【指導参考事項】
馬鈴しょでん粉工場排液の農地散布について
(環境保全の立場から)
北海道立中央農業試験場環境保全部
(昭和51〜56年)

目的
 馬鈴しょでん粉工場排液をはじめとする各種液状有機汚濁物質、とりわけ農産加工場排液は水質汚濁の一要因として懸念されており、昭和54年6月一般排水基準の適用以降一層その処理対策が問題となっている。
 馬鈴しょでん粉工場排液の排出量は莫大で、かつ、排液中成分も多い。したがって、農地散布歴もあり、かつ、農地散布は今後とも増加の傾向にある。また、一定農地に累年施用されている場合も多く、土壌に対しNの富化、塩基の集積・溶脱現象も見られるとともにその散布量、土壌の性質、作物などによって作物−土壌−水系に与える影響も異なっている。
 よって、でん粉工場排液の特性、土壌中における浸透・移動などの機作を明らかにするとともに、農地散布による各系への影響を解析し環境保全対策上の資料とする。

試験方法
 (1)土壌の浄化能の要因解析……保持吸着・集積・溶脱過程(カラム実験主体)
 (2)馬鈴しょでん粉工場排液施用による養分収支……畑作物・牧草(ライシメータ試験)
 (3)でん粉工場排液散布の実態解析……農地散布の現況など(散布方法、散布量、作物反応)
 (4)連用地土壌の調査解析……4地区、7土壌型中心に理化学性、塩基バラン'スなど
 (5)排液散布地域における収支、水系との連鎖など。

結果の概要
 1.馬鈴しょでん粉工場排液の排出量は莫大で、その組成は工場、排液の種類、時期などによって一定していない。(表−1、2)
 2.排液の農地散布方法には、レインガン方式、ローリー方式および両者の併用で行なわれているが、とくに、レインガン方式では過剰散布的となっている。(表−3)
 3.排液散布により土壌にNの富化、とくにK集積およびCa、Mgの溶脱が認められ、また、土壌の性状によってその様相は異なっており塩基バランスに関係している。(図−1)
 4.排液散布と普通施肥との関係は必ずしも一定していない。
 5.排液の散布量、土壌その他の条件によって異なるが、排液散布により水系負荷の可能性がある。(図−2)
 6.排液中有機物の分解は概して早いため農地散布に当っては液肥的評価一利用すべきである(図−3)。
 7.排液中Nは、作物−土壌−水に40-56-4の割合で分布し排液量増加で水への移動も増加する。Kは作物−土壌に41-59の割合を示し排液量増加により土壌への集積を増す。逆に、Ca、Mgの溶脱は増加の傾向を示し、現地調査と関連している。(表−4)
 8.土壌中K増加により作物の生育、量、質に影響を及ぼしている。(図−4)
 9.排液中Nを基準として散布するとK20過剰(施肥標準量の20〜127%)、K20基準の場合はN不足(16〜55%)となる。
 以上の結果、馬鈴しょでん粉工場排液の農地散布に当ってはK20基準とし施肥量(N、P205)の不足は他肥料で調整し、また、CaO、MgOの溶脱も明らかなのでその補給は適正に行うべきである。
 なお、排液散布時には排液中成分(とくにK20)のチェックを行うとともに、利用率についても考慮し、散布に当っては土壌の性状(浸透能・傾斜など)、作物栽培の有無なども考慮すべきである。

主要成果の具体的データ
表−1 排出量および肥料成分換算量
項 目 排 出 量 肥料換算量(t/年)
排 液 (m3/原料t) (千t/年) N P2O5 K2O
セパレータ 6.0 7,776 980 1,159 1,151
デカンター 0.5 648 1,805 541 3,007
計(原料量 1,296千t) 8,424 2,785 1,700 4,158
道内年間肥料施用成分量 (t/53年) 81,309 105,107 95,592
同上に対する排液中成分比率 (%) 3.4 1.6 5.3

表−2 でん粉工場排液の特性(㎎/L)
項  目 pH EC
(ミリモー)
COD T-N NH4-N K Ca Mg P K/N
排  液
デカンター 平均 5.57 12.9 10,390 2,908 638 4,313 31 232 375 1.5
CV(%) 14.6 17.6 45.7 25.8 82.0 21.6 57.8 27.6 27.5 9.9
貯  留 平均 6.51 5.5 754 487 448 780 23 50 84 1.6
CV(%) 12.9 6.8 42.8 32.4 22.8 32.6 46.1 28.6 25.3 28.6

表−3 排液散布量(試算)−レインガン−
原料処理料 12,900t/47〜53年平均、精製方式:DS
デカンター量 9,030t(原料×0.7)
セパレ一夕 ばっ気処理→放流
排液濃度(ppm) pH N P2O5 K2O CaO MgO 散布面積
デカンター(51年) 5.9 1,995 431 2,720 61 194 50ha
散布量(Kg/10a) - 36.0 7.8 49.1 1.1 3.5


図−1 排液散布地のおける土壌中置換性K (me/100g)およびMg/K比


図−2 水系負荷 (N)


図−3 排液中有機物の分解


図−4 牧草の成分バランス (○チモシー・●オーチャード)

表−4 排液成分の収支 (g/㎡)
成 分 N P K Na Ca Mg
処理 項目
0 B 30 4 46 4 7 6
C 1 - 2 10 8 16
5 A 55 8 85 1 0 5
B 52 6 81 7 11 10
C 3 - 2 9 9 17
D 31 6 50 -1 -5 0
5


A 29 4 48 0 0 3
B 43 6 69 4 10 8
C 2 - 2 10 10 19
D 15 2 25 0 5 -2
20 A 149 23 227 2 1 14
B 80 8 118 9 16 11
C 8 - 2 9 11 22
D 92 19 155 -2 -11 3
50 A 508 75 790 4 4 48
B 142 11 193 23 19 18
C 108 - 4 15 67 87
D 289 68 641 -20 -67 -35
A:排液による添加成分量……51〜54
B:作物吸収量……52〜55
C:浸透溶奪脱量……52〜55
D:排液成分の残留量……52〜55
  D=A-[(排液区B+C)-(oL/㎡区B+C)]

普及指導上の注意事項
 1.馬鈴しょでん粉工場排液の農地散布に当っては、土壌の性状を考慮し、散布量はK2Oを基準とし不足量は他肥料で補うこと。
 2.また、散布前に必ず排液中の成分(とくに、K20、N)を確認すること
 3.排液散布によりCaO、MgOの溶脱が明らかとなっているので、その補給は適正に行うこと。
 4.馬鈴しょでん粉工場排液の利用に当っては、事前に農業改良普及所の指導を受けること。