【指導参考事項】
排水不良田の地力培養方策ならびに土壌管理法に関する試験
(昭和50年〜54年) 上川農試土壌肥料科

目  的
 寒地における稲作生産の安定化を図るため、地力の維持増強およひ機械化作業体系の効率化の立場から、とくに排水不良田における生産有機物の積極的利用による地力培養方策を確立するとともに、その効果を充分に発揮できる適切な土壌管理法について検討する。

試験方法
A 稲わら施用に伴う水稲の初期生育不良要因の解析
処理項目 試験(Ⅰ) 試験(Ⅱ)
試験規模 100c㎡のノイパウエルポット  
供試土壌 グライ低地土、褐色低地土(風乾細土) グライ低地土、褐色低地土(風乾細土)
施用有機物 堆肥、稲わら4g/ポット 稲わら0、0.5、1.0%/土壌重量
温度条件 17、20℃(人工気象箱) 前半…ビニールハウス、後半…網室
移植前の湛水日数 4日間 0、15、30日間

B 土壌環境の相違と粗大有機物施用法の確立
1)土壌の種類;褐色低地土(永山)、グライ低地土(鷹栖)
2)施用有機物;堆肥1t、稲わら500kg/10a
3)耕起様式;普通耕(12cm)、深耕(18cm)
4)排水性改善;中耕、中干し、籾殻暗渠
各要因の組合せの他に、無施用
(対照)の処理区も設置した。
5)供試品種;「イシカリ」稚苗機械移植

試験成果の概要
〔A〕施わら施用に伴う水稲の初期生育不良要因の解析
 1)グライ低地土および褐色低地土とも完熟稲わら堆肥の施用によって初期生育量が高まるのに対し、未熟稲わら施用では逆に生育が抑制され、中でもグライ低地土での阻害程度が著しし。
 2)未熟稲わら施用による水稲の初期生育量の停滞および養分吸収の阻害は低温条件下ほど著しく出現し、しかもグライ低地土の方が褐色低地土に比べその影響が大きい。
 3)これら障害性に関与する要因としてポリフェノール系物質の生成が考えられる。この生成量は活性2価鉄とともに地温上昇により増大するが、全ポリフェノール系物質濃度は両土壌とも積算地温200〜300℃でピークがみられた。
 4)グライ低地土は褐色低地土に比べ全ポリフェノール系物質濃度が高く、かつ残存期間が長い。
 また同一濃度でも水稲の生育阻害程度が褐色低地土よりはるかに大きい。
〔B〕土壌環境の相違と粗大有機物施用法の確立
 1)グライ低地土において、圃場状態がきわめて軟弱だった50、51の両年は明らかに稲わら施用によって水稲の初期生育が抑制されたが、圃場の乾燥化が進行した52年以降ではその傾向がほとんどみられず、とくに籾殻暗渠および中耕処理を併用したものではむしろ無施用を上廻る乾物重を示した。また、深耕の効果も同様に認められた。
 2)褐色低地土では堆肥および稲わら施用によって穂数、籾数が増加し、玄米収量の面でも無施用を上廻った。一方、グライ低地土では稲わら施用により登熟歩合が低下したが、籾殻暗渠および中耕によりその不良性がかなり改善され、玄米収量は無施用を上廻った。 3)また、粒径2.0mm以上の上玄米収量についてみると、両土壌とも稲わら施用によるマイナス面はみられず、とくにグライ低地土では排水改善対策(籾殻暗渠、中耕、深耕)によって上玄米収量が高まった。
 4)結局、排水不良な湿田であっても非湛水期間の適切な土壌管理と湛水期間中の周到な水管理によって作土の乾燥化を図れば、稲わらの施用に伴う土壌環境の悪化、初期生育障害ならびに生育遅延による玄米の品質低下などもほぼ回避できるものと考えた。

主要成果の具体的データー
1)有機物施用と温度条件の関係
   (昭51年6月29日)

2)積算地温と活性Fe++および全ポリフェノールの関係(昭53)

3)地上部乾物重の比較(昭53年7月10日)

4)湛水期間中の地温の推移(昭51年)
場所 測定
位置
6月 7月
上旬 中旬 下旬 上旬 中旬 下旬
永山 5cm 177 175 179 181 199 236
10cm 166 172 184 183 196 236
鷹栖 5cm 166 172 199 206 223 260
10cm 145 156 172 179 191 230

5)耕起法と残存粗大有機物量(昭51)
場所 処理 10a当り10
cm深残存有
機物量(kg)
同比
(%)
永山 稲わら 普通耕 398.1 100
深耕 194.6 49
鷹栖 稲わら 普通耕 738.9 100
深耕 451.2 61

6)玄米重および収量構成要素の平均値(昭50〜昭54)
土壌および処理 わら重
(kg/a)
玄米重
(kg/a)
青米歩合
(%)
㎡当り
穂数
(本)
㎡当り総
籾数
(×102)
登熟歩合
(%)







対 照 区 47.7 54.2 19.7 531 316 72.4
堆 肥 区 47.8 55.0 25.2 560 336 69.1
稲わら
秋散布
対照区 49.9 54.9 22.0 528 323 69.0
籾暗区 49.9 56.6 26.0 531 326 70.7
中耕区 47.7 56.2 14.5 517 327 71.1

対 照 区 52.2 56.4 24.9 547 338 69.7
稲わら秋散布区 52.3 56.6 25.0 582 358 66.8






対 照 区 49.4 54.3 6.2 560 312 80.2
堆 肥 区 50.4 57.3 6.2 589 327 79.4
稲わら秋散布区 51.0 57.3 5.5 577 318 80.2

対 照 区 49.0 55.4 6.7 561 317 79.0
稲わら秋散布区 46.9 56.2 6.9 568 324 79.2

普及指導上の注意事項
1)地表面が軟弱な排水不良田においても、圃場の乾燥化が促進されれば稲わら秋散布・秋鋤込みの方法でも障害は少ない。
2)圃場の乾燥化を図るためには籾殻暗渠、浅暗渠などの排水法改善処理と融雪剤の散布、中干し、中耕および作溝などの補助排水を必要とする。また、作土層がきわめて軟弱な圃場では大型機械の導入は極力避けること。
3)強粘質な排水不良田では稲わら施用に伴って作土層に粗大有機物(稲わら、刈株残根など)がマット状に集積する傾向があるため、中耕機によって土壌を攪拝し、有害物質の排除に努めること。
4)排水不良田では稲わら施用による生育初期の障害性を回避するため、耕起から湛水までの期間を出来るだけ長くとり、移植時の土壌環境を酸化的に保つ必要がある。