トヨスズ」並であり,「ヒメユタカ」より少ない。分枝数も「トヨスズ」並で,草型は「トヨスズ」によく似ている。葉形は円葉で花色は紫,毛茸は白色,熟莢色は淡褐色を呈する。子実はやや扁球形で,種皮色は黄白, 臍色はいわゆる白目で「トヨスズ」同様黄〜極淡褐色を呈する。子実の大きさは,100粒重30g内外で「ヒメユタカ」より小さく,「トヨスズ」よりもやや小さい。
 (2)生態的特性:初期生育は旺盛である。葉色は「トヨスズ」に比較しやや淡い。開花期は「トヨスズ」と同程度で,「ヒメユタカ」より2〜3日早い。成熟期は「トヨスズ」より10〜14日程度早く,「ヒメユタカ」より7〜8日早い。「イスズ」並の成熟期で,枯上りも良好な白毛の早生種である。
 耐倒伏性は「ヒメユタカ」よりも強く,「トヨスズ」並である。耐冷性は「トヨスズ」並であるが,熟期が早いので安定性は高い。ダイズシストセンチュウに対して抵抗性はない。裂莢性は従来の品種と同程度である。
 収量性は「トヨスズ」より7%前後劣るが,熟期が早いため安定している。しかし,年次により「トヨスズ」と同様の 臍附近の褐変, 臍部の着色,種皮の亀裂のみられる場合がある。

6.試験成績
(1)育成地における成績(十勝農試,昭和47〜52年の6カ年平均)
系統名
または
品種名
開花

月日
成熟

月日
倒伏
程度
主茎

cm
主茎
節数
分枝
稔実
莢数
a当り収量kg 100
粒重
g
品質
全重 子実
比%
十育167号 7.22 9.28 0.4 48.2 11.1 4.7 51.6 47.9 25.5 95 29.9 2上
トヨスズ 23 10.8 0.2 46.6 10.6 4.7 50.9 50.8 26.8 100 31.9 2上
ヒメユタカ 26 5 0.5 58.3 11.8 5.7 51.8 54.4 28.2 105 36.5 1下
イスズ 24 9.27 0.6 52.5 12.4 6.3 56.4 43.9 23.8 89 22.8 2中

(2)配布先における成績(奨決基本調査)
系統名
または
品種名
上川農試 北見農試
供試
年数
成熟

(月日)
主茎

(cm)
子実

(kg/a)

(%)
100
粒重
(g)
供試
年数
成熟

(月日)
主茎

(cm)
子実

(kg/a)

(%)
100
粒重
(g)
十育167号 6 9.20 54 29.7 93 30.8 5 9.26 52 23.8 95 26.8
トヨスズ 6 10.5 54 32.1 100 32.4 5 10.5 50 25.0 100 29.6
ヒメユタカ 6 9.28 70 32.8 102 36.1 5 4 67 28.1 112 34.0
イスズ 2 23 62 24.1 75 21.4 - - - - - -
キタムスメ 6 29 70 32.0 100 29.7 5 2 68 28.5 114 28.2
系統名
または
品種名
中央農試原々種 中央農試
供試
年数
成熟

(月日)
主茎

(cm)
子実

(kg/a)

(%)
100
粒重
(g)
供試
年数
成熟

(月日)
主茎

(cm)
子実

(kg/a)

(%)
100
粒重
(g)
十育167号 5 9.19 39.4 25.2 90 30.4 2 9.28 40.6 21.9 89 29.5
トヨスズ 5 28 38.0 28.0 100 31.8 2 10.6 38.7 24.7 100 33.8
ヒメユタカ 5 24 47.0 28.7 103 33.9 2 2 49.1 26.9 109 34.7
キタムスメ 5 25 50.1 28.5 102 29.4 2 3 48.0 25.3 102 30.1

(3)現地試験における熟期差と収量比一覧
 (対トヨスズ比%,熟期差の(-)はトヨスズより早いことを示す。)
市町村 供試
年数
熟期
差日
収量
比%
和寒町 3 -5 90
剣渕町 2 -10 93
本別町 4 -10 96
幕別町 3 -5 86
新得町 4 -11 92
鹿追町 3 -10 97
上士幌町 4 -8 97
上士幌(現選) 3 * 96
足寄町 1 -10 97
豊頃町 4 -7 91
大樹町 3 -11 (94)
大樹(現選) 5 -7 100
忠類村 1 -6 95
美幌町 4 -7 106
斜里町 4 -10 89
滝川市 2 -6 82
 *調査なし

7.配布しうる種子量  126kg

8.採用県  北海道

9.栽培適地および普及見込面積
 上川地方における9月末〜11月の天候は,十勝,網走地方に比較して曇雨天の日が多く,降水量も多い。そのため,現在栽培されている「北見白」,「トヨスズ」,「キタムスメ」では,乾燥,脱穀調整作業に支障をきたす場合が多い。また,水稲の収穫期との作業上の競合や11月上旬には根雪となる気象条件等を考慮して,さらに熟期の早い安定品種が要望されている。
 以上の理由から,白目・良質・早生の「十育167号」は,上川管内および収穫・乾燥時の天候がこれに類似する地帯に適する。
  対象品種:トヨスズ,北見白,キタムスメ 普及見込面積:2,000ha

10.栽培上の注意
 ダイズシストセンチュウに対して抵抗性はないので,被害の恐れのある圃場での栽培はさけること。また,だいずわい化病,マメシンクイガの防除は従来の品種同様行なうこと。その他は「トヨスズ」,「北見白」,「キタムスメ」など一般既存品種の栽培に準じて行えばよい。