【指導参考事項】

1.課題の分類　　新得畜試　酪農 2.研究課題名　　畑地型酪農における粗飼料生産構造と経営集約化に関する調査研究 　　　　　　　　　　　サイレージ用とうもろこしの生産性と生産費用−十勝地域を中心に− 3.期　　間　　(昭51〜55) 4.担　　当　　新得畜試　経営科 5.予算区分　　道単 6.協力分担

7.目　　的
　畑地型酪農における土地利用や乳牛飼養形態変化の重要な契機となっているサイレージ用とうもろこしの経営的評価の一環として、飼料作物としての生産性および生産費用の実態を考察し、サイレージ用とうもろこしの生産性向上、コスト低下の見通しを得る。

8.試験研究方法
　農家記帳による実態調査を中心に、農林水産省牛乳生産費調査の自給飼料費用価調査等を利用してサイレージ用とうもろこしの生産性および生産費用の実態を把握し、牧草サイレージ並びに乾牧草との比較検討を行った。

9.結果の概要
　1)生産構造面からサイレージ用とうもろこしの特徴を見ると、成牛飼養頭数の多頭化とともに作付面積は比例的に大きくなり、自給飼料作物中の作付割合も高まり、それに伴って土地利用の集約化が進行している。粗飼料構成ではサイレージ用とうもろこしは牧草に代替してサイレージの主流を占め、給与期間の延長・通年化の展開とともに次第に放牧との代替が進みつつある。
　2)サイレージ用とうもろこしの栽培技術の水準は平準化の傾向にあるが、品種選択や適切な栽植密度を確保する播種技術や早期除草等の栽培技術面での立遅れが見られ、生産性や生産費用面に大きく影響し、生産性における作付面積規模の階層性は必ずしも明瞭でなく、個別変動が大きい段階にある。
　3)サイレージ用とうもろこしの草地更新や作付交替に果す役割は、圃場の距離や土地条件によって限定され、しかもてん菜と比べるときわめて不十分である。また、作物間の労働競合面では2回収穫を前提にした牧草の収穫作業はサイレージ用とうもろこしの栽培収穫作業とは競合せず、1番牧草への依存割合を低下させて労働の季節変動を高位に平準化させる傾向にある。しかし、てん菜等の換金作物および3番牧草収穫とは春・秋作業の競合が予想され、てん菜等の栽培技術の改善やサイレージ用とうもろこし収穫作業の一層の省力化が要請される。
　4)牧草類と比較したサイレージ用とうもろこしの生産性における特徴は土地生産性は高いが労働生産性は極めて低い点にある。労働生産性が低い要因は1年生作物として労働集約的なことによるが、労働集約性が労働生産性の低位を必然とするものでなく、収穫面積規模別あるいは熟度変化として見れば牧草類よりも高い水準となるものもあり、労働生産性で優位となる可能性は示されている。サイレージ用とうもろこしの生産性向上のためには土地生産性(特に熟度)向上と手作業の排除、労働組織の合理化等による省力化が課題となる。
　5)牧草類と比較してサイレージ用とうもろこしの生産費用は極めて高く、その要因は費用全般にわたって集約的なためであり、特に流動物財費で集約的である。費用の集約性は生産費用の上昇を必然とするものでなく、生産性の水準を介した相対的なものである。収穫面積規模別あるいは熟度を変化させて見れば牧草類以下の低生産費用のものもあり、費用の集約性が生産向上に結びつくような栽培・収穫技術の改善、とくに熟度・収量の改善が大切である。
　6)以上の検討のように、牧草に代替した自給飼料作物におけるサイレージ用とうもろこしの比重の高まりは酪農経営における土地利用の集約化をもたらしているが、この集約化は必ずしも生産性の向上、生産費用の低下に結実しておらず、作付面積規模の断層性よりも個別変動の大きい段階にある。今後の生産性向上、生産費用低下の方策として、上述した個々の生産性向上のための技術的改善が必要である。

10.主要成果の具体的数字
表1　粗飼料種類別土地生産性及び生育期が指数

	種類	とうもろこしサイレージ							牧草類(チモシー主体混播)
	熟期/段階	Ⅱ	Ⅳ	Ⅴ	Ⅵ	Ⅶ	平均	47〜51 年平均	種類		牧草サイレージ						乾牧草
									生育期/ 階層		Ⅱ	Ⅳ	Ⅵ	Ⅶ	平均	47〜51 年平均	Ⅰ	Ⅱ	Ⅲ	Ⅳ	Ⅴ	平均	47〜51 年平均
10a当 収 量 の 実 態	10a当り原物収量	kg 5,000	3,759	3,957	4,558	5,362	4,408	4,211	10a当り原物収量		3,500	3,040	3,355	3,120	3,287	3,052	506	664	782	915	683	730	871
	〃　　DM収量	kg 970	729	768	884	1040	855	817	〃　　DM収量		875	760	839	780	822	763	420	551	649	759	567	606	723
	〃　　TDN収量	kg 675	507	534	615	724	595	568	〃　　TDN収量		525	456	503	468	493	458	253	332	391	458	342	365	436
10a当 乾 物 収 量 指 数	実態	98	74	78	90	105	87	83	実態		89	77	85	79	83	77	43	56	66	77	57	61	73
	黄熟期	113	85	90	103	122	100	96	出穂期		101	87	97	90	95	88	43	57	67	78	58	62	74
	糊熟期	112	84	89	103	121	99	95	開花期		91	79	88	82	86	80	42	55	65	76	56	60	72
	乳熟期	97	73	77	89	104	86	82	再 生	出穂前	74	64	71	66	69	64	44	57	68	79	59	63	75
	※(黄熟中期)	(127)	(95)	(100)	(116)	(136)	(112)	(107)		出穂後	119	103	114	106	112	104	42	56	66	77	57	61	73

注)生育期別指数はとうもろこしサイレージ平均の黄熟期を基準にしたもので黄熟期の10a当りDM収量987kg,又TDN661kgである。
　　また、5か年平均の数字は帯広統計情報事務所管内で、日高・釧路を含む。黄熟中期はDM25%、TDN18%のもの。

表2　粗飼料種類別労働生産性及び生育期別指数

	種類	とうもろこしサイレージ						牧草類
	熟期/段階	Ⅱ	Ⅳ	Ⅴ	Ⅵ	Ⅶ	平均	種類		牧草サイレージ					乾牧草
								生育期/ 階層		Ⅱ	Ⅳ	Ⅵ	Ⅶ	平均	Ⅰ	Ⅱ	Ⅲ	Ⅳ	Ⅴ	平均
10時 間当り 収 量 の 実 態	10a当り労働時間	時 5.0	6.3	8.2	23.0	17.5	11.7	10a当り原物収量		7.0	3.0	5.5	9.4	6.0	3.5	6.1	3.5	7.0	5.5	5.5
	10時間当り原物収量	kg 10,000	5,967	4,826	1,982	3,064	3,768	10時間当り原物収量		5,000	10,133	6,100	3,319	5,478	1,446	1,089	2,234	1,307	1,242	1,327
	〃　　DM収量	kg 1,940	1,157	937	384	594	731	〃　　DM収量		1,250	2,533	1,525	830	1,370	1,200	903	1,854	1,084	1,031	1,102
	〃　　TDN収量	1,350	805	651	267	414	509	〃　　TDN収量		750	1,520	915	498	822	723	544	1,117	654	622	664
10時 間当り 乾物 収 量 指 数	実態	230	137	111	45	70	87	実態		148	300	181	98	162	142	107	220	128	122	131
	黄熟期	265	158	128	53	81	99	出穂期		168	341	205	112	184	144	109	223	130	124	132
	糊熟期	263	157	127	52	81	99	開花期		153	310	187	101	167	139	105	216	126	120	128
	乳熟期	227	136	110	45	70	86	再 生	出穂前	123	250	150	82	135	146	110	226	132	126	134
	※(黄熟中期)	(296)	(177)	(142)	(59)	(159)	(131)		出穂後	199	403	243	132	218	141	107	219	128	122	130

注)生育期別指数はとうもろこしサイレージ平均の黄熟期を基準にしたもので黄熟黄の10時間当収量はDM844kg,TDN565kgである。

表3　乾物100kg当り費用指数

種　　類		とうもろこしサイレージ						牧草サイレージ					乾牧草
費目/階層		Ⅱ	Ⅳ	Ⅴ	Ⅵ	Ⅶ	平均	Ⅱ	Ⅳ	Ⅵ	Ⅶ	平均	Ⅰ	Ⅱ	Ⅲ	Ⅳ	Ⅴ	平均
肥 料 費	購入肥料費	80	161	83	66	100	100	60	139	58	84	75	139	67	40	61	87	70
	きゅう肥評価額	28	104	100	74	130	100	4				1	11	5		5		3
	計	60	139	89	69	111	100	38	86	36	52	46	89	43	24	40	53	44
諸 材 料 費	種苗費	80	85	106	95	113	100
	その他材料費	39	66	85	76	168	100
	計	52	72	91	82	151	100	20	16	24	41	25	38	47	56	48	84	59
労　　働　　費		53	76	82	116	134	100	65	38	53	98	60	61	79	34	62	70	60
固 定 財 費	建物費	108	92	121	71	102	100	47	208	30	12	57	185	80	35	65	19	59
	農機具費	99	133	81	52	125	100	69	75	73	64	71	110	96	37	71	104	79
	永年牧草費
	計	100	128	86	55	122	100	88	116	90	81	92	163	124	59	95	124	105
費　用　合　計		68	112	87	78	125	100	55	72	52	69	58	95	73	40	61	80	66

注)作付面積規模　Ⅰ、12.5ha以上、Ⅱ10.0〜12.5、Ⅲ7.5〜10.0、Ⅳ5.0〜7.5、Ⅴ2.5〜5.0、Ⅵ1.0〜2.5、Ⅶ1.0ha未満

表4　粗飼料種類別100kg当費用及び生育期別指数

区 分	種類	とうもろこしサイレージ						牧草類
	熟期/階層	Ⅱ	Ⅳ	Ⅴ	Ⅵ	Ⅶ	平均	種類		牧草サイレージ					乾牧草
								生育期/階層		Ⅱ	Ⅳ	Ⅵ	Ⅶ	平均	Ⅰ	Ⅱ	Ⅲ	Ⅳ	Ⅴ	平均
DM 100 kg 当 費 用 指 数	実態	78	129	100	90	145	115	実態		63	84	60	79	67	109	85	47	70	93	76
	黄熟期	68	112	87	78	125	100	出穂期		56	74	53	70	59	108	83	46	69	99	75
	糊熟期	68	113	88	79	127	101	開花期		61	81	58	77	65	111	86	47	71	102	78
	乳熟期	79	130	101	91	146	117	再 生	出穂前	76	101	73	95	81	106	82	45	68	97	74
	※(黄熟中期)	61	100	78	70	112	94		出穂期	47	62	45	59	50	110	85	47	70	101	77