【指導参考事項】
有珠山噴火に伴う農作物の現地対策調査並びに試験
(1)噴出物の分布と性状概要
(昭和52年、53年)
北農試農芸化学部土壌肥料第1研究室
中央農試化学部、環境保全部、専門技術員室
有珠地区、西胆振地区農業改良普及所

目 的
 有珠山噴火に伴う農地での噴出物の分布、堆積状況と性状を調査し、農地の復旧改良対策、土壌管理対策に資する。

調査方法
(1)噴出物の分布及ぴ堆積状況調査:一般調査法による調査及ぴ類型区分。
(2)噴出物の性状並びにその経時変化に関する調査:類型毎代表地点各層試料の経時採取とその一般理化学性分析、及びモデル試験、室内実験。
(3)農業用水への影響とその推移に関する調査:採水基準点10ヶ所での経時調査。

調査成果の概要
〔1977年噴出物について〕
 (1)8月7日から14日までの有珠山の爆発的噴火は大小合わせて10数回に及んだが、農地に被害をもたらしたものは4次に亘る大噴火と2回の中噴火によるものであり、噴出物堆積が1㎝以上の地域は洞爺湖周辺の7市町村管内に及んだ。
 (2)噴出物はデーサイト質マグマに由来する軽石と火山灰に、山体の岩塊、岩片を随伴したものであるが、堆積状況は降下堆積の方向、地域で相異が認められ、噴出物堆積地域に対し層厚と粒径組成のちがいに基づく12基本類型を設定した。
 (3)噴出物は一般にCECが小さく、塩基過飽和であり、反応はアルカリ性を示した。置換性塩基含量は、CaOが最も多く、次いでN2O、K2O、MgOの順であった。P2O5吸収力は弱く、有効態P2O5は比較的多かった。一方、軽石、岩片主体のものよりも火山灰で各成分含量が高い傾向にあった。
 (4)噴出物からの塩基溶脱についてモデル試験、室内実験により検討した結果、K2O、MgOに比べてNa2O、CaOの溶脱量が多く、とくに、火山灰からのNa2Oの溶脱量が著しく多い特徴が認められた。一方、軽石からの溶脱では各塩基とも水浸透後、経時的に急減するのに対し、火山灰からの溶脱では経時的減少が緩やかな傾向であった。
 (5)噴出物の現地での経時的変化を調査した結果、3ケ月経過によって一般に置換性CaO、Na2Oの減少による塩基飽和度の低下が認められ、とくに火山灰主体のもので著しい傾向にあった。しかし、飽和度はなお100%以上を示し、反応はアルカリ性を維持していた。1ケ年経過によって、反応は中性乃至微酸性に転ずる場合が多かった。また、火山灰主体層からのCaO、Na2Oの減少はさらに進行する傾向が認められた。
〔1978年頃出物について〕
 (6)1977年8月以後、噴火を休止していた有珠山は、再び、1977年11月16日以降1978年10月末まで断続的に小爆発をくり返した。この間の5月から9月にかけての10数回に亘る爆発は、周辺各方面の農地にそれぞれ少量の火山灰を降下するとともに作物被害をももたらした。
 (7)これらの降下火山灰のうち、5〜6月堆積のものは反応が強酸性を示すものであったが、7月以降のものはアルカリ性を示し、前年8月に堆積した火山灰と類似するものであった。
〔河川水の水質推移について〕
 (8)1977年の調査結果は以下のとおりである。pHは憤火後上昇し、以後ほぼ復元した。SSは噴火直後急増し基準値を大幅に上廻ったが、2ケ月後からは基準値以下に低下した。但し降雨後に高まる例がみられた。CODもSSに対応して変動があった。塩基類の濃度では一般に変動はみられなかったが、一部小河川では噴火直後あるいは降雨後に高まる例がみった。
 (9)1978年6月と8月にも昨年同様に追跡調査を行ったが、東関内基準点でのSSの場合を除き、いずれも基準値以下の数値を示すとともに変動も少ない結果であった。

主要成果の具体的データ

図1.'77Us堆肥の基本類型区分図


図2.'77Usの噴出源からの距離による堆肥状況の推移

表1.77Usの一般化学性とその経時変化
試料採取
年月日
項目 pH
(H2O)
CEC
(me/
100g)
置換性塩基(㎎/100g) 塩基
飽和度
(%)
P2O5
吸収
係数
有効態
P2O5
(㎎/100g)
可溶性
AL2O3
(㎎/100g)
遊離
Fe2O3
(%)
試料区分(平均) CaO MgO K2O Na2O
52年
8/17〜20
全 46 層 7.59 2.6 75 5 7 12 134 139 27.3 10.4 0.25
火山灰主体15層 7.57 3.8 121 8 11 17 151 182 35.5 15.4 0.39
軽石岩石31層 7.60 2.1 53 4 5 9 126 118 23.3 8.0 0.18
52年
11/17〜18
全 41 層 7.90 2.2 50 10 6 4.4 111 125 17.3 15.4 0.27
火山灰主体12層 8.05 3.0 74 16 9 6.7 124 167 24.0 16.6 0.44
軽石岩石29層 7.83 1.8 41 8 3 3.5 106 107 14.5 14.9 0.21
53年
8/22〜23
全 29 層 6.82 2.8 54 12 9 3.7 109 233 19.3 16.1 0.26
火山灰主体10層 6.75 2.4 52 12 12 3.7 123 247 24.3 18.6 0.31
軽石岩石19層 6.86 3.0 55 11 8 3.7 101 226 16.6 14.8 0.23


図3.'78Usの降灰域

表2.'78Usの層厚と一般化学性
噴火月日 降灰方向 降灰層厚
(農地最大)
試料
番号
pH
(H2O)
CEC
(me/
100g)
置換性塩基(㎎/100g) 塩基
飽和度
(%)
P2O5
吸収
係数
有効態
P2O5
(㎎/100g)
CaO MgO K2O Na2O
5.25 南南東 微量 1 5.54 3.9 59 15 11 5 85 130 17.6
5.29〜30 西 1内外 2 4.97 4.5 53 18 39 2 82 90 19.6
6.1 南南東 1〜2 3 3.88 3.0 160 29 12 17 267 320 23.6
7.15 4 6.44 6.2 182 32 23 18 148 180 37.4
7.16 北北西 5 7.88 6.9 199 16 24 28 135 310 31.6
7.25 東南東 1内外 6 7.68 16.4 210 28 33 19 62 470 50.4
7.29〜30 東北東 1〜2 7 7.89 10.1 180 23 43 23 92 380 35.8
8.8〜9 8 6.21 9.3 328 14 23 19 146 440 46.9
8.11 南南東 9 7.45 8.9 372 28 22 16 176 460 50.4
      10 7.82 10.0 405 26 23 22 170 500 56.3
8.16 北 東 20〜40 11 8.18 7.9 406 24 20 16 210 380 53.1
7.17〜18 南 西 10〜20 12 8.07 12.3 412 16 31 37 142 460 50.4
8.24 南 東 20〜30
1〜2
5内外
13
14
15
16
8.34 7.9 280 16 24 24 153 300 42.5
8.25 北 東 8.48 8.0 283 24 25 25 158 300 41.7
8.25 南南西  8.16 6.3 224 16 19 22 157 220 26.4
8.41 6.5 227 18 22 22 157 260 49.2
9.12〜13 北 西   20〜25    17
18
19
7.72 6.8 200 22 32 79 177 280 44.8
7.46 4.9 180 20 32 67 176 220 40.5
8.10 7.4 223 20 37 86 168 280 47.4
(参考)52年8月10日採取Ⅰ 火山灰 8.95 10.0 381 18 27 23 158 480 36.9