【指導参考事項】
水稲除草剤による大豆の生育異常
(昭和54年)
上川農試

目的
 旭川市東鷹栖町において、水田除草剤のモリネートSM粒剤の散布時期(6月下旬前半)が過ぎた6月下旬後半より、大豆の生育異常(新葉の縮葉、わん曲及び葉周縁枯れ)が多発したので、その原因究明のため発生実態調査ならびに再現試験を実施した。

調査方法
(1)生育異常の実態調査
 東鷹栖町の大豆栽培ほ場11筆について調査(6月28日)
(2)品種試験展示ほにおける調査
 5品種を供試した展示ほで、生育異常の品種間差について調査(7月10日)
(3)再現試験
 上川農試の本田にモリネートSM粒剤3㎏/10a散布(8月15日)後、畦畔に育苗中の大豆を置いて調査

主な結果の概要
(1)実態調査では、トヨスズ、キタコマチの2品種に生育異常がみられた。
 品種試験展示ほの調査では、トヨスズ≧キタコマチ>北見白≒キタムスメ>ユウヒメの順で、再現試験では、トヨスズ≧キタコマチ>キタムスメ>ヒメユタカ、ユウヒメ、北見白の順で生育異常程度が大きかった。
(2)生育異常は、除草剤散布後4日目頃より縮葉、わん曲、葉周縁枯れとなって新葉に現われるが、古葉には現われない。また、異常葉(2〜3葉)よりあとで出葉した葉は正常葉に戻るのが特徴である。しかし、トヨスズやキタコマチでは、芯止りになる個体もみられる。
(3)生育異常の軽い品種(キタムスメ、北見白、ユウヒメ)では、水田からの距離が遠くなるにつれて異常個体が少なくなった。
(4)除草剤散布後6日目からの処理では、生育異常のでやすい品種にのみ軽度の症状が現われることから、散布後比較的短期間に揮散一生育異常の過程を経るものと思われる。
(5)以上の結果、旭川市東鷹栖町でみられた大豆の生育異常は、水稲除草剤モリネートSMからの揮散による薬害であると思われる。
(6)なお、薬害発生から約10日間程度で回復したことと、8月の高湿等もあって、品種試験展示ほで薬害の多かったトヨスズ、キタコマチの収量は、他の品種とさ程差がなかった。(旭川地区農業改良普及所調べ)

主要成果の具体的データ
(1)実態調査結果(6月28日)
品種名 点数 生育異常個体率(%) 症  状
キタコマチ 7 82 比較的新しい本葉の
トヨスズ 1 100 縮葉、わん曲
キタムスメ 2 0  
中生光黒 1 0  

(2)品種試験展示ほにおける調査(7月10日)
品種名 生育異常個体率(%) 症  状
キタコマチ 10.3 1〜2葉   正常     
3〜4葉  縮葉、周縁枯れ
5葉   わん曲
6葉   正常
ユウヒメ 3.4
北見白 15.2
キタコマチ 100.0
トヨスズ 100.0

 水田からの距離との関係及び多発生品種の回復程度
品種名 3〜7m 7〜11m 11〜15m 芯止り 新生葉が正常
キタムスメ 12.9% 10.7% 7.1% - -
ユウヒメ 7.6 3.6 0 - -
北見白 23.1 10.0 4.3 - -
キタコマチ 100.0 100.0 100.0 32.1% 67.9%
トヨスズ 100.0 100.0 100.0 17.6 82.4%

(3)再現試験
 処理後4日目より症状が現われる。次に多発生と少発生品種の代表例を示す。
○キタコマチ
本葉1〜2葉−正常
 〃 3葉−縮葉、わん曲、部分的周縁枯れがひどい。
注)類似の品種(トヨスズ)

○キタムスメ
本葉1〜2葉−正常
 〃 3葉−葉先枯れ、軽度の縮葉
注)類似の品種(ヒメユタカ、ユウヒメ、北見白)

指導上の注意事項
 (1)モリネートSMを盆地等の気流が滞留し易い環境のところで使用した場合、大豆に薬害症状をおこすことがあるので、薬害防止の観点から、このような地帯(上川盆地のようなところ)では使用を避ける。