【指導参考事項】
1 研究課題名 わい性台リンゴ樹の果実品質に関する試験
2 期間 昭和48年〜52年
3 担当 北海道立中央農業試験場園芸部 細貝節夫、峰岸恒弥、松井文雄、村松裕司
4 予算区分 総合助成
5 協力分担 岩手園試(中核)、青森り試、 福島園試、長野農総試

6 目的 
 わい性台を用いた場合の従来の台木との果実品質の差を明らかにするとともに、その貯蔵性と貯蔵する場合の収穫適期に差があるかどうか検討する。

7 試験研究方法
 (1) 供試樹および調査
品 種 台 木 果実採収時期 果実調査時期
M9、M7 9月中旬〜10月上旬 採収直後
ミツバカイドウ 5日毎5回
スターキング M9、M7 10月上旬〜11月上旬 採収直後
マルバカイドウ 5日毎6回 1月、3〜4月

 (2) 調査項目
    果実重量、着色度、硬度、糖度、酸度、貯蔵障害、食味など

8 結果の要約
 (1) 旭では各年、各台木とも採収時期が遅くなる程、果実重量、着色度、糖度が上昇し、硬度、酸度が低下した。台木を比較すると、着色度、糖度、酸度、硬度ともミツバカイドウ台に比べM9台、次いでM7台で高く、熟度もややすすんだ。
 (2) 旭では各台とも10月6〜7日の採収で食味が最も良かった。この時の果実形質をみると3ケ年の平均では硬度、糖度、酸度ともM9台で高く、次いでM7台であり、ミツバカイドウ台で最も低かった。
またM9台、M7台ともミツパカイドウ台に比べ日持ち性が劣るとは言えなかった。
 (3) スターキングでは採収時の調査では、各台とも採収時期が遅くなる程果実重量、着色度、糖度、蜜入り乗率が上昇したが、硬度、酸度は採収時期による差は明らかでなかった。これらの果実形質は硬度では台木による差はなかったが、その他はM9台で高く、M7台は着色度を除きマルバカイドウ台と同等か、やや低かった。
 (4) スターキングでは食味から熟期をみると、マルバカイドウ台に比べM9台で5〜10日早く、M7台は同等かやや遅れた。従って貯蔵農において適食であった採収日は台木によって異なったが、各台木におげる適食期の果実形質を比較するとマルバカイドウ台に比べM9台は果実重量、着色度、糖度、酸度が高く、硬度が低かった。M7台は着色度は高かったがその他は差がなかった。
 (5) 貯蔵障害についてみると、ヤケはマルバカイドウ台に比べ、M9台次いでM7台で少なかった。内部褐変はM9台では採収時期の遅いものではかなりみられたが、各台木の適食期ではほとんど差がなかった。

9 主要成果の具体的数字
第1表 旭の食味が最も良かった採収時における果実形質
台 木 年次 採収
月日
果実
重量
着色度 硬 度 糖度 酸 度
M 9 49年 10.7 253g 8.2 13.0ポンド 13.3 0.97g/100ml
50年 10.6 194 8.7 12.5 11.4 0.75
51年 10.6 227 8.0 13.5 13.4 1.04
平均 10.6 225 8.3 13.0 12.7 0.92
M 7 49年 10.7 248 8.5 12.7 12.5 0.91
50年 10.6 199 8.0 12.3 11.4 0.77
51年 10.6 224 8,3 13.1 12.6 0.89
平均 10.6 224 8.3 12.7 12.2 0.86
ミツバ
カイドウ
49年 10.7 235 7.8 11.8 11.8 0.84
50年 10.6 216 6.8 12.0 10.9 0.77
51年 10.6 202 6.8 12.9 11.7 0.80
平均 10.6 218 7.1 12.2 11.5 0.80

第2表 採収時において適食に最も近かった採収日および果実形質
(スタ−キング)
台 木 採取年次 採収月日 果実
重量
着色度 硬 度 糖度 酸 度 比重 蜜入り
果率
蜜入り
程度
M 9 49年 10.25 283g 9.8 16.0ポンド 13.3 0.37g/100ml 0.85 80%
50年 11.1 254 9.9 16.6 12.8 0.34 0.89 100 2.2
51年 11.1 246 9.4 15.9 14.1 0.38 0.86 100 2.0
平 均 10.30 261 9.7 16.2 13.4 0.36 0.87 93 2.1
M 7 49年 10.31 253 10.0 16.4 12.3 0.32 0.86 90
50年 11.1 218 10.0 16.6 12.0 0.33 0.88 93 1.7
51年 11.1 236 9.6 16.4 12.8 0.36 0.85 100 1.6
平 均 11.1 236 9.9 16.5 12.4 0.34 0.86 94 1.7
マルバ
カイドウ
49年 10.31 265 9.8 16.8 12.5 0.34 0.86 93
50年 11.1 232 9.5 17.0 12.1 0.34 0.89 97 1.9
51年 11.1 242 8.9 16.3 12.9 0.36 0.86 100 1.9
平 均 11.1 246 9.4 16.7 12.5 0.35 0.87 97 1.9
   注) 昭和49年はM9台の10月31日採収区を設けなかった。

第3表 貯蔵後において適食であった採収日および果実形質
(スタ−キング、3〜4月調査)
台木 採収
年次
採収月日 果実
重量
着色度 硬度 糖度 酸度 比重 ヤケ
果率
内部褐
変果率
M9 49年 10.16.10.21 250g 9.7 11.8ポンド 14.1 027g/100ml 2% 11%
50年 10.17 224 9.3 11.6 13.4 0.24 0.82 13 0
51年 10.22 229 9.6 12.2 14.6 0.23 0.81 0 19
平均 10.19 234 9.5 11.9 14.0 0.25 0.82 5 10
M7 49年 10.31 240 9.9 11.7 13.3 0.24 0 7
50年 10.27 195 9.6 13.2 12.9 0.18 0.82 10 7
51年 10.27.11.1 227 9.5 12.3 13.2 0.24 0.81 4 9
平均 10.29 221 9.7 12.4 13.1 0.22 0.82 5 8
マルバ
カイドウ
49年 10.25.10.31 243 9.4 12.0 13.2 0.26 14 10
50年 10.22 205 8.3 12.9 12.8 0.21 0.82 37 3
51年 10.27 236 8.7 12.4 13.3 0.23 0.81 17 17
平均 10.26 228 8.8 12.4 13.1 0.23 0.82 23 10
   注) 採収日が複数であるものについてはその平均値で示した。

10 今後の問題点
 (1) 簡便で正確な熟度判定法
 (2) 各品種特に早生種、晩生種の果実品質、貯蔵性に及ぼす台木の影響

11 成果の取扱い(普及指導上の注意事項)
 (1) 旭ではM9台、M7台のわい性台を用いることにより、従来のミツバカイドウを用いた樹に比べ、果実熟期が促進され、果実品質が向上する事が明らかであった。
 (2) 旭ではわい性台を用いた場合でも収穫前落果、日持ち性からみて収穫期を早めなければならないとは考えられず、また余り早く収穫すると果実品質が劣るので、わい性台を利用する場合は果実品質の向上を主な目的として十分に熟したものを収穫するべきである。
 (3) スタ−キングではM9台は即売用あるいは短期貯蔵用としては、マルバカイドウ台に比べ果実品質の向上とともに、熟期が早まることにより収穫適期の幅が広くなるので、収穫期における労力配分上利点も認められる。
 (4) スタ−キングでは貯蔵する場合は貯蔵期間に合わせて収穫適期を決めなければならないが、M9台だは収穫期が遅れると過熟となり、内部褐変などの貯蔵障害が出易いので、マルバカイドウ台比べ5〜10日早く収穫しなければならない。また長期貯蔵には向かないことに注意が必要である。
 (5) M7台スタ−キングは、マルバカイドウ台に比べ熟期、果実品質ともほとんど差がないので、収穫、貯蔵ともマルバカイドウ台に準ずる。