【指導参考事項】
1.課題の分類  果樹(5種) 環境汚染 道立中央農試
2.研究課題名  農作物に対する二酸化硫黄の可視被害(追補)
           −果樹について−
3.期  間  昭和52〜56年
4.担  当  中央農試環境保全部第二課
5.予算区分  道費
6.協力分担  なし

7.目 的
 二酸化硫黄接触による果樹の種類別および、りんご品種別の可視被害症状、煙斑発現の遅速、体内硫黄含有率・塩基含有率の変化などを調査し、感受性の差異を明らかにする。

8.試験方法
 ビニールハウス(長さ11m・幅4m・容積83m3)2棟を用い、1棟を二酸化硫黄接触区・他を対照区とし、ポット栽培した果樹を入れて両区での可視被害発現を比較した。

〔実験-1〕 果樹種類別の二酸化硫黄接触影響試験
種 類 品  種 栽  培  法 二酸化硫黄の接触
期  間 延時間 so  ppm
1)な し 身 不 知 1/2000アールの鉢
(泥炭・火山灰土・
沖積土の混合土に
炭カル140g・熔燐123g
とN:2g相当の
16-18-14-4苦土入り
尿素化成肥料を入れる)
に1年生苗を移植し栽培。
1)54年 17/7月〜2/8月
2)54年 17/9月〜25/9月
3)55年 21/7月〜20/8月
100
44
183
0.92±0.03
0.72士0.03
0.68±0.02
2)りんご レッドゴールド
3)も も 砂子早生
4)ぶどう デラウェア
5)く り 丹  波 4)55年 25/9月13/10月 57 0.30±0.02

〔実験-2〕 りんご品種別の二酸化硫黄接触影響試験
種 類 品  種 栽  培  法 二酸化硫黄の接触
期  間 延時間 so  ppm
りんご 1)  祝

2)  旭

3)レッドゴールド

4)スターキング
デリシャス
実験1に同じ 1)50年 17/6月〜30/6月 17 0.97±0.18
2)52年 26/8月〜3/9月 60 0.86±0.18
3)53年 13/9月〜20/9月 41 0.84±0.08
4)48年 22/9月〜11/10月 113 0.32±0.02
5)49年 23/6月〜18/7月 163 0.28±0.03
6)52年 6/9月〜19/9月 85 0.29±0.05
7)52年 21/9月〜17/10月 140 0.11±0.02

9.結果の概要
 ガス接触用ビニールハウス内で、Ⅰ試験では果樹5種類を、Ⅱ試験ではりんご4品種をそれぞれ供試して、二酸化硫黄の接触を行い、ガス接触にともなう可視被害症状、その発現の遅速・程度について調査し、感受性の区分を行うとともに、感受性に差異をもたらす要因について検討し、その結果を以下に要約した。

 1.S02 0.68〜0.92ppmで3回、0.31ppmで1回の接触を果樹5種類について行い、ガス接触により発現する葉身での可視被害は供試したガス濃度に対応して急性害(煙斑の発現)と慢性害に分けられ、煙斑の色・形は樹種で異った。前報と同じ基準(0.8ppm夏接触で煙斑が現われるまでの接融時間数が3.5時間のものを感受性「大」とし、6〜30時間のものを「中」、それ以降に発現したものを「小」とする)で煙斑初発までの接触時間をもとに感受性の大区分を行うとともに、同一接触時間での煙斑や慢性害の発現程度の多少によって感受性の小区分を行った。

 2.感受性に差異をもたらす要因として、葉身での硫黄集積速度と二酸化硫黄吸収にともなう細胞液のpH低下に対する抵抗性をとりあげた。後者については瞬時的なものと経時的なもの(硫黄吸収に対応する塩基の補給)に分け、補給される塩基の中に占める要素の割合は樹種によって異なるが、ほぼ加里>苦土>石灰>曹達の順に前者ほど大きな値を示すことを認めた。
 これらの結果をもとに、感受性の区分と組合せて一覧表を作った。
感受性と要因 感 受 性 硫黄集積速度 細胞液pHの低下に対する抵抗性
樹 種 瞬時的 経時的
な し(仁果類)
も も(核果類)
ぶどう(漿果類)
りんご(仁果類)
く り(穀果類)

 3.りんご4品種(祝・旭・レッドゴールド・スターキングデリシャス)に対する二酸化硫黄接触影響試験において、SO2 0.84〜0.97ppm高濃度接触では4品種間に煙斑発現の遅速に大差なく、すべて感受性は「中」に区分されたが、同一時間接触後の被害度は祝・旭で高かった。煙斑面積の増加にともない含水率の低下・硫黄含有率の増加を、また光合成速度が指数的に低下することを認めた。
 SO2 0.28〜0.32ppmの中濃度接触では、煙斑の発現はないが、黄化葉・落葉の増加がみられ、その程度は旭で小さかった。旭は他の品種とくらべて硫黄集積速度が小さく、またクロロフィルa/bや葉汁PHの低下程度が小さく、慢性害についての抵抗性の品種間差異にこれら要因がかなり関係していることを認めた。

10.主要成果の具体的数字
 表1 SO2接触による可視被害発現の遅速
濃 度 0.92ppm 0.68ppm 0.30ppm・57hrs
種類 項目 煙斑初発までの
延 時 間
新梢上部・中部
煙斑初発
までの
延時間
変色葉率
(%)
落葉率
(%)
な し 60 120 143 0 0
も も - 60 36 12 0
ぶどう - 14 26 26 0
りんご 112 60 12 30 28
く り - 40 12 43 23

表2 SO2に対する相対的感受性
備考
ソバ 水稲 てん菜 既往

成績
アルファルファ 小豆 キャベツ
ホーレン草 菜豆 ナス
荳科牧草 スイートコーソ ナンバン
禾本科牧草 トマト メロン
大豆 ニンジン スイカ
馬鈴薯 カボチャ  
レタス キュウリ  
くり もも 今回

成績
りんご なし
ぶどう  

表3 樹種別葉身汁液のpHとガス接触による低下
項目 対照区 ガス接触による低下
種類
な し 5.20 -0.10
も も 5.35 -0.22
ぶどう 3.62 -0.20
りんご 5.30 -0.07
く り 5.10 -0.25
              (0.68ppm・92時間接触)


図1 SO2接触時間と葉身S含有率


図2 塩酸添加に伴う葉汁(1:10)pHの変化

表4 樹種別葉身汁液の硫黄・塩基含有率とガス接触による増加量(me/生重100g)
項目 葉身汁液の硫黄・塩基含有率 ガス接触による葉身汁液の
硫黄・塩基含有率の増加量
種類
K Na Ca Mg S K Na Ca Mg S
な し 12.02 0.74 4.36 8.43 25.55 1.56 5.24 -0.58 0.00 -0.12 4.54 8.50
も も 21.74 0.11 0.50 4.77 27.12 1.88 0.13 0.04 0.00 0.16 0.33 2.42
ぶどう 8.82 0.33 0.75 4.93 14.83 1.56 6.53 -0.11 0.11 2.55 9.08 9.77
りんご 21.23 0.30 4.94 7.81 34.28 1.88 4.35 0.16 0.32 2.26 7.09 11.09
く り 8.70 0.21 1.32 7.48 17.71 1.87 0.25 0.01 0.92 1.57 2.75 7.27

表5 SO2接触による可視被害発現の品種間差
濃 度 0.86ppm
煙斑初発までの
延 時 間
0.29ppm

85時間接触
後の黄化葉の
発生率
被害の発現
品 種 新梢上位部 下位部
20 20 0
13 20 40
レッドゴールド 13 20 29
スターキング
デリシャス
13 20 30

表6 ガス接触による葉身S含有率・葉汁pHの変化
品種 項目 ガス接触による葉身
S含有率の増加量
(乾物 %)
ガス接触による
葉汁pHの変化
(ガス区/対象区 %)
濃度 0.86ppm 0.29ppm 0.86ppm 0.29ppm
時間 40 40 80 40 40 80
0.22 0.10 0.10 95 101 99
0.14 0.14 0.22 96 95 97
レッドゴールド 0.16 0.14 0.12 96 101 98
スターキング
デリシャス
0.30 0.16 0.21 95 97 92

11成果の取扱い(指導上の注意)
 1.現地において果樹の可視被害について二酸化硫黄接触の有無を判定することが必要となった場合には作物体の硫黄分析がかなり有効と考えられるが、その時点での被害内容解析、大気汚染以外の原因によるものとの識別、大気環境調査資料の利用なども併用し、総合的な立場から検討する必要がある。
 2.指標作物の選択に当っては、どのような環境汚染を、またどの地域・期間を対象とするか整理することが必要である。すでに二酸化硫黄の急性害については感受性「大」のそばの利用をすすめたが、慢性害に対する指標作物としては、葉身の硫黄含有率が低くしかも安定しており、またある程度耐性があり、二酸化硫黄の吸収力の強い作物が望ましい。これら作物の葉身硫黄含有率を経年的に分析することにより、測定地区の農業をとりまく二酸化硫黄についての大気環境の把握がかなり可能となるものであり、状況に応じこの面での果樹の利用が考えられる。