1.課題の分類 栽培 とうもろこし 2.研究課題名 有珠山噴火に伴う降灰による農作物被害及び対策に関わる試験調査 8.降灰によるとうもろこしの被害実態と火山噴出物付着とうもろこしによるサイレージ調製 (1)とうもろこしの被害実態 3.期間 昭52 4.担当 中央農試 畜産 北農試・草開-1 5.予算区分 総合助成 特別研究 6.協力分担 北農試・草開-2 |
7.目的 1977年有珠山噴火に伴う災害に関する緊急調査の一環として、降灰とうもろこしの被害状況を調査するとともに、火山噴火物付着とうもろこしによるサイレージ調製の可能性を明らかにする。
8.試験調査方法
(1)降灰とうもろこしの被害状況調査
①調査対象ほ場:降灰方向別(2)に降灰程度別に各3地点
②調査時期:8月中旬から収穫期まで
(2)火山噴火物付着とうもろこしによるサイレージ調製試験
①pH4.0に達する必要な乳酸産生量の推定
②蟻酸の適正添加量
③サイレージ調製試験…北農試ほ場から採取したとうもろこしに花和地区から採取した灰を0,3,6に%を添加し、また、6%添加区には蟻酸をとうもろこし生産量に対して0.4,0.8,1.2%添加して、ビニール袋に入れ、それを発砲スチロール製の箱に収納して、よく加圧密封し、埋蔵後37日目に開封。
9.結果の概要・要約
(1)降灰とうもろこしの被害状況調査
降灰の質・量、降雨の有無によって被害の程度、様相が大きく異なった。降灰の粒子が細かくかつ、雨を伴った場合(虻田町・洞爺村方面)は、植物体への付着量が多く、1〜2m程度の降灰でもかなり折捐、倒伏個体がみられ、降灰量の多いほ場では地際付近よりするものが多く、降灰で埋まった植物は立直りが困難で、放棄せざるを得ない状況であった。
一方、粒子が粗く、かつ、雨を伴わなかった場合は。植物体への付着量が少なく、5cm以上の降灰でも地際より折捐・倒伏した個体は少なく、被害の大きいほ場でも葉の裂傷や稈の上部(多くの雌穂着生節)より折捐する個体が大部分であった。しかし、減収は免れず、雌穂の捐失、登熟不良により栄養的にはかなり劣るものとなった。8月上旬が、当地方におけるとうもろこしの雄穂、絹糸抽出期にあたっていたことも被害を大きくした原因の一つである。なお、被害程度の差異は品種、栽培条件とくに播種期によっても異なった。
(2)火山灰付着とうもろこしによるサイレージ調製試験
① とうもろこしに付着した火山噴火物のとうもろこし生産量に対する割合は、花和地区で13.0%、西関内地区で6.5%であった。
② 新鮮とうもろこしに火山噴出物を6.0および12.0%添加した場合、pHはわずかに上昇したが、乳酸を4.0cc添加すれば4.0〜4.1に低下したから、この火山噴出物はPHの低下を妨げる作用が極めて弱く、乳酸が0.3%生産すると、pHは4.0に低下することになるので、被灰とうもろこしをサイレージに調製してもpHは間違えなく4.0前後に低下するであろうという予測がたてられた。
酸 とうもろこしに蟻酸を0.4%添加すると、pHは4.0以下になることも明らかになった。
④ とうもろこしに火山噴出物を3〜12%添加してもpHは無添加と同様の極めて低い値であり、乳酸含有率は一般に高い値で、酪酸は皆無か、極めて少なく、いずれも良質なサイレージであった。なお、12%添加では乳酸含有率が他と比較して、やや低い値であるが、総酸に対する乳酸の比率は86.5%で、良質なサイレージであった。以上から、②で予想したとおり、火山噴出物が付着しているとうもろこしをサイレージに調製しても品質が劣化する懸念のないことが実証された。
10.主要成果の具体的数字
(1)降灰とうもろこしの被害状況調査
表1 とうもろこしの被害状況
地点 | 所在地 | 降灰区分1) | 被害時期 | 被害状況2) | 回復および 収穫期の状況 |
蒸散抵抗値 |
A1 | 伊達、 志門気 |
Ⅰ+Ⅳ10〜15cmⅢb | 雄穂抽出期 前 |
折捐、倒伏個体無し | 登熟良 | |
A2- 1 |
〃、 西関内 |
〃 〃 〃 | 絹糸抽出期 後 |
30%の個体が雌穂着生 節より折損 |
生存雌穂登熟やや 良 |
8.6 |
〃 2 |
〃、 〃 |
〃 〃 〃 | 雄穂抽出期 | 葉は裂傷するも茎の折 損個体ほとんどなし |
〃 | |
B1 | 虻田、 三豊 |
Ⅱ+Ⅲ 〃 Ⅵb | 雄穂抽出期 | ほぼ全個体折損倒伏そ の半分は地際より倒伏 |
登熟良、生草収量 550kg/a(9月25 〜27日)生存雌穂 もほとんど不稔放 棄 |
|
B2 | 〃、 花和 |
〃 5〜10cmⅥc | 雄穂抽出期 | ほぼ全個体が平均61 cmの位置で折損 |
〃 | 9.3 |
B3 | 〃、 〃 |
〃 2〜5cmⅥc | 絹糸抽出期 前 |
全個体の90%程度が平 均128cmの位置で折 損 |
10月6日正常株糊 熟期、折損株乳熟 期、雌穂のみ収穫 |
表2 被害圃場における収量調査成績
品種名 | 雄穂抽出期 | 絹糸抽出期 | 稈長 | 折損 | 生草収量(kg/a) | |
総重 | 雌穂重 | |||||
J×202 | 8月7日 | 8月7日 | 227cm | 85% | 715 | 67 |
J×188 | 〃 3 | 〃 4 | 272 | 85 | 583 | 66 |
J×180 | 〃 6 | 〃 6 | 283 | 92 | 617 | 25 |
W×673 | 〃 8 | 〃 8 | 240 | 83 | 689 | 133 |
(2)サイレージ調製試験
表3 pHの変化に及ぼす火山噴出物の添加割合と乳酸添加量との関係
火山噴出物 添加割合(%) |
pHの変化 | ||
1/30N乳酸添加量C.C | |||
0 | 2.0 | 4.0 | |
0 | 5.45 | 4.50 | 3.98 |
3.0 | 5.50 | 4.60 | 1.05 |
6.0 | 5.60 | 4.61 | 4.40 |
12.0 | 5.80 | 4.55 | 4.00 |
表4 pHの変化に及ぼす火山噴出物
の添加割合と蟻酸添加量との関係
火山噴出物 添加割合(%) |
蟻酸添加量(%) | pH |
0 | 0 | 5.45 |
0 | 0.4 | 3.72 |
0 | 0.8 | 3.42 |
0 | 1.2 | 3.19 |
3 | 0.4 | 3.69 |
3 | 0.8 | 3.45 |
3 | 1.2 | 3.25 |
6 | 0.4 | 3.79 |
6 | 0.8 | 3.50 |
6 | 1.2 | 3.26 |
12 | 0.4 | 3.90 |
12 | 0.8 | 3.50 |
12 | 1.2 | 3.20 |
表5 火山噴火物添加とうもろこしサイレージの品質
処理 | pH | 原物中% | ||||||
総酸 | 乳酸 | 酢酸 | ヒロピ オン酸 |
酪酸 | パレリ アン酸 |
カブ ロン酸 |
||
無添加 | 3.48 | 1.69 | 1.45 | 0.24 | - | - | - | - |
火山噴出物3%添加 | 3.47 | 1.68 | 1.43 | 0.25 | - | - | - | - |
〃 6%添加 | 3.42 | 1.69 | 1.46 | 0.22 | - | 0.01 | - | - |
〃 12%添加 | 3.50 | 1.26 | 1.09 | 0.17 | - | - | - | - |
火山噴出物6%+蟻酸0.4% | 3.49 | 0.16 | 0.10 | 0.06 | - | - | - | - |
〃 6%+蟻酸0.8% | 3.39 | 0.22 | 0.06 | 0.08 | - | 0.08 | - | - |
〃 6%+蟻酸1.2% | 3.65 | 0.30 | 0.08 | 0.19 | - | 0.03 | - | - |
11.今後の問題点
12.成果の取扱い
とうもろこしの被害程度は、降灰の質・量、降雨の有無などによってかなり異なるので、その程度により利用の適否を決める必要がある。すなわち、
①被灰とうもろこしでも良質のサイレージができるから、茎葉部に付着している灰の比較的少ない場合はサイレージに調製する。但し、雌穂の損失、登熟不良により栄養的にはかなり劣ることが予測されるので、給与に際して、その点を留意する必要がある。
②茎葉部に灰の付着量が多いものは、飼料としての利用は避け。鍬込む。