1.課題の分類  栽培 牧草
2.研究課題名:
有珠山噴火に伴う降灰による農作物被害及び対策に関する試験調査
 7.降灰による草地の被害実態と更新対策試験
(1)降灰による草地の被害実態
3.期間:  昭.52(52〜53)
4.担当:  中央農試・畜産;北農試・草地開発第1
5.予算区分:総合助成
6.協力分担:北農試・草地開発第2

7.目的:1977年有珠山噴火に伴う災害に関する緊急調査の一環として、降灰草地の再生・利用状況を経時的に調査するとともに被灰牧草における噴出物の付着程度とミネラル組成を調査した。

8.試験調査方法
(1)降灰草地における被害追跡調査
①調査地点:2降灰方向に降灰程度別に4地点合計8地点(12草地)を設定した。
②調査時期:昭.52(8,9,10,11月)
(2)被灰牧草における噴出物の付着程度とミネラル組成調査
(1)で採取した試料について、非洗滌及び洗滌試料を調製し、湿式灰化後、SiO2は重量法で、Pはバナドモリブデン比色法、K,Naは炎光法、その他の成分は原子炎光法でそれぞれ定量した。

9.結果の概要・要約
(1)降灰によって牧草再生の遅滞、草生密度の低下を招来し、かなりの減収となった。その程度は、降灰の質・量、降雨の有無及び草地の構成草種、降灰時の草高などによって異なった。降灰深が5cm以上では、再生促進処理を行っても再生は著しく劣り、とくに湿灰の場合には影響が大きく、更新が必要と考えられた。再生草の主体は、オーチャードグラス、チモシー、アルファルファ等の上繁草であった。
(2)噴出物の付着率を非洗滌試料に対する比率でみると、降灰後約10日経過した時点では2.8%から19.3%にも及んだ。しかし、その後の再生茎葉が主体となっている9月には1.2%以下に激減した。8月の両試料についての分析値を比較すると、Fe,SiO2,Na,Mnは明らかに非洗滌試料の方が高い値を示した。これらはいずれも牧草体内の含量に比べ噴出物中の含量の著しく多い成分で、その比が最も大きいのはFeで、次いでSiO2とNa、続いてMnと考えられる。またFeとSiO2との間には有意な正の相関が認められた。これらの結果から、非洗滌試料ではなお、かなりの噴出物が残存していたと考えられる。9月の非洗滌試料においても、Feは洗滌試料の値の1.9〜3.2倍を示し、8月よりは大巾に減少したものの噴出物の混入は避けられなかった。しかし、付着程度の最も著しかったB1-1地点においても真の付着率はオーチャードグラスで2.2%、アルファルファで2.1%以下とみて差し支えないであろう。
(3)試料点数が少ない上に管理条件や牧草の生育段階なども一定していないので、噴出物の影響の有無やその程度を判断することはできないが、牧草のミネラル組成面での以上はとくに認められなかった。

10.主要成果の具体的数字:
表1 調査対象草地の概況
調査地点 降灰区分② 対象草地主要
草種③
降灰前後の管理
記号 所在地 経営者① 時期 類型
区分
降灰前 降灰後
A1 伊達町志門気 KM Ⅰ+Ⅳ Ⅲb 採草6年目、
AL+OG
8月1日2番刈 8月12日
ハロー
A2  〃 東関内 MG 採草3年目、
OG
6月12日1番刈
追肥(4-0,8-4)
 
A3  〃  乾 WS Ⅲc 兼用8年目、
OG
6月4日1番刈
7月上旬放牧
 
A4  〃 東関内 伊達町
農協
放牧9〜10年目、
OG
ホルスタイン育成牛
260頭放牧中
直ちに下牧,9月
中に耕起開始
B1 虻田町三 豊 YH Ⅱ+Ⅲ Ⅵb 採草10年目、
OG
  8月12〜13日ディスク
ハロー2回
B2  〃  成 香 SS Ⅵc 採草8年目、
OG
7月29日2番刈
追肥(4-10-6-2)
8月13日ディス
クハロー
B3-1  〃  花 和 OY Ⅵd 採草2年目、
AL+OG
7月29日2番刈
追肥(4-10-6-2)
8月12日重ディス
クハロー
B3-2  〃   〃 採草11年目
OG
6月21日1番刈
8月8日2番刈
8月9〜10日反転
3回後梱包収納
12日重ディスク追
肥(7-2-7)
B3-3  〃   〃 採草6年目
TY
7月13日1番刈
追肥(7-2-7)
8月12日重ディス
クハロー
B3-4  〃   〃 採草1年目
TY,OG,MF
7月19日播種 再播予定
B4 洞爺村成 香 洞爺村 放牧5年目
OG
7月末追肥(4-8-8
-2)黒毛和種育成
143頭放牧中
8月8〜9日下牧
9月3日入牧
B5 虻田町花 和 T Ⅵc 放牧,OG,
MF,TY,KB
  レーキかけ、8月
15日より放牧
注)①略号で示す。
  ②火山噴出物調査斑の区分による。
  ③AL:アルファルファ、OG:オーチャードグラス、TY:チモシー、MF:メドーフェスク、
   KB:ケンタッキーブルーグラス、RC:アカクローバ、LC:ラジノクローバ

表2 調査対象草地の追跡調査結果
(その1)
対象草地 第1回調査(8月19〜20日) 第4回調査(9月16〜17日)

降灰深

草種
草丈
草現存量
草種 草丈 草現存量 1日平均
乾物生産量
A1 cm
20
AL cm
16
kg/10a
(14株/㎡)
AL cm
76
kg/10a
605
kg/10a
2.7
A2 5〜6 OG 97 2,400 9月16日2番刈乾草40個/10a
(ALが94%)
RC 64
A3 2〜5 OG 77 815 OG 77 1,234 5
LC 21
A4 山頂 10 OG 10〜15 63 OG 34 280 1.5
山麓 5〜8 OG 57 OG 38 384 2
B1 8 OG   44 更新される
B2 6 OG   51 更新される
B3-1 3〜4 AL 33 230 AL 70 837 4.4
OG 25 OG 66
B3-2 3〜5 OG 33 160 OG 65 1,052 5.7
LC 10 LC 26
B3-3 3 TY 38 310 TY 40 719 2.4
LC 13
B3-4 降雨で灰の流れた後に幼植物  
B4 2 OG 36 240 草生良好和牛放牧中
MF 32
注)①降灰深は調査地の実測
  ②草種略号は表-1と同じ。
  ③2㎡コドラート3カ所の平均。

(その2)                             (第3回調査、9月14日)
対象草地 被度 草種 茎数 草丈 草現存量 備考
冠部 基底部
基底部の減少
A3 %
100
%
35
%
<5
OG
LC
本/㎡
600少数
cm
78
kg/10a
1,750
 
A4山頂 15 3 >30 OG   25 100〜200  
B3-1 80 10 ≒0 AL
OG
50株
9株
53
60
950
150
 
B3-2 100 30 <5 OG 750 61 1,600  
B4 90 50 <5 OG
MF
220
600
70
55
950 OG3株/㎡
MF10株/㎡
B5 20 5 >30 OG他 100株     降灰深5cm
注)①生育中の牧草株の間の裸地の灰を除去して、埋没によって減少した植物の
  基底部被度を推定した。

表3 B-3-② OG型草地における生産状況
番草別 前年(昭51) 当年(昭52)
調査日 生草収量 調査日 生草収量
月日 t/10a 月日 t/10a
1 6.14 6.5(100) 6.6 3.3(94)
2 7.23 2.3(100) 8.1 1.9(83)
3 9.21 2.0(100) 9.16 1.1(55)
  7.8(100)   6.3(81)

表4 有珠降灰被害地牧草埋没株根部呼吸量
採取月日 地点 降灰
深度
草種 草状 測定
温度
吸収量CO2mg/h/DMg
サンプル 参考値 比較
52.9.5 B1 cm
25
OG 完全埋没
20
mg
0.000
mg
-
%
A1 25 OG 数茎地上伸長 20 0.511 1.974 25.8
          25 0.948    
          30 1.094 3.008 36.4
B1 25 LC 完全埋没、根茎 20 0.872    
          25 1.594    
          30 2.814    
S52.9.14 B3-1 5 OG ほぼ正常に伸長株 20 1,533 1.974 77.6
          30 2.041 3.008 67.8
A4-1 6 OG ほぼ正常再生 20 1.281 1.974 64.9
          25 1.878 3.008 62.4
TY 完全埋没 20 0.672 1.757 38.2
  RT外 完全埋没 20 0.705    
  OG外 完全埋没 20 0.291    
  KB 完全埋没ライゾーム外 20 0.932 1.182 77.8
注)呼吸量参考地は51.11.中旬(場内試験)の測定値。比較はこれに対する%
  RT:レッドトップ、その他の草種名略号は第Ⅲ-30表と同じ。

表5 非洗浄試料に対する噴出物の附着率(%)
                  採取月日
             
採取地点         草種
8月
19・20日
9月
16・17日
A-1 伊達市志門気 アルファルファ 7.5 0.0
A-2  〃  東関内 オーチャードグラス 7.2 0.0
 〃   〃   〃 アカクローバ 12.6 -
A-3  〃   乾 オーチャードグラス 2.8 0.2
A-4-1  〃  東関内 193.0 0.1
A-4-2  〃   〃 118.5 -
B-3-1 虻田町 花和 13.3 1.2
 〃   〃 アルファルファ 5.1 0.7
B-3-2  〃   〃 オーチャードグラス 10.7 -
B-3-3  〃   〃 チモシー 32.5 -
B-4 洞爺村 成香 混合イネ科草 24.7 -
 〃   〃 ラジノクローバ 24.3 -
 〃   〃 オーチャードグラス - 0.0
注1)附着率(%)=非洗浄試料調製時に除去された噴出物の乾物重/非洗浄試料重(乾物)×100
  2) - は採取試料の無いことを示す。

表6 8月採取試料についてのミネラル組成(対乾物)

草種 地点 P
(%)
K
(%)
Na
(%)
Ca
(%)
Mg
(%)
Fe
(ppm)
Mn
(ppm)
Cu
(ppm)
Zn
(ppm)
SiO2
(%)
Fe1
/
Fe2




オーチャードグラス A2 0.36 3.88 0.36 0.34 0.20 1,053 118 14 25 5.02 5.04
A3 0.41 3.53 0.20 0.40 0.24 1,194 91 12 28 6.49 9.26
A4-1 0.37 3.05 1.03 0.75 0.29 1,966 216 19 37 12.64 9.32
A4-2 0.30 3.78 0.95 0.65 0.27 1,334 164 18 27 9.19 7.10
B3-1 0.38 4.60 0.22 0.42 0.27 702 95 16 28 4.75 6.38
B3-2 0.50 4.67 0.24 0.43 0.44 772 118 15 38 6.36 7.02
チモシー B3-3 0.30 2.65 0.22 0.39 0.19 1,826 73 13 30 10.13 15.47
混合イネ科草 B4 0.36 3.05 0.28 0.46 0.23 2,809 116 15 27 17.11 14.71
アルファルファ A1 0.32 2.97 0.50 1.30 0.32 1,545 89 18 50 8.65 6.63
B3-1 0.34 3.78 0.38 1.40 0.34 1,124 89 11 35 6.53 8.03
アカクローバ A2 0.15 2.20 0.38 1.02 0.24 4,916 166 15 30 18.4 12.51
ラジノクローバ B4 0.27 2.95 0.48 1.27 0.30 1,404 73 23 39 7.66 4.09



オーチャードグラス A2 0.33 3.80 0.14 0.34 0.19 209 93 14 25 3.43  
A3 0.42 3.80 0.08 0.31 0.21 129 57 11 26 3.55  
A4-1 0.44 3.80 0.36 0.65 0.28 211 180 19 39 3.09  
A4-2 0.41 3.85 0.36 0.56 0.26 188 141 17 31 2.35  
B3-1 0.40 3.75 0.12 0.39 0.26 110 80 18 26 2.54  
B3-2 0.50 4.30 0.08 0.34 0.40 110 80 16 37 3.13  
チモシー B3-3 0.33 2.95 0.12 0.34 0.16 118 41 12 34 2.57  
混合イネ科草 B4 0.50 3.40 0.08 0.37 0.20 191 55 17 28 3.81  
アルファルファ A1 0.50 3.05 0.22 1.22 0.32 233 55 16 47 1.80  
B3-1 0.48 3.88 0.16 1.20 0.31 140 64 10 31 0.55  
アカクローバ A2 0.11 1.85 0.14 1.33 0.24 393 77 12 22 1.74  
ラジノクローバ B4 0.40 2.82 0.22 1.39 0.28 343 45 14 32 2.99  
注)Fe1は非洗浄試料、Fe2は洗浄試料についてFe含有率。

表7 9月採取試料についてのミネラル組成
草地 地点 非洗浄試料 洗浄
試料
Fe1
/
Fe2
P
(%)
K
(%)
Na
(%)
Ca
(%)
Mg
(%)
Fe
(%)
Mn
(ppm)
Cu
(ppm)
Zn
(ppm)
Fe
(ppm)
オーチャードグラス A2 0.29 4.40 0.06 0.28 0.18 347 79 13 36 176 1.97
A3 0.41 3.50/TD> 0.53 0.23 0.20 166 79 13 28 74 2.24
A4-1 0.27 4.10 0.14 0.34 0.22 281 92 17 28 89 3.16
B3-1 0.33 5.03 0.07 0.20 0.17 278 59 15 27 130 2.14
B3-2 0.39 4.88 0.05 0.19 0.17 158 51 13 25 84 1.88
B4 0.35 4.20 0.06 0.21 0.17 222 79 13 23 120 1.85
アルファルファ A1 0.24 2.98 0.14 1.44 0.19 115 26 13 26 71 1.62
B3-1 0.28 3.20 0.11 1.24 0.22 314 50 11 29 102 3.08
注)Fe1、Fe2は表6に同じ。

11.今後の問題点

12.成果の取扱い
(1)降灰深5cm以上の草地では耕起更新が必要である。
(2)降灰深2〜3cmの草地でも草生維持の点からと土壌表層にある灰が、今後とも刈取乾燥過程で乾草へ混入することが考えられるので、翌春の草生回復状況をみた上で、状態によっては重ディスク等による表層の混和と追播または耕起更新が必要となろう。