【指導参考事項】
1.課題の分類 鳥害・畑作 2.研究課題名 大豆の鳥害とキジバトの生態に関する調査試験 (水田転換畑における鳥害防止対策試験) 3.期 間 昭和50年〜56年 4.担 当 中央農試病虫部害虫科 5.予算区分 道費および総合助成 6.協力分担 農業改良課、中央農試畑作部 |
7.目 的
大豆栽培上、大きな障害となっているハトの被害実態を把握するとともに、ハトの生態行動を明らかにし、被害防止対策を確立する。
8.試験研究方法
(1)大豆の被害実態調査
①被害実態調査 昭和50〜52年
②鳥獣類被害アンケート調査 昭和53年
③大豆発芽期の現地調査(十勝;4ヶ所、胆振;1ヶ所)昭和53年
④播種時期別の被害調査 昭和51年
(2)ハトの生態・行動に関する調査
①キジバトの生息密度調査 昭和51年〜56年
②キジバトの繁殖状況調査 昭和51〜56年
③キジバト・ドバトの食性調査 昭和51〜56年
(3)被害防止対策試験
①忌避剤による試験 昭和50〜52年、54〜56年
②防止資材による試験 昭和51〜52,54年
③ラゾーミサイルによる試験(現地6ヶ所)昭和54〜56年
9.結果の概要・要約
(1)大豆の被害実態調査
①全道平均の被害率は、昭和50年5.3%,51年5.02%,53年4.9%と若干減少した。3ヶ年とも栽培面積の多い十勝管内の被害が少なく、胆振、石狩管内等、栽培面積の少ない地帯で被害が多い傾向がみられた。作付面積の減少と作付の孤立化が、この大きな原因となっていると考えられる。
②十勝管内でも、被害は場所により大きく異なり、近年ドバトによる被害が大きくなる傾向がみられた。胆振では、作付面積の減少と、作付の孤立により、被害は高く、トバト害も大きくなっていた。
③播種時期別の被害を5月14日〜6月21日まで5回行ったが、被害率はいずれも90〜100%と高く、播種時期をずらすことによる被害回避は困難と考えられた。
(2)ハトの生態・行動に関する調査
①キジバトは3月〜12月まで生息し、生息密度は年により多少の差があったが、6月と7月〜10月に2回のピークが認められ、9〜10月に年間の最高密度を示した。
②昭和51年〜55年までは年間の生息密度に大きな差はなく、個体数の大きな変化はなかった。昭和56年は、年間を通して生息密度がかなり低く、2回のピークが明確に認められなかった。
③大豆加害時期の5月下旬〜6月中旬に、昭和53年度までは生息密度が増加したが、54,55年は若干減少し、56年は極端に密度が低かった。
④キジバトの繁殖は4月〜11月まで続き、8ヶ月の生息期間で約7ヶ月という長い繁殖期間を持っている。
⑤昭和53年までは、大豆発芽時期と繁殖ピークがよく一致し、雛のいる巣が多く、被害も多かった。
⑥昭和54〜56年は、営巣環境の悪化により大豆発芽時期と繁殖のピークが一致せず、雛のいる巣がほとんどなく、被害も少ない傾向であった。また、55年、56年は営巣数、産卵数とも減少した。
⑦キジバトは主として植物質を餌とし、大豆、小豆、小麦、とうもろこし、ソバ等を多くとり、春期に播種される農作物はキジバトの重要な餌となっている。
⑧巣の周辺の調査等から、7月に小麦、8月に小麦、ソバ、小豆、9月に大豆、小豆、とうもろこし、小麦、エンバク、稲、10月に大豆、小豆、菜豆、稲を餌としていた。
⑨ここ数年来、作付面積の急増している小麦は、7月〜9月まで利用可能で、餌としての重要性が高まっている。これに対応して、キジバトの繁殖状況が変化してゆく可能性もあり、今後も注意していく必要があると考えられる。
(3)被害防止対策試験
①ヤガミンF,アビトロール、メスロール、マリックス乳剤、カメムシアルデヒド、トクチオン水和剤、粉剤、キヒゲン、鳥害防止資材、UCJ-003の10薬剤について忌避効果試験を実施したが、充分な効果の認められたものはなかった。
②風船、テープ、タカ模型の試験では、充分な効果は認められなかった。
③長沼町14区では、ラゾーミサイルはキジバトに対し、半径40m程度までは効果があったと考えられる。しかし、ドバトに対しては、明らかに効果は劣るようであった。また、キジバトに対しても、大豆の発芽期間が長く、長期間使用すると、若干、馴れを生じ、有効範囲がせまくなる傾向がみられた。
④栗沢町では、2ヶ年ともラゾーミサイルのキジバトに対する効果が認められ、有効範囲も広かったと考えられる。
⑤長沼町8区では、ラゾーミサイルのキジバトに対する効果が認められ、有効範囲は半径50〜60mであった。
⑥岩見沢市御茶の水では、ラゾーミサイルのキジバトに対する効果が認められ、有効範囲は半径60m程度と考えられる。
⑦ラゾーミサイルのキジバトに対する効果は比較的よい結果も得られたが、試験場所や年次により効果に差があった。また、馴れの問題やキジバトの生息密度、生息環境と被害との関係を明らかにする必要があると考えられる。
10.主要成果の具体的数字
表-1 大豆被害実態調査結果(昭和52年)
支庁/項目 | 桧山 | 胆振 | 石狩 | 空知 | 上川 | 十勝 | 網走 | 計 |
作付面積ha | 234 | 35 | 26 | 286 | 237 | 9,724 | 288 | 10,777 |
換算被害面積ha | 16.5 | 8.3 | 10.3 | 24.4 | 12.7 | 438.6 | 19.4 | 5278 |
被害面積率% | 7.1 | 23.6 | 39.5 | 8.5 | 5.4 | 4.5 | 6.7 | 4.9 |
大豆食害率% | 27.3 | 64.0 | 49.5 | 28.8 | 16.2 | 15.5 | 28.0 | 27.6 |
図-1 キジバトの繁殖推移(昭和53年)
図-2 キジバトの繁殖推移(昭和55年)
表-2 キジバトの繁殖率
項目 | 産卵数 | 孵化率% | 巣立ち率% | 繁殖成功率% | ||||||||||||||||
年/月 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 | 52 | 53 | 54 | 55 | 56 |
4月 | 22 | 20 | 26 | 12 | 6 | 54.5 | 5.0 | 34.6 | 50.0 | 0 | 33.3 | 100 | 44.0 | 0 | 0 | 18.2 | 5.0 | 15.4 | 0 | 0 |
5月 | 34 | 30 | 32 | 15 | 13 | 52.9 | 53.3 | 25.0 | 0 | 0 | 77.8 | 62.5 | 25.0 | 0 | 0 | 41.2 | 33.3 | 6.3 | 0 | 0 |
6月 | 12 | 18 | 14 | 11 | 6 | 33.3 | 77.8 | 28.6 | 0 | 33.3 | 100 | 57.1 | 50.0 | 0 | 0 | 33.3 | 44.4 | 14.3 | 0 | 0 |
7月 | 29 | 24 | 11 | 20 | 4 | 86.2 | 66.7 | 45.5 | 60.0 | 100 | 40.0 | 81.3 | 80.0 | 83.3 | 100 | 34.5 | 54.2 | 36.4 | 50.0 | 100 |
8月 | 20 | 18 | 24 | 19 | 10 | 80.0 | 83.3 | 75.0 | 73.7 | 100 | 62.5 | 73.3 | 100 | 71.4 | 80.0 | 50.0 | 61.1 | 75.0 | 52.6 | 80.0 |
9月 | 8 | 17 | 8 | 10 | 9 | 75.0 | 70.6 | 100 | 60.0 | 88.9 | 83.3 | 83.3 | 100 | 100 | 100 | 62.5 | 58.8 | 100 | 60.0 | 88.9 |
10月 | 6 | 2 | 33.3 | 100 | 100 | 50.0 | 33.3 | 50.0 | ||||||||||||
計 | 125 | 133 | 115 | 87 | 50 | 64.8 | 57.1 | 45.2 | 43.7 | 52.0 | 58.0 | 72.4 | 73.1 | 68.4 | 80.8 | 37.6 | 41.4 | 33.0 | 29.9 | 42.0 |
図-3 ラゾーミサイル防止効果試験
(昭和54年6月13日長沼町14区)
5月11日播種 5月29日発芽始め
5月25日〜6月13日まで設置
図-4 ラゾーミサイル防止効果試験
(昭和56年6月25日長沼町14区)
5月11日播種 6月5日発芽始め
6月5日〜7月1日まで設置
図-5 ラゾーミサイル防止効果試験
(昭和55年6月30日長沼町8区)
5月19日播種 6月10日発芽始め
6月12日〜30日まで設置
表-3 ラゾーミサイル防止効果試験(昭和54年栗沢町加茂川)
項目/調査区 | 調査月日 | 被害率% | A圃場からの距離 |
ラゾーミサイル設置区 A 圃 場 |
6月30日 | 0 | 0m |
B 圃 場 | 6月27日 | 7.4 | 150m |
C 圃 場 | 6月30日 | 7.3 | 850m |
D 圃 場 | 6月30日 | 20.0 | 1,350m |
11.今後の問題点
(1)ラゾーミサイルの有効な使用方法の検討
(2)ドバトに対する被害防止対策
12.成果の取扱い
(1)キジバトの生息密度の低い地域では、従来から実施している防除手段(かかし、テープ、爆音器等)をいくつか組み合わせ、3〜4日ごとに設置場所を変えるなどして慣れを生じにくくして使用する。
(2)大豆発芽期間が長びくと被害は多くなるので、発芽の揃いをよくするよう、栽培に注意する。
(3)大豆を小面積で栽培する場合には、地域で一斉に播種するなど被害が集中しないように注意する。