有珠山噴火に伴う農産物の現地対策調査並びに試験
−畑における噴出物混合実態並びに対策試験−

中央農試 化学部土壌改良第2科/畑作部畑作第1科

1.目的
 '77年有珠山噴火に伴い農地に堆積した噴出物は、その基本類型(噴出物性状×堆積厚層)に基づいて災害復旧工事が行われたが、噴出物混合状態ならびに復旧工事後における施肥改善等について解明し、今後の営農指針とする。

2.方法
(1)噴出物混合実態調査
 調査地域:伊達市、虻田町、洞爺村(Ⅰ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ地域) 21地点調査
 調査方法:8月下旬に1土層12試料(深さ40cmを10×10×10cmブロック)のEx−Caの変動係数を測定
(2)噴出物不良混合の改善対策試験
 試験地:伊達市西関内(Ⅲb)、洞爺村香川(Ⅳd)
 処理区別:
  耕起法
プラウ一方耕起
×
無堆肥
×
慣行施肥
プラウ十字耕起 堆肥3t試用 〃 +苦土重焼りん40kg/10a

 供試作物:てん菜、馬鈴薯
 試験規模:1区25㎡ 2連制
(3)秋播小麦の肥培管理に関する試験
 試験地:伊達市上館山、西関内(Ⅲb)、洞爺村成香、香川(Ⅳd)の4ヶ所
  処理区別: 慣行施肥(N6〜7.2、P2O510〜11.7、K2O7〜7.2、MgO0〜3kg)
  改善施肥(普及所指導量+MgO7〜10kg/10a)


×


起生期N4kg/10a追肥 無追肥
  土改資材試用(②+過石50kg/10a)
  有機物試用(③+堆肥2t/10aあるいはバーク堆肥1t)

 供試品種:伊達タクネコムギ、洞爺ホロシリコムギ
 試験規模:1区25㎡ 2連制

3.結果の概要
(1)噴出物混合実態調査
①調査地点の土層内における混合状態を噴出物のEx−Caが特異的で指標となるため、その変動係数でみると、8.1
 〜31.5%と地点により大きな差異がみられたが、灰砂地帯(Ⅳ、Ⅵ)に比べ、砂礫地帯(Ⅰ、Ⅲ)で大きい傾向であった。
②噴出物の排除および復旧後における耕起回数によるEx−Caの変動係数は明らかな差がみられなかった。
③層序別の混合状態をEx−Ca変動係数からみると0〜10、30〜40cmに比べ10〜30cmで混合状態が不良の所が多
 かった。
(2)噴出物不良混合の改善対策試験
①土層内における混合状態をEx−Caの変動係数(深さ40cm、10×10×10cmブロック48試料)でみると、耕起前(復旧
 工事で40cm耕起混層)では厚層砂礫地(Ⅲb)は 29%と高く、極薄層灰砂地帯(Ⅵd)では16%であった。
②一方耕起後におけるEx−Caの変動係数はⅢbでは11%、Ⅵdでは12%に低下し、さらに十字耕起によってこの値は10
 %以下になった。
③Ⅲbにおける要因別の増収効果をみると、各処理とも効果があったが、馬鈴薯では十字耕が(対一方耕10%増)、また
 てん菜では堆肥効果が最も高く(対無施用9%増)、改善肥効果は両作物ともこれについで効果的であった。
④Ⅳdにおける要因別の増収効果は改善肥が両作物とも最も高かった。(対標肥6〜9%増)十字耕の効果はてん菜で
 みられたが、馬鈴薯ではみられず、堆肥効果も小さかった。
(3)秋播小麦の肥培管理に関する試験
①苦土増施を図った改善肥区は各試験地とも最も増収効果があった。
②土改資材施用区、堆肥区は倒伏の影響がみられ、とくに堆肥区で顕著であった。このため慣行区に比し、全平均で
 土改区は5%増収に止まり、堆肥区は若干減収した。
③追肥効果は砂礫噴出地帯(Ⅲb)で5〜8%の増収効果がみられたが、灰砂地帯(Ⅵd)では倒伏を強めやや減収した。

4.主要成果の具体的数字


図1  現地における噴出物混合の程度


図3  土層内におけるEx−CaのCV


表1  噴出物混合改善試験収量(kg/10a)
試験地 作物 堆肥\耕起施肥 十字耕起 一方耕起
標肥 改善肥 標肥 改善肥
伊達

Ⅲb
てん菜 3t 107 113 100(2929) 105
0 92 101 97 100
馬鈴薯 3t 109 116 100(2332) 103
0 105 115 101 100
洞爺

Ⅵd
てん菜 3t 106 109 100(5507) 104
0 101 111 97 104
馬鈴薯 3t 100 115 100(3214) 108
0 100 103 101 110


表2   秋播小麦の肥培管理による収量比較(kg/10a)
場所\処理 慣行区 改善区 土改区 有機物区 無追肥区 追肥区
伊達
Ⅲb
西関 358
(100)
378
(106)
365
(102)
349
(97)
347
(100)
375
(108)
上館山 307
(100)
352
(115)
338
(110)
318
(104)
321
(100)
336
(105)
洞爺
Ⅵd
香川 339
(100)
411
(121)
400
(118)
325
(96)
389
(100)
373
(96)
成香 402
(100)
413
(103)
377
(94)
359
(89)
397
(100)
378
(95)
平均 352
(100)
389
(111)
370
(105)
338
(96)
364
(100)
366
(101)



図2  改良復旧後における噴出物の混合状況 Ⅲb(伊達市西関内)


5.指導上の注意事項
(1)極厚層地帯では混合不良個所が多いので、今後も耕起法に留意すべき点が多い。
(2)土改資材の施用は土壌診断により対応する必要がある。
(3)とくに秋播小麦に対するチッソ質肥料の施用区法は噴出堆積物の厚薄にかかわらず、従来の施肥法を基本とすべきであろう。