【指導参考事項】
1.研究課題名  スパータイプ利用によるリンゴデリシャス系の成園化促進試験
2.期   間  昭和50〜54年
3.担   当  北海道立中央農業試験場・峰岸恒弥、渡辺久昭、松井文雄、松村裕司
4.予算区分  道 単
5.協力分担  な し

6.目 的
 従来結実に入るのが遅く、若木時代の結実が不安定になりリンゴデリシャス系の早期多収を図る。スパータイプとわい性台との組み合わせ利用により、早期収量の増大だけでなく、スパータイプの問題点といわれる果実品質の改善も併わせ目指す。

7.試験研究方法
 供試穂品種    「レッドスパーデリシャス」
 供試台木種類   「マルバカイドウ」、「MM106」、「M7」、「M26」
 昭和47年春接ぎ木、翌48年春定植、栽植距離 4m×2m(10a当たり125本植え)。トレリスにより樹体支持。慣行法による管理。1区12樹(96㎡)3反復。
 調査項目      樹体生育、収量、品質、その他。

8.結果の要約
 (1)スパータイプ品種「レッドスパー」の利用によりデリシャス系の早期収量力増大した。台木別ではMM106で最も収量多く、以下マルバ、M26、M7の順であった。
 (2)スパータイプ品種は、「スターキング」などにくらべて品質が劣り勝ちであるが、本試験では、わい性台の利用により「レッドスパー」の品質が実用上差し支えな確度に改善された。特にこの効果はM26では一果実の増大、糖度の向上、食味の向上などに顕著に現われ、MM106、M7でも効果が認められた。
 (3)昭和52年の冬季異常低温の年には、頂花芽の不発芽など寒害が発生した。頂花芽で発芽の正常でないものはM26でいく分多い傾向がみられた。
 (4)昭和53年の大雪で雪害がみられたが、被害はマルバ、MM106で少なく、M26、M7で多い傾向がみられた。

9.主要成果の具体的数字
第1表 台木別「レッドスパー」の区当たり収量の推移
台木種類 樹令別区当り収量(㎏) 積算収量
(㎏)
左の
有意性
2 3 4 5 6 7
マルバ 3.2 1.8 52.2 25.5 125.8 270.9 479.3 bc
MM106 1.4 2.3 37.3 40.8 147.4 292.7 521.9 c
M7 0.2 0.3 20.7 10.4 72.1 172.1 276.9 a
M26 0.1 2.8 33.5 24.8 84.4 180.0 325.7 b
1区12樹(96㎡)、有意性はDuncanの多重検定(5%水準)による。

第2表 「レッドスパー」と「スターキング」の収量比較
穂 種 類 台木種類 樹令別10a当り収量(18㎏入箱) 積算
(箱)
2 3 4 5 6 7
レッドスパー マルバ 2 1 30 15 73 157 277
MM106 1 1 22 24 85 169 302
M7 0* 1 2 6 42 99 160
M26 0* 2 19 14 49 04 188
スターキング マルバ 0 0 0* 4 41 57 101
注1.「スターキング」の調査期間は昭和45年〜50年。
 2.※を付した項は若干の収量があったもの。

第3表 各台レッドスパーの果実形質
台木 一果重(g) 糖度(%) 酸度(g/mL) 硬度(ポンド)
マルバ 209a 12.87a 36a 16.1a
MM106 218ab 13.0a 36a 16.0a
M7 225bc 13.2a 36a 16.6b
M26 236c 14.0b 38b 15.9a
1975〜79(樹令3〜7)5年間の平均。
アルファベットは同符号間では有意差のないことを示す。(Duncanの多重検定P=0.05)

第4表 マルバ台「スターキング」の果実形質
項 目 6(49) 7(50) 8(51) 9(52) 10(53) 平均
一果重 (g) 210 220 221 208 214 215
糖 度 (%) 12.3 11.9 14.0 14.1 14.6 13.4
酸度(g/mL) 0.37 0.34 0.34 0.37 0.38 0.36
硬度(ポンド) 16.2 17.3 16.2 13.8 13.3 15.4

第5表 昭和52年春における台木別「レッドスパー」の頂花芽の発芽状態と発育枝の枯れ込み
台木種類 調査
樹数
頂 花 芽 発 育 枝 (1年枝)
一樹当
平均芽数
状態別割合(%) 一樹当
平均枝数
先枯れ枝数
(%)
二次伸長
枝数 (%)
0 1 2
マルバ 5 162 68.1b 26.1 5.7a 15 38.3a 2.5
MM106 5 106 58.1ab 31.7 10.2a 16 38.4a 0
M7 5 100 58.6ab 33.1 8.2a 11 33.7a 0
M26 5 133 52.2a 38.9 8.9a 12 30.0a 0
注1.頂花芽の発芽状態 0:正常に発芽、1:発芽したが正常でない、2:不発芽
 2.昭和52年5月31日調査
 3.アルファベットはDuncanの多重検定の結果(P=0.05)

10.今後の問題点
 (1)スパータイプ品種果実の採収時期と貯蔵性。

11.成果の取り扱い(普及指導上の注意)
 (1)デリシャス系の早期収量を上げるためには、スパータイプ品種とわい性台との組み合わせ利用が効果的である。
 (2)スパータイプ果実の品質向上については、M26が最も効果著しくMM106、M7も効果的である。
 (3)スパータイプ品種の栽植距離は、MM106では4〜4.5m×2〜3m(10a当たり74〜125本)、M7およびM26では3.5〜4m×1.5〜2m(125〜190本)が当面適当と考えられる。
 (4)わい性台に接がれたスパータイプを栽植する際は、当初から丈夫な支柱などで樹体を支持しなければならない。
 (5)わい性台に接がれたスパータイプ樹の整枝法は、主幹形が望ましく、その場合樹高と樹幅のバランスをよくとるようにする。とくに樹体の中央上部(心を含む)を大きくしないようにする。
 (6)スパータイプ品種は、枝が狭い角度で出易いため、剪定に当たってはできるだけ広い角度のものを残すようにする。またスプレッダーを当てたり、ひもで引き下げるなどして、人為的に枝を開くと、早期結実に効果が高い。
 (7)その他の管理とくに土壌管理は、わい化栽培の注意点を守り、樹冠下の除草(耕うん・除草剤)に努める。