【指導参考事項】
1 試験目的
 高張力有刺樹脂線の、放牧利用における、実用性について検討をおこなう。

2 試験方法
 1)試験場所
 放牧現地試験は北農試草地開発1部と根釧農試管理科で実施した。
 北農試:場内四望台を中心とする山傾草地(肉用牛専用放牧地)約25ha中の4.1haと、冬季放牧のため、同草地に続く山林ササ地約15ha及び36号平担草地0.6haに高張力有刺樹脂線(以下有刺樹脂線に略)を用いた牧区を設けた。
 根釧農試:乳用育成牛の放牧を主体とするやや平担草地2.4haに有刺樹脂線を用いた。
 2)期間
 北農試:51年5月〜52年12月下旬
 根釧農試:52年8月〜52年12月
      冬季の架線状況について調査継続中。
 3)供試家畜
 北農試:肉用牛アバディーンアンガス 60頭
 根釧農試:乳用牛ホルスタイン 14頭 無補助資料、全日放牧
 4)供試架線材:架線材として有刺樹脂線E-#13×#14×5(線の太さ×とげの太さ×とげの間隔インチ)のもので、
          1巻の重さ13.5kg長さ約400mである。
 5)架線設置:有刺樹脂線の架線設置は下表の通りに行なった。また牧区の架線張り状況は図の如くである。

 表-1 架線設置
設置
場所
設置
年月
設置寸法 摘要
張線区分 使用牧柵 架線段別及び牧柵間隔 架線
延長
面積 作業


山傾草地 51.5 人力架線 40mm×40mm×1,800mm
L型鋼 厚さ4mm
836m 4.2ha 3名 傾斜
9〜
12
林内ササ地 52.10 900 15.0 5 5〜
20
36号草地 51.5 320 0.6 2
平坦



場内

①〜1
①〜2

放牧草地
52

8

5
人力架線 40mm×40mm×1,800mm
L型鋼
(厚さ 4mm)
390m 2.4 2
平坦

 図-1 北農試草地の架線

 図-2 根釧農試草地の架線

 6)試験項目
  ①有刺樹脂線の特性
  ②架線設置の作業性
  ③放牧による適応性
  ④越冬後め状況
 7)担当場所及ぴ担当者名
  道農業改良課   西  勲
  北農試草地1研  宮下昭光
  根釧農試管理科 五十嵐義任

3 試験結果
 1)有刺樹脂線の特性
 樹脂線(エステルワイヤー)は高張力のプラスチックであり、全く錆びずまた耐塩水、耐薬品性に関しても変質しない利点を有している。
 (1)有刺樹脂線の一般的性質

  表-2 有刺樹脂線と有刺鉄線の比較
種類\項目 と     げ より線 バーブ線の 破断※
ピッチ(in) とげの個数(個/m) とげの重さ(g/m) より減り(%) 単位重量(g/m) 強度 伸度
高張力有刺
樹脂線#13
5 7.87 22.8 4 33.4 (kg)
320
(%)
142
有刺鉄線
#14
3 13.1 35.8 5 87.5 217 46
  ※試験条件:引張試験速度  200mm/min
          つかみ間隔    200mm

 図-3 強度〜伸度の関係

 表-3 化学的性質(PPナイロンと比較)
  樹脂線 P・P ナイロン6
比重 1.37 0.90〜0.91 1.14
融点℃ 258〜264 168〜170 215
比熱cal/g℃ 0.48 0.46 0.46
熱伝導度cal/see.㎝2 5.5×10-4 3.3×10-4 5.0×10-4
耐候性 ×
耐燃焼性 ×
吸水度% 0.4 <0.01 1.5
耐薬品性 弱酸
強酸 × ×
弱アルカリ
強アルカリ

 表-4 耐候性(♯12)
照射時間 強度伸度
\試験回数
1 2 3 4 平均値 強度残存率
(%)
ブランク(時間)
0
強度(kg) 218 220 222 219 219.8 -
伸度(%) 13.0 12.5 13.5 13.0 13.0
200 強度 218 217 223 219 219.3 99.8
伸度 14.0 13.5 15.0 14.5 14.3
1000 強度 216 219 216 217 217.0 98.7
伸度 14.0 14.5 14.0 14.5 14.3
 ※)スタンダードウェザーメーターWE-Z型(東洋精機製)使用
  照射時間200時間は1年間屋外暴露に相当する。

 2)架線設置の作業性
 有刺樹脂線の特性で明らかなように、従来の有刺鉄線に比較して約1/3の重量で、架線張り作業土取扱いやすい。1人でバイブ棒を線巻き板枠の穴に通し、延伸でき、搬出入が容易であった。線の刺間隔が5インチと広いので、手袋にからみつきも少ない。傾斜地や複雑地形の草地などの場合、放牧隔障材として有刺樹脂架線の作業性は優れている。
 3)放牧による適応性
 (1)北農試
  ①山地傾斜草地:例年4月下旬より入牧させ草生が良好になる5月中旬から輪換放牧にしている。1牧区おおむね5〜7日の放牧で11月20日まで輪換利用を行った。その状況は表-5のように、有刺樹脂架線も十分架張効果を発揮した。

 表-5 山傾草地の放牧(52年)
区分\牧区
牧区面積(ha) 5.0 5.7 4.5 4.2 5.5 25.0
架線種類 鉄線 鉄線 鉄線 樹脂線 鉄線 -
延放牧日数(日) 42 45 40 40 27 194
放牧延頭数(頭) 1890 2025 1800 1800 1215 8730
脱柵回数(回) 2 - - - -  

  ②林内ササ地:冬季ササ放牧をアンガス45頭により12月1日〜27まで面積約15haの中で実施した。降雪がないときは林内の行動も群として活発で、牧柵外周縁のササ等を0.6m程度まで首を伸ばして採食した。この場合架線緊張は維持された。後半積雪25〜30㎝に達すると、雪の重みにより倒伏したササが多くなり、採食条件は悪化した。退牧するまで成牛に脱柵はなかったが、子牛は架線下の凹地より出入りしていた。
  ③36号草地:面積0.6haの草地を有刺樹脂架線で囲み、放牧若牛が脱柵行動を示すまで滞牧させた。脱柵は架線固定の結束線が切断された結果、緊張度が低下して発生した。有刺樹脂架線に断線はみられなかった。

 表-6
放牧
月日
面積
(ha)
放牧
頭数
現存量
(kg/10a)
利用率
(%)
脱柵の状況
発生日 原因
7/10〜7/28 0.6 6 400〜800
(600)
90以上 7/28 牧柵曲り結束線切る
10/20〜10/25 0.6 6 400 90以上 10/25 結束線切る

 (2)根釧農試
 放牧牛が有刺樹脂架線下段より、牧柵外周の牧草を採食するとき、有刺鉄線の場合は牛体圧により、伸びきりになるが、有刺樹脂線は弾性があり、回復するのを認めた。3回の放牧で延放牧頭数644頭でこの間1頭の脱柵もなかった。

 表-7 放牧頭数
8月5日〜8月27日
(3番草)
9月14日〜9月28日
4番草
10月18日〜10月31日
5番草
253頭 195頭 196頭 644頭

 4)越冬後の状況
 北農試で昭和51年より、越冬後の状況を調査その結果、雪による断線は、牧柵に固定するのに、針金線を用いた場合多く、結束線によると殆んどみられない。

 表-8 固定材料の違による冬の断線状況(52.4山傾草地)
線種 材料 牧柵間隔
(m)
測定架線長
(m)
断線個所数 断線段位




結束線固定 3.0 300 - -
張金固定 3.0 300 3 中1 下2



結束線固定 3.0 300 1  中1
張金固定 3.0 300 4.5 下3 中1.5

 5)補修作業
 有刺樹脂線は取扱いやすいので、春に行う補修作業労力が軽減できる。山傾草地の場合従来1牧区3名で、ほぼ1日要していたが、有刺樹脂架線牧区では、半日で終了をみている

4 まとめ
 今回、放牧地の隔障材として、新しく開発された高張力有刺樹脂線の、実用性について2場所で現地検討を行った。その結果次の点で優れていると考える。
 ・引張強度が高く、伸長が小さく弾性回復が良いので、牛体圧が加えられても架線緊張が維持される。
 ・有刺鉄線に比較して軽いので、取扱いやすく、傾斜草地などにおける作業性が良い。
 ・錆びず耐塩性が強いので、海岸線に適応する。
 ・より線に色彩(黄・黒)があり、目立ちやすく、人畜の危険防止によい。
 欠点は樹脂性であるため火に弱いので、管理上注意を要する。
 架線緊張を維持するため、約50mごとに緊張器を入れておくと効果がある。今後付随器具として、とり入れる必要があろう。牧柵間隔が3mをこえる場合は中間帯を入れる方が良い。
有樹脂線は鉄線と異なるので、接続する場合下図の方法が効果的である。


                                                        (根釧)
 以上有刺樹脂線の放牧における、架線利用の適応性について検討したが、従来より一般に使用されている、有刺鉄線に比較して、優れた点を有しており、架線材の目的を十分果す。