【指導参考事項】
稲わら腐熟度の簡易判定法について
(昭和48〜54年) 上川農試土壌肥料科

目  的
 水田の地力増進方策として生産有機物(稲わら)の効率的処理法の重要性が指摘される一方、稲わらの腐熟促進法とともに簡易腐熟度判定法の確立が強く要望されている。
 したがって、稲わらの腐熟度を簡易に判定する新しい方法(アルカリ抽出法)を従来の化学的測定法と対比するとともに稲わらの腐熟度と水稲の初期生育の関係を検討し、その基準を策定せんとする。

試験方法
A アルカリ抽出条件の検討
①抽出液(NaOH)の濃度…0.1、0.5、1.0%④試料調整法…乾燥後1㎝に切断・粉砕
②抽出時間…6,24時間⑤窒素質資材添加の影響…無添加・硫安添加
③試料と抽出液量の割合…2:30、2:225⑥室内培養による稲わらの腐熟過程と化学組成の変化
B アルカリ抽出法と化学分析値との比較
①供試材料の処理内容…地表放置、土壌添加・堆積放置、地中埋設(いずれも6ケ月)
②添加資材…硫安、尿素、石灰窒素、珪カル、溶燐、ワラクサール、ウロンC
③測定項目…分解率、T-N、T-C、C/N、灼熱損失量、アルカリ抽出液の吸光度(47mμ、61mμ)
C 稲わらの腐熟度と水稲の初期生育の関係
①試験規模…ノイパウエルポット試験
②供試土壌…褐色低地土、グライ低地土(風乾細土)
③処理内容…完熟稲わら堆肥、堆積稲わら、秋散布稲わら、現物稲わら
④調査項目…草丈、茎数、乾物重、N吸収、NH4-N、活性二価鉄、Eh6

試験成果の概要
A アルカリ抽出条件の検討
1)アルカリ抽出液(NaOH)の適当な濃度は0.5%であり、さらに、抽出時間は室温(20℃前後)で24時間ほど要する。また、切断未粉砕試料は現物稲わらの場合には低い値を示すが、腐熟中程度のものは粉砕の有無による差は小さい。したがって、実用上乾燥試料を1㎝以下に切断したものでもほぼ目的が達せられる。
2)抽出時の試料と抽出液量の割合は、試料2gに対し抽出液を30mL添加し、抽出後0.5%NaOH希釈(抽出液10mLに対し希釈液75mL)し吸光度を測定する。また、吸光度の測定は抽出後20〜30分までに行なう必要がある。
B アルカリ抽出法と化学分析値との比較
1)腐熟稲わらの化学組成の中、分解率とわら中の窒素含量(γ=0.710***)、C/N比と窒素含量(γ=0.936***)の間に夫々高い相関が得られ、腐熟度の高い稲わらほど窒素含量が高く、C/N比が小さい。
2)0.5%のNaOHによって抽出される腐熟稲わら含有腐植物質の吸光度(470mμ)と窒素含量およびC/N比の間にも夫々高い相関関係(γ=0.685***、γ=0.655***)が認められ、窒素含量が高く、C/N比が小さい腐熟度の高い稲わらほどアルカリ抽出液の吸光度が明らかに高い。
C 稲わらの腐熟度と水稲の初期生育の関係
1)施用稲わらの化学組成がC/N比で27以下、アルカリ抽出液の470mμ吸収度が0.8以上のものは水稲の初期生育およびN吸収に対して促進的に関与するが、C/N比42以上、吸光度0.6以下のものでは明らかに阻害的に作用して初期生育が著しく抑制され、とくにその傾向は褐色低地土に比べグライ低地土の方が大きかった。また、C/N比42以上および吸光度0.6以下の粗大有機物の施用によって土壌の還元化が著しく助長された。
 以上の結果から、稲わら腐熟度の簡易判定法としては従来の肉眼観察による色の違い、灼熱損失量およびC/N比などの判定法よりも0.5%NaOH抽出腐植液の470mμ吸光度を測定する方法の方が迅速・簡便であり、かつ、有効である。

主要成果の具体的データー
1.供試腐熟稲わらの分解率および化学的性状(n=60)
項   目 分解率
(%)
T-C
(%)
T-N
(%)
C/N 灼熱
損失量
(%)
吸光度(mμ) 吸光比
(470mμ/
610mμ)
470 610
現物稲わら - 37.7 0.60 62.8 85.0 0.358 0.050 7.16
6ヶ月堆積稲わら - 35.3 1.15 30.7 81.4 0.980 0.245 4.00
完熟稲わら堆肥 - 18.7 1.57 11.9 66.0 1.050 0.392 2.68
腐稲
 わ
熟ら
平均値 43.9 36.2 0.87 42.8 81.5 0.608 0.143 4.46
変異係数(%) 9.95 6.14 15.65 16.64 5.32 11.86 26.34 11.42
標準偏差 4.33 2.21 0.14 7.11 4.33 0.072 0.038 0.51

2.吸光度に及ぼすNaOH濃度の影響
 (乾燥・未粉砕24時間浸漬)

3.飼料粉砕の有無と吸光度の関係(室内培養試験)

4.施用稲わらの腐熟度と水稲の乾物重、N吸収の関係(ポット試験)

普及指導上の注意事項
1)分析に供試する腐熟稲わらは土砂混入を避けるため水洗乾燥後、10mm以下に切断して使用する。
2)稲わらの腐熟度をより大まかに判定する場合には、抽出後の色調を直接標準土色帳によって求めることも可能である。
3)0.5%NaOH抽出法による470mμ吸光度が0.7以上の腐熟稲わらは水稲の初期生育に対して阻害的な影響はほとんど認められない。
4)アルカリ抽出法による粗大有機物の腐熟度の判定法は稲わらについてのみに限られ、とくに、リグニン含量の多いパーク堆肥などについての適用は避けること。