【指導参考事項】
1.課題の分類  肉牛 組立
2.研究課題名  肉用牛の大規模繁殖経営における集団飼養技術に関する試験
           (実用化技術組立試験)
3.期  間  昭49〜53
4.担  当  新得畜試 プロジェクトチーム
5.予算区分  総合助成
6.協力分担  北大、農事試、北農試、滝川農試

7.目  的
 環境保全、草地の維持管理と粗飼料の生産・貯蔵および肉用牛(ヘレフォード)の集団飼養技術の3本の柱を軸とした個々の実用化技術を総合的に組立て、規模拡大を志向する繁殖経営農家のための経営技術を検討する。

8.試験研究方法
1.試験準備と基礎調査    (49)
2.素材技術の選択と実用化組立技術の実証    (50〜51)
3.実用化組立技術の修正(繁殖育成へ移行)    (52)
4.修正部分(繁殖育成)について継続実証    (53)

9.結果の概要・要約
1)環境保全
  放牧地の間近河川では水質基準をこえる場合が多いので、今後、家畜が直接河川へ踏み入ることのない対策が必要である。越冬基地の周辺河川ではとくに異常な値は認められた。
2)草地の維持管理と粗飼料生産・貯蔵
 (1)採草地の乾物収量は平均834kg/10aで、目標よりやや低かった。
 (2)粗飼料の調製はビックベーラを軸とする一貫機械化体系を採用した。調製量は調製率(調製量/収量×100)の影響が大きく、作業機械の調整および機種の変更によって調製率を70%程度まで向上できた。
 (3)採草地はオーチャードグラス主体のため、刈り遅れが多く、その飼料価値もやや低かった。チモシーの1番乾草では、Mg含量がきわめて低く、低マグネシウム血症発生の危険性が高かった。
 (4)ビックベーラの作業能率はベーベーラよりやや高い程度であったが、運搬と収納作業はきわめて高能率で省力化できた。また、トワインの消費量は、ベーベーラの約1/3に節減された。
 (5)ビックベール乾草は水分が高いと、発熱、発酵、発カビによって品質が低下するばかりでなく、発酵熱によって発火する危険性もある。また、直接地面におくと、地面から吸湿が大きいので、屋外に堆積する場合は大型古タイヤなどを下敷にして、シートで覆うのがよい。
 (6)悪天候が良そうされ、牧草の水分含量が高い場合(梱包時の水分含量が高い場合)は低水分サイレージに調製する方がよい。調製方法は袋詰めとビニールバキュームサイロによる方法によったが、いずれも密封が完全であれば良質のものが調製できた。
3)肉牛の集団飼養
 (1)受胎率、育成率および生産率はそれぞれ87.3、97.7および85.3%で、ほぼ目標に達した。
 (2)低マグネシウム血症が5頭発生し、2頭へい死したので、Mg入り肥料の施用およびMgの経口投与などを検討した。
 (3)飼養法は、夏季は全放牧、冬季は妊娠期では屋外飼養、分娩時では簡易施設によって行ったが、肉牛の疾病や発育に悪影響がないことを実証した。
 (4)放牧地の乾物収量および現存量はそれぞれ639,1,292kg/10aで、乾物採食は515kg/10aであった。収量および現存量に対する乾物利用率はそれぞれ75.3、40.2%であった。成雌牛1頭当りに要した放牧地面積(兼用地30%を含む)は0.70haであった。
 (5)成雌牛1頭当りに要した冬季の粗飼料の総乾物漁は約2.1tで、そのうち採食量は1.8t、褥草量0.3tであった。また、若雌牛および育成雌牛の粗飼料の必要量は成雌牛のそれぞれ1.0,0.5頭分に相当した。濃厚飼料は年間に成雌牛では約100kg、若雌牛で約200kg、育成雌牛では約400kgを必要とした。成雌牛1頭当りに必要な採草地面積は0.26haであった。
 (6)子牛の離乳時体重の平均は、雌・雄それぞれ186,199kgで、ほぼ目標に達した。育成雌牛は14か月令で体重300kgに達し、早期繁殖をしたが悪い影響は認められなかった。成雌牛は冬季に分娩による減量を除いて体重を維持し夏季に分娩による減量分以上をとり戻す発育パターンを示した。
 (7)越冬基地のシェルターとバッフルの組み合せでは、防雪、防風および保温の効果が認められ、シェルターの利用は酷寒指数と密接な関係があった。
 (8)ビッグベールの給与にあたっては、種々の草架を試作したが、簡単易草架を用いることによって、その損失率を低くすることができた。
4)経営経済
 (1)総労働時間は繁殖経営では約1,980時間、繁殖育成経営では約2,210時間で、その差は少なかった。総労働時間のうち、飼料の生産は約40%、肉牛の管理は約60%であった。月別の労働時間のピークは1番草の収穫時期であった。肉牛の管理は冬季に多いが、月別労働時間は少ないので、経営方式が繁殖から繁殖生育、さらには繁殖肥育経営になっても、労働時間では問題がない。
 (2)農業所得は、昭和51年と52年の繁殖経営では子牛価格が低かったため目標所得300万円に達しなかったが、昭和53年の繁殖育成経営では目標に達した。
 (3)子牛および育成去勢牛の1頭当り第1次生産費は、3か年平均した販売価格のそれぞれ13.0%で繁殖単一より育成を付加することが有利であった。
5)組立試験へのシミュレーション手法の適用
 (1)採草の順位は、春先の生育良好の年では兼用地から、不良な年では採草地から始めるのがよい。
 (2)子牛生産立が4%向上すると、約30万円の所得増が期待できる。
 (3)繁殖経営では、子牛価格が低かった(生体1kg当り600〜650円)ので目標の所得に達しない。目標所得に達するためには、子牛価格が生体1kg当り870円を必要とする。
 (4)所得を拡大するには、繁殖から繁殖育成さらには繁殖肥育経営にする方がよい。

10.主要成果の具体的数字
項   目 計画 実証結果 備  考
昭和50年 昭和51年 昭和52年 昭和53年
経営形態 繁殖 繁殖 繁殖 繁殖
(1部育成)
繁殖育成



土地面積
(ha)
採草地 20 22.4 20.5 22.4 20.5  
兼用地 10 15.5 14.0 12.1 10.7  
放牧地 20 24.1 27.5 27.5 30.8  
50 62.0 62.0 62.0 62.0  
草粗
地飼
の料
維の
持生
管産
理 ・
と貯
 蔵
収量
(DMkg/10a)
採草地 1,000 801 805 786 943  
調製量
(DMkg/10a)
採草地 700 453 416 524 686  
調製率
(DM%)
採草地 700 56.0 51.7 66.7 72.8  
総調製量
(大)
採草地 120.0 141.4 121.5 151.2 181.0  






繁    殖 交配方法 まき牛
交配
同 左 同 左 同 左 同 左  
受胎率(%) 90.0 83.0 86.0 88.0 92.0  
育成率(%) 95.0 100.0 97.0 93.2 100.0  
生産率(%) 85.5 83.0 94.0 82.0 92.0  
疾病の発生
と予防
低マグネシウム
血症
  2
(へい死)
  2
(へい死)
0   
タイレリア病   5 9 0 7  
ピンクアイ   21 13 1 43  
子牛下痢症   0 13
(へい死)
29 32  
趾間腐爛   3 2 14 31  
球節捻挫   2 3 1 0  
その他   5 8 7 12  
夏季(放牧
期)の飼料
給与
収量
(DMkg/10a)
800 612 595 578 769   
採食量
(DM,kg/10a)
560 496 474 433 657   
収量に対する利
用率
(DM,%)
70.0 71.3 72.6 72.2 85.2   
現存量に対する
利用率(DM,%)
50.0 41.9 39.0 33.0 46.9  
1ha当りの標準
頭数(頭)
   322 317 338 393  
1ha当りの増
体量(kg)
  343 277 253 347  
体重100kg当り
のDM採食量
(kg)
  3.2 3.0 2.8 3.5  
冬季の飼料
給与
粗飼料の
総摂取量
(DM,t)
120
(150)
87.2
(102.6)
97.4
(114.5)
106.6
(125.5)
121.4
(142.8)
( )内は水分15%の
乾草換算
総褥草量
(DM,t)
  19.8
(23.3)
15.0
(17.6)
16.7
(19.6)
18.7
(22.0)
成雌牛の摂
取した粗飼
料(DM,t/頭)
2.1
(2.45)
1.71
(2.02)
1.86
(2.19)
1.68
(2.00)
1.94
(2.29)
成雌牛の褥
草量(t/頭)
   0.42
(0.49)
0.27
(0.32)
0.29
(0.34)
0.33
(0.39)
( )内は1日当り
成雌牛の濃
厚飼料(kg/頭)
200 122 133 91 92  
若雌牛の濃厚
飼料(kg/頭)
      - 280
(1.4)
289
(1.4)
176
(0.9)
( )内は1日当り
育成雌牛の
濃厚飼料(kg/頭)
500
(2.5)
483
(2.4)
422
(2.1)
333
(1.7)
371
(1.9)
育成去勢牛の
濃厚飼料(kg/頭)
400
(2.0)
- - 389
(1.9)
429
(2.2)
子牛の発
育(kg)
生時
体重
  31.6 31.9 32.0 30.1   
  33.0 31.5 33.6 32.6   
離乳時
体重
180 181 192 190 180   
200 199 195 204 196   
205日補
正体重
  179.1 195.0 199.5 181.6   
  189.7 203.7 210.1 194.5   
育成雌牛
の発育(kg)
舎飼開始
時体重
200 209 212 227 209   
舎飼終了
時体重
300 300 322 300 296   
若雌牛の
発育(kg)
放牧開始
時体重
300   300 322 300  
放牧終了
時体重
400   410 414 416  
分娩全体
460   471 469 475  
舎飼終了
時体重
410   441 419 419  
成雌牛の
発育(kg)
放牧開始
時体重
  425 488 526 509  
放牧終了
時体重
  534 560 580 558  
分娩前体
  522 577 554 566  
舎飼終了
時体重
  480 537 511 521  



労働時間 総労働時
間(時間)
3,664 1,915 2,044 1,928 2,121 ( )内は総労働時間
に対する比率(%)
   〃   (〃)
飼料生産
(〃)
1,690
(46.1)
840
(43.9)
875
(42.8)
765
(39.7)
775
(36.5)
肉牛管理
(〃)
1,974
(53.9)
1,075
(56.1)
1,168
(57.2)
1,163
(60.3)
1,346
(63.5)
成牛1日1頭
当りの肉牛
管理(分)
5.7 3.5 3.6 3.2 3.7
経済評価 農業粗
収益    Ⅰ(円)
    5,670,722
(5,115.722)
7,144,261
(5,263.261)
12,186,475
(9,578.475)
①Ⅰは各年度の販
売価格によるもの、
Ⅱは1976〜1978年
の3か年平均販売
単価によるもの。
②ⅠとⅡの( )内数
字は、乾草、牧草
サイレージの販売
金額を農業粗収益
から除外し、農業
経営費からその販
売数量に相当する
物財費、・永年牧草
償却費を差し引いた
。但し、トラクターお
よび作業機は牧草
面積の増減に関係
ないので差し引か
なかった。     
Ⅱ(円)     5,943,689
(5,.86.689)
7,713,894
(5,832,894)
10,410,369
(7,802,369)
農業経
営費    Ⅰ(円)
    5,280,881
(5,136,015)
5,595,228
(5,150,597)
6,033,842
(5,540,252)
Ⅱ(円)     5,288,463
(5,143,597)
5,612,035
(5,167,404)
6,000,620
(5,513,030)
農業所得
       Ⅰ(円)
    389,841
△(20,293)
1,549,023
(112,664)
6,152,633
(4,038,223)
Ⅱ(円)     655,226
(245,092)
2,101,859
(665,490)
4,403,749
(2,289,339)
子牛1頭当り第1
次生産費(円)
      178,767 160,989 134,921  
育成去勢牛1頭当
り第1次生産費(円)
          206,647  

11.今後の問題点
 1)低マグネシウム血症の予防対策を早期に確立する必要がある。
 2)ビックベールサイレージ調製の実用化にあたって、より省力的で経済的な方法を検討する必要がある。
 3)牛群の改良を進めるため、人工授精の導入方法の検討が必要である。
 4)秋分娩方式による技術体系の検討が必要である。
 5)シミュレーション手法については、今後環境保全や人間生活に与える効果についても考慮する必要がある。

12.普及指導上の注意事項
 個々の経営の立地条件、経営規模等の実態をふまえて、実際に即した営農技術の普及が必要である。