【指導参考事項】
下水汚泥の化学特性と農用地利用について
1.下水汚泥の化学特性
2.下水汚泥中Nの作物利用率
3.土壌の化学性と作物生育に及ぼす下水汚泥施用の影響
4.下水汚泥施用土壌中の重金属含量
(昭55〜56年)
(北海道立中央農業試験場・環境保全部環境保全第1課)

目 的
 道内における下水道の整備は進捗しており、そこから発生する下水汚泥は昭和55年で22.4万tに達している。その処分方法としては緑農地利用、埋立、焼却等があり、その内、緑農地利用が全体の61%と圧倒的に多い。しかし、下水汚泥は一般にN,P含量が多いと同時に重金属含量も多い。また脱水工程中に消石灰や塩化鉄等の無機系凝集剤のほかに、ポリアクリルアミド等の高分子凝集剤を用いているものがある。これら下水汚泥の農地施用に関しては土壌環境の保全と未利用資源の活用の見地から、昭和54年「下水汚泥の農地施用に係る当面の基本方針」が策定された。
 本報告は下水汚泥の農用地施用に係る諸問題に関して、上記の留意事項の実証ならびに補完を行ない、農用地利用の資料とすることを目的とする。

試験研究方法
 1.下水汚泥の化学特性:道内の主な下水処理場21カ所から石灰汚泥14点、高分子汚泥7点を採取し、65〜70℃で乾燥後、粉末にしたものについて化学性を調査した。
 2.下水汚泥中Nの作物利用率:黒ボク土と褐色低地土にえん麦(モイワ)を栽培した。処理区は汚泥0t、-N、汚泥1t/10a(乾物)の3区で、0,5㎡の木枠試験である。
 3.土壌の化学性と作物生育に及ぼす下水汚泥施用の影響:黒ボク土と褐色低地土に、1年目は春蒔小麦(ハルヒカリ)、2年目は大豆(キタムスメ)を栽培した。汚泥施用量(乾物)は石灰汚泥、高分子汚泥とも1年目は0,0.5、1,2t/10aであり、2年目は石灰汚泥は無施用、高分子汚泥は1年目と同じ量を連用した。

試験成果の概要
1.下水汚泥の化学特性
 1)高分子汚泥のpHは平均6.05、ECは2.4ミリモーであるのに対して、石灰汚泥のpHは9.92、ECは5.6ミリモーと高い。高分子汚泥のN、P205含量は平均3.0%、3.7%であるがK含量は0.17%と極めて低い。Ca含量は平均1.26%であり、Mg含量はほぼその半量であった。一方、石灰汚泥ではCa含量が平均14.1%と高い以外は各成分とも高分子汚泥より幾分低い傾向にあった。またC/Nは両汚泥とも10以下であった。(第1表)
 2)下水汚泥の重金属含量は両汚泥ともFe>Al>Mn>Zn>Cu>Cr>Pb>Ni>As>Hg≒Cdの順に高いが、各重金属とも高分子汚泥の方が石灰汚泥よりもやや高い傾向にあった。(第1表)
 3)下水汚泥中重金属の存在形態は汚泥の種類によって異なるが、Znは有機結合態と炭酸塩、Cuは炭酸塩,有機結合態と置換態が支配的な形態であった。(第2表)

2.下水汚泥中Nの作物利用率
 1)両土壌とも、下水汚泥中Nのみかけの作物利用率は15%前後と推定された。(第3表)

3.土壌の化学性と作物生育に及ぼす下水汚泥施用の影響
 1)小麦(1年目)の収量:両汚泥とも汚泥0.5t区は対照区よりもやや減収しているが、汚泥施用量が増すにつれて増収した。大豆(2年目)の収量:石灰汚泥区は増収傾向、また、高分子汚泥区は増収傾向にあるが、ややN過剰ぎみに推移した。(第4表)
 2)汚泥施用跡地土壌(1年目)のpHをみると、両土壌とも石灰汚泥施用によって高くなったが、高分子汚泥施用では逆にやや低下傾向にあった。2年目跡地土壌のpHは各区とも1年目より低下しているが、褐色低地土の石灰汚泥1t、2t区は6.8、7.4と高い値を示していた。
 置換性CaO含量は両土壌とも石灰汚泥施用によって高くなっているが,高分子汚泥ではほとんど対照区と大差なかった。また置換性CaO含量は経年的に漸減傾向を示した。(第5表)
4.下水汚泥施用土壌中の重金属含量
 1)汚泥施用土壌の重金属含量は対照区よりもやや増加傾向にあるが、ZnについでHgの増加比率が他の重金属よりも大きかった。(第6表)
 2)汚泥施用による作物の重金属吸収量はZnの方がCuよりも大きく、また、作物体のZn濃夏は高分子汚泥区が石灰汚泥よりもかなり高い。汚泥施用土壌中のZnの経時変化をみると、作物吸収にとくに影響を及ぼすと推定される置換態一吸着態の部分は、高分子汚泥区では増加傾向、石灰汚泥では減少傾向を示した。これらのことから、作物体のZn吸収に及ぼす影響は高分子汚泥の方が石灰汚泥よりも大きいことが認められた。(第7表、第1図)
 3)石灰汚泥の多量連用によって、土壌中にCaが多量に集積し、同時に集積されるZnも常法の0.1N-HC1(1:5)では抽出され難くなり、また作物にも吸収され難くなるが、土壌中には汚泥施用量中のZnのほぼ計算量が王水可溶の全亜鉛として蓄積された。(第8表、第9表) 以上のことから、下水汚泥はNでみた場合、その作物利用率は!5%前後と推定され、有効な資源である。しかし、石灰汚泥の過剰施用は土壌のアルカリ化を促進するため、pH、塩基飽和度等からみて、一般的には石灰汚泥1t/10a(乾物)が限界と推定される。また、土壌中の重金属蓄積ならびに可溶化は石灰汚泥よりも高分子汚泥でより問題になる。したがって、農用地土壌の天然賦存量の上限値であるZn全含量120ppmを、当面下水汚泥施用量の目安にすることが妥当と思われる。(第10表)

主要成果の具体的データ
第1表 下水汚泥の化学性と各成分の全含量(pH,EC以外は乾物当り)
下水
汚泥

種類
n 項目 pH
(水)
EC
(ミリ
モー)

ケイ
酸(%)
強熱
残渣
(%)
C/N 全 含 量
C N P2O5 K Ca Mg Na Fe Al Mn Cd Cr Zn Cu Ni Pb Hg As
(%) (ppm)
高分子 7 _
χ
6.05 2.35 32.7 55.1 8.1 23.7 3.0 3.69 0.17 1.26 0.57 0.09 5.00 3.41 1.674 1.6 151 1.139 203 39.0 57.6 1.49 18.8
CV
(%)
7 26 32 28 10 36 36 48 65 68 42 44 48 48 91 50 48 36 34 51 28 88 120
石 灰 14 _
χ
9.92 5.62 19.6 63.5 8.9 19.1 2.3 2.53 0.07 14.12 0.64 0.08 5.00 1.75 892 0.8 73 777 125 18.8 54.3 1.27 11.1
CV
(%)
15 60 65 14 18 24 39 30 57 37 34 38 48 62 48 88 40 40 34 67 39 98 90

第2表 下水汚泥中のZn,Cuの全含量と連続抽出方法による抽出率(平均値)
重金属
の種類
下水汚泥
の種類
全含量
(ppm)
全含量に対する抽出率 (%)
置換態 吸着態 有機結合態 炭酸塩 硫酸塩 合計
Zn 高分子 1139 2.1 0.8 67.5 25.7 10.8 107.0
石 灰 777 0.3 0.7 37.2 60.2 12.3 110.6
Cu 高分子 203 2.6 7.9 18.0 23.3 11.7 63.6
石 灰 125 29.4 16.4 6.0 28.7 5.4 85.9

第3表 下水汚泥中Nのみかけの作物利用率
処 理 区 黒 ボ ク 土 褐 色 低 色 土
地上部 N総
吸収量
g/枠
N
吸収量
g/枠
作物の
N利用率
%
地上部 N総
吸収量
g/枠
N
吸収量
g/枠
作物の
N利用率
%
g/枠 N% g/枠 N%
-N 580 1.165 6.76 - - 949 1.254 11.90 - -
石灰汚泥1t(N11.4g/枠) 817 1.058 8.64 1.88 16.5 1140 1.214 13.84 1.94 17.0
高分子汚泥1t(N14.2g/枠) 875 1.012 8.86 2.10 14.8 1165 1180 13.75 1.85 13.0

第4表 作物の収量
下水汚泥
の種類
汚泥
施用量
t/10a
黒 ボ ク 土 褐 色 低 地 土
小 麦 大 豆 小 麦 大 豆
子実重
g/枠
同比 穂数
本/㎡
子実重
g/枠
同比 着莢数
個/枠
子実重
g/枠
同比 穂数
本/㎡
子実重
g/枠
同比 着莢数
個/枠
0 285 1.00 559 210 1.00 462 29 1.00 449 228 1.00 582
石灰汚泥 0.5 246 0.86 458 240 1.14 450 242 0.97 452 276 1.21 630
1 358 1.24 662 198 0.94 516 318 1.28 646 342 1.50 684
2 404 1.42 716 228 1.09 480 290 1.16 592 318 1.39 642
高分子汚泥 0.5 315 1.11 - 222 1.06 564 222 0.89 372 288 1.26 702
1 299 1.05 620 270 1.29 570 254 1.02 494 210 0.92 474
2 352 1.24 582 258 1.23 738 315 1.27 626 240 1.05 522

第5表 下水汚泥施用跡地土壌のpH,CaOの推移
土 壌 下水汚泥
の種類
下水汚泥
施用量
t/10a
pH(H2O) 置換性Cao含量㎎/100g
55年
10月
56年
10月
55年
10月
56年
10月
56年
/55年
黒ボク土 0 5.93 5.63 218 166 0.76
石灰汚泥 1 6.62 6.21 390 281 0.72
2 6.91 6.91 568 432 0.76
高分子汚泥 1 5.81 5.50 242 184 0.75
2 5.79 5.40 238 202 0.87
褐色低地土 0 6.42 5.77 276 207 0.75
石灰汚泥 1 7.40 6.80 454 318 0.70
2 7.65 7.40 568 386 0.68
高分子汚泥 1 6.31 5.60 282 228 0.81
2 6.21 5.45 302 227 0.75

第6表 下水汚泥施用跡地土壌の重金属含量と比
土 壌 下水汚泥
の種類
汚泥
施用量
t/10a
全 含 量 比
Zn Cu Mn Ni Pb Cd Hg As
黒ボク土 0 (34.6) (26.1) (42.6) (5.6) (23.4) (0.38) (0.10) (5.7)
石灰汚泥 1 1.31 1.02 1.03 1.25 1.09 - - -
2 1.74 1.09 1.12 1.21 1.07 1.05 1.50 1.09
高分子汚泥 1 1.48 1.12 0.98 1.63 0.97 - - -
2 1.48 1.10 102 1.14 1.03 1.34 1.30 1.14

第7表 大豆のZn,Cu吸収量
供試
土壌
供試汚泥
15g/土200g
茎葉重
g/ポット
Zn Cu
ppm μg ppm μg
褐色
低地土
0.98 39 38 5.3 5
高分子 1.15 116 133 5.0 6
石 灰 0.65 43 28 6.8 4

第8表 重金属蓄積量     (ppm,Zn)
処理区分
(t/10a)
0.1N-HCI(1:5)可溶 王水可溶
(55年)
昭和52年 53年 54年 55年
0 24(ホ)* 28 25 25 137
21(大)* 25 26 23 136
5 37 48 9 16 168
27 40 22 19 16
10 42 55 4 3 187
43 57 2 3 191
20 60 71 0.3 0.8 253
50 36 0.2 0.8 273
 *(ホ):ホウレン草(上段のデータ)
 *(大):大根 (下段のデータ)

第9表 ホウレン草のZn含有率、吸収量
処理区分
(t/10a)
含有率 (ppm) 吸収量(μg/10個体)
52 53 54 55 52 53 54 55
0 82 80 76 85 25 29 50 28
5 91 90 77 94 29 28 20 19
10 87 92 89 99 25 33 24 18
20 88 89 61 104 22 28 14 20

第10表 土壌のNn含量からみた下水汚泥の施用総量限界
土壌Zn
ppm
汚泥施用量 t/10a*
500ppm 1000ppm
40 32 16
60 24 12
80 16 8
100 8 4
120 0 0

*土壌(作土20㎝)のZnが120ppmになるまでの汚泥施用総量(乾物当り)
・北海道農用地土壌のZn全含量の平均値



第1図 下水汚泥施用土壌中のZnの形態 (褐色低地土)

指導上の注意事項
 原則として、下水汚泥を直接農地に施用することを避け、コンポスト化および堆肥化して利用すること。やむを得ず汚泥を施用するときは、下記の条件を満す場合であっても、年間10a当り1t(乾物)を限度とする。なお、コンポスト汚泥、汚泥堆肥の施用も下記の条件を満すこと。
         記
1.農地に施用する汚泥は肥料取締法に定める特殊肥料としての届出がなされ、含水率が80%以下であること。
2.汚泥施用後の土壌はph6.5、塩基飽和度80%、Zn全含量が120ppmこえないこと。