水稲育苗における有珠山噴出物の混入に関する試験
                                    (昭和52年)道立中央農試 稲作部

目的  77有珠山爆発に伴う噴出物降下地における水稲育苗に対する影響について試験、調査を行い、肥培、管理対策の設定に資する。

試験方法
①供試試料
区分 類別 採取地と基本類型 粒径(供試条件) pH(H2O) ECmS/cm
A 砂礫 伊達市西関内町、Ⅲb 2mm以上約10% 7.88 0.225
B 灰砂 壮瞥町滝之町、Ⅳd 2mm全通 7.29 0.965
C 慣用床土 稲作部圃場 (5mm以下を供試) 4.72 0.350
備考)慣行床土の一般的性質
T-C% T-N C.E.Cm.e Exch.Base.m.e 2.5%
酢酸抽出P2O5
燐吸 粒径組成% 土性
Ca Mg K 粘土 シルト
5.55 0.60 20.41 6.95 0.46 0.49 0.7 1170 54.0 32.3 13.7 HC
②育苗の条件
供試作物…水稲「ともゆたか」、育苗箱…開孔率 約0.5%
床土厚…20mm、仕上り厚…27mm、播種量…浸漬籾150mL/箱
播種…52.8.30、出芽器の使用…無、但し出芽揃まで2重被覆で乾燥を防止、
共通施肥量…N-P2O5-K2O=1-1-1g/箱を硫安、過石、硫加にて施用、
タチガレン…粉剤5g/箱を使用

試験成果の概要
①砂礫、灰砂の混入により土壌重量が増加し、3相のうち気相が減少した。育苗日数の経過によって土壌の緊密化が進み、含水比の低下もみられた。
②慣用床土との混合によって砂礫、灰砂共に30%混入の直後でpH5.0以下となっていたことから、土壌反応が高過ぎとなる恐れはないと思われる。
③育苗後の土壌中NH4-N含量から、砂礫、灰砂の混入により、NH4-Nの損失は大きかったことがうかがわれた。可給態Pについては両試料とも極く僅かに、Kについては灰砂によって増す傾向であった。
④出芽およびその後の生育における障害は両試料ともみられず、苗の生育に対する直接的に有害な成分は特に含まれていないものと認められた。
⑤苗の形態的生育では、両試料共に50%混入では劣っていたが、それ以下の混入による影響はほとんど認められない程であった。
⑥苗の無機養分の吸収について、N%は両試料の混入により、かつ、混入割合の高い程小さくなり、吸収量も少なかった。P2O5%は20%以上の混入で低下したが、K2O%は砂礫では30%、灰砂では20%以上の混入で低下していた。

試験成果の具体的データ
     項目
処理
混合割合
VoL%
土壌
重量
g/100mL
気相
割合
%
含水比
%
17日目
緊密度
mm
14日目
pH
(H2O)
9日目
NH4-N
mg/100g
17日目
苗の生育、養分吸収 養分含有率
(地上部乾物中%)
苗長
cm
乾物重
g/100本
N P2O5 K2O
1.慣用床土(C) 77 17 15 15 4.7 6.0 15.3 1.63 3.76 2.48 3.65
2.A10+C90 81 14 19 16 4.7 1.8 17.7 1.65 3.58 2.48 4.45
3.〃20〃80 93 13 13 16 4.8 1.0 18.1 1.75 3.60 2.36 4.65
4.〃30〃70 96 12 12 16 4.6 1.0 16.3 1.70 3.01 2.27 3.50
5.〃50〃50 104 10 7 19 4.7 0.5 15.0 1.60 3.23 2.16 3.50
-〃100 107 10 - - - - - - - - -
6.B10+C90 89 14 16 17 4.9 1.1 16.2 1.72 3.62 2.55 4.25
7.〃20〃80 95 13 12 19 4.7 1.0 17.2 1.83 3.38 2.24 3.50
8.〃30〃70 100 12 11 22 4.8 0.8 16.5 1.79 3.51 2.20 3.40
9.〃50〃50 113 8 7 23 4.8 0.5 17.1 1.61 3.18 2.02 3.50
10.〃100 135 2 3 24 6.0 0.3 16.7 1.58 3.61 2.24 3.40
普及指導上の注意事項
①噴出物混入による床土の理・化学性変化および育苗結果からみて、砂礫、灰砂ともに、その混入が30%以下に止まるよう極力排除すべきものと思われる。
②肥料養分保持力の低下、並びに可給態成分の希釈による養分供給量の減少の対策として、元となる床土には良好に培養した慣用床土を用いること、および適切な追肥によるのがよく、基肥施用量の増加は、出芽障害の恐れも考えられるので適当でないと思われる。
③育苗日数の経過と共に床土が緊密化し、通気性の不良と水分不足が同時的に起るものとみられるので、細やかな給水管理が必要と思われる。
④根自体の生育にみられる差以上に、折り曲げに対するマット強度の低下が著しいので、移植時の取扱いには注意を要すると思われる。