【指導参考事項】
1.課題の分類  牧草とうもろこし 土壌肥料 新得畜試
2.研究課題名  牧草サイレージ用とうもろこしに対する乳牛スラリーの還元法および施用効果に関する試験
3.期  間  昭49〜53
4.担  当  新得畜試 研究部 草地飼料作物科
               種畜部 馬産科
5.予算区分  総合助成
6.協力分担  十勝農試 農業機械科

7.目  的
 牧草およびサイレージ用とうもろこしに対する乳牛スラリーの還元法および施用効果について土壌肥料学的に検討し、畑酪地帯における乳牛スラリーの合理的圃場還元法確立のための基礎資料を得る。

8.試験方法
 Ⅰ.スラリー利用状況とその化学組成についての実態調査(西部十勝地区農家22戸)
 Ⅱ.牧草に対するスラリー還元法および施用効果に関する試験(オーチャードグラス主体草地)
 1-1 還元法(表面散布、作土注入、心土注入;4〜6t/10a)の比較試験
  1)スラリー施用効果と草地切断の物理的効果に関する試験
  2)スラリー作土注入中と肥効発現(0,30,60,90cm巾,20cm深)
  3)スラリーの連用効果に関する試験
 1-2 施用時期に関する試験(秋または春、作土注入法、3.6〜12.5t/10a)
 1-3 スラリー施用量と施用改善に関する試験(4年連用、3〜15t/10a、作土注、春)
  1)スラリー単用時の用量(乾物生産、NO3-N、ミネラルバランスからみた施用限界)
  2)スラリー用量と苦土含有資材用量との組合せ(苦土炭カル、熔成リン肥50〜400kg/10a、資材効果の持続性、スラリー施用限界の拡大)
 Ⅲ.サイレージ用とうもろこし(ヘイゲンワセ)への乳牛スラリー還元法に関する試験
  1.施用時期に関する試験 (秋春、3年連用、3〜12t/10a、P2O530kg施用の有無)
  2.土壌水分条件を異にする圃場におけるスラリー施用が化学肥料N、P、Kの肥効に及ぼす影響に関する試験
    (スラリー4.5-18t/10a、N6〜18kg、PK有無、排水良否)

9.主要成果の概要
 (1)畑酪地帯の乳牛スラリーの化学組成は各成分とも変動巾が比較的小さかった。
 (2)牧草に対し乳牛スラリーを4〜6t/10a施用した場合には、収量的には作土注入法が最も安定していたが、牧草中のNO3-N含有率が高まり易く、Pの吸収利用性が低下する欠点が認められた。
 (3)これに対してスラリー表面散布法は、注入法での欠点がなく、草地切断の併用または連用により注入法とほぼ同水準の収量が確保できた。
 (4)スラリー施用の場合に限り、インジェクタによる草地切断効果が現れるが、この物理的効果は表面散布法、作土注入法の場合に全肥効の60%以上を占めるのに対し、心土注入法の場合施肥位置が深すぎるためにこの草地切断効果は消去されてしまう。なお、無施用区、化学肥料区でも草地切断効果は認められなかった。
 (5)乳牛スラリーの連用は化学肥料連用に比べて土壌の酸性化が進まず、オーチャードグラスの冬枯れ防止効果も認められ、また、スラリーの化学肥料との代替率も連用とともに40〜65%から126〜175%へと著しく高まることが認められた。
 (6)オーチャードグラスの乾物収量(Y=kg/10a)は乳牛スラリー施用量(X,t/10a)15t/10aまで増加し、Y=27X+18(r=0.889**)の回帰式が成立し、化学肥料との代替率は68%(CV,13%)であった。
 (7)オーチャードグラスに乳牛スラリーを単用する場合の施用限界は、牧草中のNO3-N含有率0.2%以下を基準にすると7t/10a以下、牧草中のMg含有率の安全基準域内では4t/10a以下であった。しかし、苦土含有資材の併用により、NO3-N含有率の基準内の7t/10aまで増施できる可能性が認められた。
 (8)乳牛スラリー8t/10a以下の場合には苦土含有資材の牧草中のMg含有率に対する上昇効果は50kg/10aで最高であり、8t/10a以上では苦土含有資材を400kg/10a併用してもMg含有率の安全基準以下になることが認められた。
 (9)苦土含有資材を乳牛スラリーに併用することにより、牧草中のP含有率は容易に高まるが、Ca含有率が高まらず、施用翌年には低下する傾向があり、Ca/P比を高めるにはマメ科率を高める必要がある。苦土含有資材の牧草中のMgおよびP含有率に対する肥効は施用翌年まで持続した。
 (10)サイレージ用とうもろこし(早生品種)に乳牛スラリーを施用する場合には、春施用よりも秋施用が収量的にまさる傾向があり、P2O530kg/10aを併用するとその傾向が顕著であった。
 (11)化学肥料Nのサイレージ用とうもろこしに対する肥効は、スラリーを施用しない条件下では土壌の排水条件であればスラリー4.5tで肥料Nは最大のマイナス肥効を呈し著しく減収した。しかし、排水不良条件下でも肥料N12kg/10a以上の施用か、スラリーの20t/10a近い施用により標準的収量水準に達した。排水不良条件下でのスラリー施用による肥料N肥効の著しい低下は、脱窒菌増殖に必要なエネルギーがスラリー施用により供給され、脱窒によるロスがとうもろこしへのN供給料を上回った場合におこると推察した。
 (12)したがって、肥料Nの減肥は土壌排水条件の違いにより全く相反した作用をするスラリー肥効の二面性を考慮して行うことが、湿性火山性土におけるサイレージ用とうもろこしへのスラリー利用の基本となることを明らかにし、また、その対策を提案した。

10.主要成果の具体的データ
 表1.畑酪地帯における乳牛スラリーの化学組成(21点)
成分 含水比% pH ECミリE/cm RE% RI% LI% I-C% T-N% C/M NH4-H
/TN
P2O5% K2O% CaO% MgO%
平均 1116 7.2 14.0 9.4 4.1 5.3 2.7 0.34 8.0 0.47 0.16 0.36 0.15 0.07
CV% 23 6 18 22 31 22 27 20 26 16 21 24 31 27

表2.牧草の乾物増収量に対する草地切断効果、スラリーまたは化学肥料自体の効果、施用位置効果との関係
施用
形態
物理的
処理
物理的
効果(kg/10a)
スラリーまたは化学肥
料自体の効果(kg/10a)
施用位置的
効果(kg/10a)
総効果(kg/10a)
無 施 用 なし 0 0 0 0
作土 16(100) 0(0) 0(0) 16(100)
心土 -26(100) 0(0) 0(0) -26(100)



表面散布 なし 0(0) 48(100) 0(0) 48(100)
作土注入 作土 85(61) 48(35) 6(4) 139(100)
心土注入 心土 84(200) 48(114) -90(-214) 42(100)
表面散布 作土 85(63) 48(37) 0(0) 133(100)
心土 84(64) 48(36) 0(0) 132(100)



表面散布 なし 0(0) 243(100) 0(0) 243(100)
作土 -10(-4) 243(104) 0(0) 233(100)
心土 -15(-7) 243(0) 0(0) 228(100)
注1)( )内の数字は各効果の100分比
 2)物理的効果:スラリーまたは化学肥料の表散区(インジェクタによる空走り−無処理)
 3)肥料的 〃 :スラリーまたは化学肥料表散区−無施用区
 4)位置的 〃 :スラリー施用(作土または作土注入)−スラリー表散区の空走り(作土または心土)

表3.スラリーまたは化学肥料の連用効果

項目
/処理
物収量
(kg/10a年)
施用Nの
肥効率
△DM/施用N
吸収Nの
生産効率
△DM/△N
回収率
△N/施用N
スラリーの化学肥料との
代替率(f)
1番草
NO3-N
(PPm)
P吸収量
(kg/10a年)
△DM △N △P △K


1

無施用 529d - - - - - - - 330 2.02



表散 703bc 11.4 31 0.37 0.49 0.56 0.67 0.86 460 2.76
作土 761b 15.2 32 0.47 0.65 0.71 0.52 0.98 1580 2.59
心土 668c 9.1 25 0.37 0.39 0.56 0.08 0.53 1285 2.11
化学肥料 884a 23.2 35 0.66 1.00 1.00 1.00 1.00 3575 3.12


2

無施用 697c - - - - - - - 130 2.66



表散 869a 11.9 51 0.23 1.21 0.43 4.46 1.06 175 3.24
作土 753b 3.5 33 0.11 0.36 0.20 -0.54 0.65 590 2.59
心土 778b 5.1 50 0.10 0.52 0.19 -0.31 0.61 270 2.62
化学肥料 854a 9.8 18 0.54 1.00 1.00 1.00 1.00 1780 2.79


3

無施用 523c - - - - - - - 818 2.16



表散 676a 10.4 48 0.21 1.48 0.62 - 1.25 912 2.78
作土 705a 12.4 33 0.37 1.75 1.07 - 1.45 2864 2.60
心土 660a 9.0 53 0.17 1.26 0.49 - 0.92 1872 2.24
化学肥料 627b 9.1 20 0.35 1.00 1.00 - 1.00 3805 2.09


図1 スラリー施用と牧草中のNO3-N含有率との関係
   (施用限界①)


図2 スラリー用量と牧草Mg/%
   (施用限界②)


図3 スラリー用量を異にした草地の牧草1番草中の
   Mg%に対する熔成リン肥の施用効果(資材施用年)


図4 土壌排水良、不良ブロックにおけるスラリーがサイレージ用とうもろこし乾物収量に
   対する肥料NまたはPKの肥効に及ぼす影響(N=6kg/10a,P2O515kg/10a,K2O7kg/10a)

11.今後の問題点の検討
 1)スラリーの分施
 2)スラリー施用限界以下での化学肥料との合理的組み合せ
 3)スラリーに苦土含有資材を併用した場合でも、資材による牧草中Ca含有率上昇効果があまり期待できないので、マメ科維持を前提とした検討が必要
 4)スラリー肥効と草地切断効果との関連性についてさらに土壌肥料学的な検討が必要
 5)排水不良場権威おけるスラリー施用による肥料Nのサイレージ用とうもろこしへの肥効減退要因の解明

12.普及指導上の注意事項
 1)本成績は、土壌凍結地帯の湿性火山性土で得られたものであり、当該地帯においてイネ科牧草主体草地およびサイレージ用とうもろこし早生品種の栽培で、乳牛スラリーを利用する場合に適用する。
 2)乳牛スラリー利用効果は若い草地より経年化の進んだ草地で高い。
 3)草地土壌切断効果は化学肥料施用の場合は小さい点に留意すること
 4)乳牛スラリー施用に際し、苦土含有資材の併用を前提とすべきであるが、現物50kg/10a以上の施用はその併用効果を下げるので、それ以下の施用にとどめるべきである
 5)サイレージ用とうもろこしへの乳牛スラリー施用に際しての化学肥料の減肥は、とくに湿性火山性土では排水良否により全て異なるスラリー肥効の二面性を考慮する必要があり、排水不良地でのスラリー施用は避けた方がよい。