【指導参考事項】
畑作物に対する重金属の影響に関する二、三の知見 Ⅰ重金属過剰土壌の畑作物へ及ぼす影響試験 Ⅱ(参考試験)大豆に対するカドミウム、銅および亜鉛の影響 中央農試・環境保全第一科 |
1.試験目的
ⅠCd、CuおよびZnなどが高濃度に集積した土壌(重金属土壌)に畑作物を栽培し、その生育および体内重金属濃度への影響を検討する。
Ⅱ試験Ⅰの重金属土壌における栽培で特徴ある症状を示した大豆について、Cd、CuおよびZn各重金属元素の影響を検討する。
2.試験方法
Ⅰ重金属土壌を中央農試のほ場内に搬入し、重金属濃度の低い土壌(一般土壌)を対照とし、作物の栽培を行なった。なお、供試作物は大豆、スイートコーン、大麦、小麦、えん麦、大根、人参、牛蒡および馬鈴薯の9作物であり、一般土壌としては農試褐色低地土または、黒色火山性土(由仁町)を用いた。
Ⅱ漁川褐色低地土壌(恵庭市)にCd、CuおよびZnの各重金属を硫酸塩で添加し、ポット試験を行なった。
Cd添加試験(a/5,000 ワグネルポット、ガラス室および網室を使用)
添加濃度:0、3、6、12.5、18.5、25、31ppm
Cu添加試験(a/5,000 ワグネルポット、ガラス室および網室を使用)
添加濃度:0、30、65、95、125、250、390、515
Zn添加試験(内径約30㎝無底ポット、ほ場に埋設)
添加濃度:0、50、100、200、300ppm
3.結果の概要
Ⅰ
1)重金属土壌に対する作物の耐性は作物間のみならず品種間にも差が認められた。
2)作物体内重金属の部位別分布は、根部でもっとも高く、可食部で低い頃向があった。
3)重金属土壌の作物中重金属濃度は一般土壌のものに比べ高く、それはCdおよびZnで特に顕著であった。
4)作物体内の重金属濃度は、時期的変化があった。
Ⅱ
1)Cd、CuおよびZnの過剰により大豆はそれぞれ特徴のある症状を示した。
Cd:葉脈に赤褐色のすじがあらわれ、葉は裏側へ巻きこむ。
Cu:葉脈に緑色を残し、葉は黄化。
Zn:初生葉に褐色斑点、添加濃度のより高い場合は第1本葉の黄化、褐斑の発現も。
2)CdはCuおよびZnに比べ低い添加濃度で大豆に影響を与えた。
3)子実中の重金属濃度はcd添加の場合、無添加区に比較し、大巾に高まった。しかし、CuおよびZnは土壌中の濃度に比べ、子実中濃度への影響は少なかった。
4)試験Ⅱの結果より、試験Ⅰの重金属土壌で認められた大豆の症状は、Zn過剰による影響がもっとも大きいと判断した。
4.主要成果の具体的データ
第1表 供試土壌の重金属濃度
(風乾士ppm)
土 壌 | 0.1N | HCI | 抽出 | 全含量* | ||
Cd | Cu | Zn | Cd | Cu | Zn | |
重金属土壌 | 4.4 | 34.2 | 233 | 5.4 | 101 | 715 |
(一般土壌) 農試土壌 |
0.4 | 9.0 | 18 | 0.4 | 38 | 81 |
火山性土壌 | 0.2 | 1.6 | 5.6 | 0.3 | 29 | 40 |
第2表 重金属土壌の作物への影響
(一般土壌に比較)
発芽 | 外部症状 | 開花出穂 | 収量又は個体数1) | 可食部の異常 | 可食部Cd濃度3) | ||
大 豆 | 5日早4) | 初生葉に褐斑 | (花) 遅 | × | 無 | × | |
スイート コーン |
G.ビューティ | 同じ | 無 | (雄穂)遅 | × | 有 | △ |
NK75 | 〃 | 〃 | (〃) 〃 | ○ | 無 | ○ | |
G.C.バンダム | 〃 | 〃 | (〃) 〃 | ○ | 〃 | ○ | |
大 麦 | やや遅 | 〃 | (穂) 遅 | △ | 〃 | △ | |
小 麦 | 〃 | 〃 | (〃) 早 | ○ | 〃 | × | |
えん麦 | 〃 | 〃 | (〃) 遅 | ○ | 〃 | × | |
大 根 | 同じ | 茎葉の黄化 | − | × | 有 | × | |
人 参 | 〃 | 茎葉が濃緑色 の個体もあり |
− | ×2) | 〃 | × | |
牛 蒡 | やや遅 | 子葉の褐変枯死 | − | × | − | △ | |
馬鈴薯 | 男しゃく | − | 無 | (花)やや遅 | ○ | 無 | △ |
メークイン | − | 〃 | (〃) 同じ | △ | 〃 | △ |
5.普及指導上の注意事項
新たに開発される農地や資材の農地投入による重金属元素付加などの問題点を取り扱う際の基礎資料とする。
1)大豆は重金属のうち、Znなどに対して抵抗力が弱く、障害症状も発現するので、指標作物になりうる。
2)大豆、大根、人参、牛蒡などは重金属に対して抵抗力が弱く、小麦、えん麦、スイートコーンおよび馬鈴薯などは、比較的抵抗力が強い。
3)可食部のCdは大豆、小麦、えん麦、大根、人参などで高い。
4)重金属過剰土壌の判断は分析によらなけれはならないが、その他の方法としては、地理的、立地条件の判断などからも行うこと。