1.林産廃棄物(バーク)の堆肥化指標と畑地への施用法
北見農試,十勝農試,中央農試
Ⅰ バーク堆肥の品質と畑作物の生育との関係
1 試験目的2 試験方法
(1)樹皮別バーク堆肥の分解特性と品質
(2)針葉樹バーク堆肥の腐熟方法と品質
(3)現地生産バーク堆肥の生産実態と品質(北見,十勝,中央農試分担)
(4)腐熱度に関する検討
化学性の分析,幼植物法による発芽,初期生育調査,ポット試験による乾物生産,N供袷量など検討
3 試験結果
表1 バーク原料の樹種別分析結果
樹 種 | pH |
EC mmho /cm |
水溶性 フェノ ール (mM) |
T-C (%) |
T-N (%) |
C/N 比 |
可溶性 炭水化 物 (%) |
セル ロース (%) |
リグニン (%) |
土壌中 でのN 有機化 (mg/C・g) |
|
針 葉 樹 |
カラマツ | 46 | 0.5 | 1.9 | 542 | 0.44 | 123 | 13.2 | 20.3 | 47.3 | 3.5 |
クロエゾマツ | 5.1 | 0.3 | 7.4 | 53.4 | 0.22 | 243 | 14.9 | 25.9 | 39.6 | 4.2 | |
トドマツ | 46 | 0.9 | 11.9 | 52.2 | 0.34 | 153 | 16.1 | 30.0 | 32.7 | 8.7 | |
鋸屑 | 4.9 | 0.2 | 1.1 | 51.9 | 0.08 | 682 | 14.5 | 45.0 | 27.1 | 3.8 | |
平均値 | 4.8 | 0.5 | 5.6 | 5Z9 | 0.27 | 196 | 14.7 | 30.3 | 36.7 | 5.1 | |
広 葉 樹 |
カバ | 5.3 | 0.5 | 1.9 | 49.4 | 0.56 | 88 | 18.5 | 19.8 | 37.8 | 7.8 |
カエデ | 58 | 0.6 | 12 | 50.7 | 0.39 | 130 | 12.5 | 25.5 | 33.2 | 9.6 | |
セン | 5.9 | 0.4 | 1.0 | 51.9 | 0.23 | 225 | 17.3 | 31.3 | 277 | 14.1 | |
鋸屑 | 5.5 | 0.5 | 2.9 | 53.0 | 0.19 | 279 | 18.9 | 34.7 | 24.5 | 16.9 | |
平均値 | 5.6 | 0.5 | 1.8 | 51.3 | 0.34 | 151 | 16.8 | 27.8 | 30.8 | 12.1 |
表2 バーク原料の作物に及ぼす影響
樹種 | 鉢試験(ダイコン) ポット試験(エンバク) | ||||
発芽歩合 (%) |
健全個体数 (%) |
乾物重 (指数) |
N吸収量 (指数) |
||
針葉樹 | カラマツ | 83 | 70 | 100 | 90 |
クロエゾマツ | 85 | 68 | 80 | 82 | |
トドマツ | 63 | 56 | 79 | 70 | |
鋸屑 | 79 | 76 | 87 | 80 | |
平均値 | 78 | 68 | 87 | 81 | |
広 葉 樹 | カバ | 80 | 69 | 89 | 69 |
カエデ | 89 | 82 | 95 | 73 | |
セン | 86 | 74 | 89 | 68 | |
鋸屑 | 80 | 72 | 76 | 44 | |
平均値 | 84 | 74 | 87 | 64 | |
無施用 | 85 | 88 | 100 | 100 |
表3 現地生産バーク堆肥の品質(十勝農試)
平均n=65 | CV% | 平均n=65 | CV% | ||
粗灰分 | 40.96 | 39.7 | CaO(%) | 3.34 | 40.5 |
pH(H20) | 7.30 | 6.3 | MgO(%) | 0.61 | 37.4 |
Ec(㎜ho) | 1.714 | 65.0 | K20(%) | 0.95 | 37.2 |
T-N | 0.98 | 28.5 | トルオーグP2O5(mg) | 520 | 50.9 |
T-C | 31.41 | 24.0 | P抽出-N有キーN | 31.6 | 47.5 |
C/N | 33.2 | 28.6 | P抽出-N無キーN | 39.6 | 76.6 |
CEC(me) | 66.2 | 22.5 | mg/100g 計 | 71.2 | 49.2 |
(1)Nの有機化について
作物のN吸収量とバーク堆肥の有機化量の間には,極めて高い負の相関がみられる。このことは,バーク堆肥がもつ炭水化物が多いと,分解に伴って徴生物がとりこむN量が多いことを示すものであり,C/N比と関係が深いものと考えられる。樹種別には広葉樹でより明確な関係があった。
広葉樹は針葉樹に比ぺ腐熱堆積中のC02放出が盛んで、分解が速やかであることがN有機化を高める方向であると考えられる。
このようなN有機化の指標をC/N比でみると、広葉樹は25以下、針葉樹では35以下になるとN放出(無機化)を示すことがみられ,樹種によって区分する考えが必要である。また、T-Cよりも,より活性なCを指標とすることが信頼性を高める上で必要と考えられる。
図1 C/N比と窒素の有機化量
さて,このような指標の製品を得る堆積方法はどうすぺきかは重要な問題である。原材料の化学的性質から,当然N涼の添加が必要であるが,今回の試験は限られた添加物のみで行ったが添加Nを無機一N(尿素)で行った場合,発熱醗酵温摩は低く,3か年腐熱させても高いC/Nをもっている。鶏糞の添加は高温期間が長く,分解が促進され,ほぼ1年でC/N比30(針葉樹バーク堆肥)に達している。また添加Nの1/2を化学肥料で置き替えた場合でも,同程度の分解を示した。
さらに,堆積当初のC/N比についてみると,原料バーク1t当N10kgでC02放出はピークがみられたこと,また鶏糞+尿素(C/N40〜50)と,尿素増量によってC/N比を下げたものを比較してみても,1年間堆積後のC/N比の変化は小さい。このようなことから、原料1t当N10kg(家畜ふん床1/2,化学肥料1/2)の添加によりC/N40程度で堆積し,切返しを充分行うことにより,概ね1年間でさきに示したN有機化のおそれが少ないC/N比に達するものと考えられた。
表4 樹種バーク堆肥の経時的化学性の変化
粗灰分% | 有機物中 % 1:5水抽出(乾物換算) |
N有機化 (mg/C・g) |
||||||||||||||
T-C | C/N | 炭水化物 | リグニン | ECm・ho | 水溶性 | |||||||||||
針 | 広 | 針 | 広 | 針 | 広 | 針 | 広 | 針 | 広 | 針 | 広 | 針 | 広 | .針 | 広 | |
原料 | 2.9 | 7.3 | 53.2 | 53.1 | 172 | 133 | 50.7 | 47.7 | 32.4 | 30.1 | 0.5 | 0.5 | 0.8 | 3.1 | 3.5 | 11.1 |
30日 | 5.9 | 15.0 | 52:0 | 51.1 | 41.8 | 342 | 4&0 | 41.0 | 33.8 | 33.1 | 5.3 | 8.9 | 7.3 | 8.6 | 0.2 | 5.9 |
70日 | 6.8 | 16.2 | 51.3 | 51.7 | 43.1 | 35.5 | 48.8 | 40.9 | 33.7 | 36.4 | 24 | 2.3 | 6.6 | 2.2 | 0.7 | 6.2 |
140日 | 14.7 | 20.3 | 53.3 | 50.2 | 38.2 | 22.3 | 43.6 | 32.5 | 38.8 | 44.0 | 15 | 18 | 0.6 | 0.2 | -0.5 | 0.4 |
350日 | 21.6 | 29.4 | 51.5 | 53.1 | 30.8 | 18.9 | 39.3 | 24.6 | 42.1 | 50.6 | 1.7 | 2.0 | − | − | -0.8 | -0.4 |
420日 | 25.1 | 35.0 | 52.1 | 53.9 | 30.5 | 17.1 | 36.0 | 18.5 | 44.2 | 51.4 | − | − | − | − | − | − |
500日 | 32.3 | 35.1 | 51.9 | 52.3 | 25.3 | 16.0 | 293 | 16.8 | 46.1 | 52.9 | − | − | − | − | − | .− |
3年 | 44.3 | − | 51.7 | 20.7 | 27.5 | − | 53.0 | − | − | − | − | − | − | − |
炭水化物:可溶性炭水化物+セルローズ 水溶性フェノール:mM
表5 針葉樹バーク堆肥の堆積条件と化学性
年次 | 堆積 | 添加物 | Nkg/t | C/N | T-N |
発芽歩合 乾物重比 (%) (ム施用 100) |
||||||||
C/N | 鶏糞 | 尿素 | 150日 | 1年 | 2年 | 150日 | 1年 | 2年 | 50日 | 150日 | 150日 | 2年 | ||
54 | 40 | 鶏糞+尿素 | 5 | 5 | 一 | 40.3 | 一 | 一 | 1.15 | 一 | 80 | 100 | ||
40 | 全量鶏糞 | 10 | 0 | 一 | 313 | 一 | 一 | 128 | 一 | 81 | 111 | |||
40 | 全量尿素 | 0 | 10 | 一 | 50.1 | 一 | 一 | 0.95 | 一 | 88 | 無施用85 | 87 | ||
55 | 40 | 鶏糞+尿素 | 5 | 5 | 29.9 | 一 | 20.4 | 1.15 | 一 | 1.13 | (無施用)68 | 101 | ||
40 | 鶏糞半量 | 2.5 | 7.5 | 45.9 | 一 | 30.4 | 0.79 | 一 | 0.95 | 87 | 87 | |||
27 | 尿素増量 | 5 | 11 | 29.9 | 一 | 21.7 | 1.06 | 一 | 1.22 | 85 | 101 |
(2)有害物質について
木質物がもつ有害物質は広く知られているが,今回の調査は水溶性フェノールについて,作物の発芽,初期生育について調査した。また,堆積時の添加物によるECおよびPHとの関係についても併せて調査した。
水溶性フェノールは針葉樹において高い濃度を示し,広葉樹は低かったが,堆積中における高温→中温醗酵によって分解消失し,5ケ月後ではかなり低い値を示した。またECについても,堆積当初は高いが,漸次低下した。
水溶性フェノールやECが発芽や初期生育段階における根の生長に及ぼす影響をみた結果を整理すると,つぎのようになる。この検定はバーク堆肥1:1土比で行ったり,抽出液を用いたもので,いわゆる極多量条件であり,畑地における実用的な条件よりかなり多いが,'局所的な障害や,育苗段階の使用条件を考慮すれぱ,安全な製品のためには必要と考えられる。これらの要因は高濃度では,それぞれ単独でも障害を生じるものである。
さきに述べた堆積条件や切返しが充分行われるなら,これらの障害物質の濃度は,少なくても堆積後6か月程度で分解消失することが,これまでの調査結果で明らかとなったが,フェノール物質は添加物自体にも多く含んでいるものがあり,また,分解促進の意味からN源の多用が行われると,ECの上昇がみられることから,製品について検定することが,より安全な使用方法と考えられる。
図2 ECと水溶性フェノールが作物根の障害に及ぼす影響 図3 pHと水溶性フェノールが作物根の障害に及ぼす影響
(3)簡易判定について
化学的手法によらず,現場において簡易に腐熟法を判定できる技術開発は,実用的な立場から重要である。この点について,腐熟化と粒径組成の関係をみると,確かに腐熟化に伴い細粒画分の増加があり,これに伴いC/N等も低下しているので,簡易判定として活用の可能性も考えられた。しかし,現地における原材料の粒径は様々であり,かつ粉砕過程をとったのち堆積分解するものもあって,粒径組成による区分は画一的に決められない。
したがって,従来から行われている感覚的な指標が有力な手段といわざるを得ないが、これに加えて,水溶性フェノール,ECを調査することがより安全である。水溶性フェノールは,簡易な手法で分析困難であるが,PHと水溶性フェノールの関係をみると,PH(H20)の測定と,ECの測定を同時に行い,有害物質通のチエックを行うことが安全であり,また今回行った各種バーク堆肥をみると,ECの低いものはN有機化量も少ない傾向を示すことから,N有機化からみた腐熟度もある程度可能性がある程度可能性があるものと考えられる。
一方,バーク堆肥の有機物中炭素含量は52%程度であり(これは森林土壌の有機物層の場合とほぼー致するようである),試料間の差異も小さいことから,直接炭素を測定しなくてもNと有機物含量を測定することによって,C/N比を推定することが可能と考えられる。
以上のことから,生育阻害物質の有無やNの有機化からみた腐熟度はPH,ECおよびT-N有機物含量の測定によってかなりの程度判定できるものと考えられる。
表6 バーク堆肥の品質指標
項目 | 指 標 値 | |||
広葉 樹 | 針葉樹 | |||
C/N比 | 25 以下 | 35以下 | ||
還元糖C/T-N比 | 6 以下 | 10以下 | ||
T-N(有機物中%) | 20%以上 | 1.5%以上 | ||
還元糖割合 | 30%以下 | 30%以下 | ||
(乾物1:水5 EC(mmho/cm) | 障害なし | 障害がある | 障害が大きい | |
3以下 | 3〜10 | 10以上 | ||
水溶性フェノール(mM) | 2以下 | 2〜5 | 5以上 | |
PH | 65〜Z5 | 7.5以上 | 一 | |
有機物含有量 | 70% 以上 | |||
水分 | 60〜70% |
4 結果の要約
(1) 樹皮別バーク堆肥の分解特性
ア 広葉樹皮は針葉樹皮に比べC/N比,可溶性炭水化物,セルローズ含量の差異は小さいが,分解速度が速く,N添加によるC02放出は顕著に高まった。鶏糞尿素を添加して堆積した場合の分解速度は広葉樹皮》針葉樹皮〉カラ松樹皮の順であった。
イ 各樹皮とも堆積分解によって発芽率への影響はなかったが,広葉樹は未熟段階でNの有機化が多く,作物生育を悪化した。針葉樹皮のN有機化量は小さかった。しかし両バーク堆肥とも1年間堆積によって,N吸収量の低下はほとんど認められなくなった。
(2) 針葉樹バーク堆肥の腐熟方法と品質
ア 添加N源に尿素単用した場合,高温醗酵が認められず,C/N比の低下が悪かった。
イ 鶏糞+尿素(N5+5kg/t)は高温→中温醗酵が長く,1年間でC/N30の製品が得られた。全量鶏糞(N10kg/t)はさらに分解促進した。鶏糞(N5kg)+尿素増量(N5→1kg/t)
によってC/N比を低下させて堆積したものは鶏糞+尿素(N5+5kg/t)と対比して,あまり分解の促進は認められなかった。
ウ ポット試験による乾物生産では,全量尿素,鶏糞半量+尿素(N2.5+7-5kg/t)は鶏糞+尿素(N5+5kg/t)より劣った.
工 培養実験によるC02放出量では,N10kg/tが最も多く,また鶏糞の添加割合の高いものほど多かった。
オ 以上のことから,バーク原料1t当N10kg(C/N40)を,家畜糞尿あるいは化学肥料(1/2以内)で添加することが望ましいと考えられた。
(3) 現地生産バーク堆肥の生産実態と品質
ア 各地区とも広葉樹皮を主体として生産している例が多く,添加N源は多岐にわたっている。
イ バーク堆肥の化学的性質は変異が大きく,現在ある基準(日本バーク堆肥協会等)に照合して,その最低基準に達しないものも多い。
ウポット試験による作物生産への影響をみると,無施用のものより劣る場合が多いが,広葉樹バーク堆肥ではC/N比30以下では施用効果がみられた。
(4)腐熟度に関する検討
ア 発芽・根の障害度を・水溶性フェノール(W-ph)・ECでみると・W-phは2mM、EC3m,mho以下では影響が小さく,W-ph 5mM,EC10m,mho以上では顕著な障害がみられた。またW-phはpH7.8以上で顕著に高濃度となった。
イ N有機化はC/Nと正の相関があり,とくに広葉樹バーク堆肥は有意であった。さらに活性なC形態である可溶性炭水化物とは関係が深い.広葉樹はC/N25以上,針葉樹は35以上で添加Nの有機化が進むことが認められた。
ウ 腐熟度の簡易判定法の確立は困難であったが,製品のEC,pH測定をすることが必要と考えられた。
5 普及指導上の注意事項
(1) 分解促進のN源として,バーク原料1t当りN10kgを家畜ふん尿で添加することが望しいが,N1/2以内を化学肥料で置替えてもよい(C/N40程度)。
(2) 切返し(年間3回程度)を行い,1年以上の堆積・腐熟を行うこと。
(3) 製品については新鮮物を用いてECおよびPH(乾物1:水5)の測定を行い,EC10mmho/cmPH7.8以上では腐熟期間を長くすることが安全である。
(4) なお,安全性を高めるため幼植物テストを実施する。
(5) 原粒の粒径は細かいものが望ましい。
Ⅱパーク堆肥の施用が畑作物の生育収量に及ほす影響
1 試験目的
農業生産における有効なバーク堆肥の施用法を検討する。
2 試験方法
北見農試
(1) 土壌別バーク堆肥施用効果:農試(湿性黒色火山性土),南網走(褐色火山性土),(灰色台地土),処理内容,無施用,堆肥2t連用,バーク堆肥2,4,6,10t(連用,残効系列)55〜57年。
(2) 腐熟度別バーク堆肥施用効果:農試場内,処理内容,堆積期間別,添加物量別,樹種別バーク堆肥,4t施用,57年実施,ばれいしょ。
(3) バーク堆肥の施用が土壌の理化学性に及ぼす影響:農試,南網走,常呂土壌供試。
十勝農試
(1)各種バーク堆肥施用効果:農試(褐色火山性土,乾性),処理内容,生産条件別バーク堆肥2.5t施用,圃場,枠試験,55〜56年実施。
(2)作物別バーク堆肥施用効果:農試圃場処理内容,無処理,堆肥,バーク堆肥3t区,てん菜ばれいしょ,大豆,春小麦供試,57年実施。
(3)バーク堆肥の施用が作物収量と土壌の理化学性に及ぼす影響:農試,枠試験,56,57年実施。
中央農試
バーク堆肥施用基準策定試験:京極町(黒色火山性土,バーク堆肥2,4,6t,堆肥2tの連用残効。ばれいしょ,てん菜供試・54〜56年実施。
3 試験結果
3場所で行った試験結果をみると,バーク堆肥の圃場施用効果は-5〜20%と大きな変異をもっている。この要因として樹種,腐熟度および作物反応の問題が内包されるものと考えられる。
主とし針葉樹バーク堆肥の施用効果を検討した北見農試の結果では,施用初年(55年)の場合,バーク堆肥を施用した各区のてん菜根重は無施用区よりも低く,またN増肥処理によって,やや増収した。これは供試バーク堆肥がC/N41と高いことが,Nの有機化量を多くして減収を招いたものと考えられる。2年目以降は、施用バーク堆肥が一応完熟段階と考えられるものを供試したことと,残効も考えられることから,連用,残効系列とも多量施用(初年目,6t/10a以上)以外では無施用区と同等かやや増収反応を示した。しかしながらNの吸収量は無施用区や堆肥区に比べればバーク堆肥施用区の多くは,低下しているが,収量的には前述のように同等かやや上廻ることは,吸収Nの生産効率が高まっているものと考えられる。以上のことは,針葉樹バーク堆肥ではC/N比30以下のものであっても,その特性から急速な分解とN放出がないため,増収上限は5%程度と推察される。その反面,残効期間はかなり長いものと期待される。
これに対し,広葉樹バーク堆肥を供試した十勝,中央農試における結果は,針葉樹バーク堆肥よりも収量反応の変異が大きい。すなわち,未熟な広葉樹バーク堆肥では,N吸収抑制が強くみられる反面,C/N比が30以下の場合には,施用効果が大きく,無施用区に比べ20%も増収を示している例もある。単にN的評価のみで結論は難かしい面もあるが,広葉樹バーク堆肥は針葉樹を原料とするバーク堆肥よりも腐熟度に留意すべきであり,完熟のものは作物によづてはほぼ堆きゅう肥に匹敵する効果が期待できることも考えられた。
一方,バーク堆肥の肥効は作物による差異は大きかった。十勝農試における広葉樹バーク堆肥3t/10aの施用による反応では,春小麦,大豆の場合,堆肥と同等の高い効果を示した。この要因として,後述するように生育初期段階の地温上昇,有効水の増加と関連性が大きいものと考えられた。しかし,てん菜やばれいしょでは堆肥に比べやや劣る結果を示しており,このように作物的な施用効果の相違については,土壌環境や作物の特性と関連してさらに追究して検討すべき点は多い。
つぎに作物の品質的な点をみると,針葉樹バーク堆肥の結果では,てん菜の根中糖分の止昇,小麦では粒重の増加,ばれいしょでは一部例外はあるがデン粉価の上昇があった。また広葉樹でも春小麦、大豆では粒重の増加が認められるが,ぱれいしょのデン粉価,てん菜の根中糖分では一致した傾向がみられていない。これらは作物の栄養生理的な特性や,バーク堆肥からのN放出との関係が深いものと考えられる。
今回のバーク堆肥施用試験は,各種の土壌で行ったが,土壌的な関係と施用効果の関係は明らかでなかった。後述するようにバーク堆肥の施用は,土壌の理化学的生産要因を向上させている面があることからすると,今回供試した各土壌は,すでに長年畑地として利用されており,これらの要因が満たされているため,バーク堆肥の施用効果を発揮させるまでに至らなかったことも考えられる。今後長期的視点で検討すべきものであろう。
表1 土壌別バーク堆肥用効果試験(収量比)北見農試
55年てん菜収量比( )はN5kg追肥
種類 | 年次 別量 (t) |
農 試 | 南網走 | 常 呂 | 全平均 | N吸収量比 (3か年平均) |
||||||||||
55 | 56 | 57 | 55年 てん菜 (根重) |
56年 ばれいしょ (いも重) |
57年 春小麦 (子実重) |
55年 てん菜 (根重) |
56年 ばれいしょ (いも重) |
55年 てん菜 (根重) |
56年 ばれいしょ (いも重) |
57年 秋小麦 (子実重) |
農試 | 南網走 | 常呂 | 平均 | ||
堆 | 2 | 2 | 2 | 96 | 89 | 114 | 101 | 99 | 98 | 97 | 104 | 100 | 110 | 116 | 94 | 107 |
バーク 堆肥 (針葉 樹) |
2 | 0 | 0 | 97 | 104 | 109 | 103 | 108 | 96 | 101 | 103 | 103 | 96 | 107 | 95 | 99 |
2 | 2 | 2 | (111) | 97 | 99 | (103) | 102 | (91) | 102 | 107 | 102 | 95 | 102 | 102 | 100 | |
4 | 0 | 0 | 100 | 98 | 103 | 98 | 102 | 100 | 98 | 101 | 100 | 96 | 101 | 91 | 96 | |
4 | 2 | 2 | (103) | 102 | 100 | (100) | 103 | (90) | 101 | 98 | 101 | 90 | 98 | 90 | 93 | |
6 | 0 | 0 | 98 | 100 | 101 | 99 | 108 | 96 | 104 | 97 | 100 | 93 | 99 | 92 | 95 | |
6 | 2 | 2 | (104) | 94 | 103 | - | - | - | - | - | - | 96 | - | - | - | |
10 | 0 | 0 | 97 | 97 | 102 | - | - | - | - | - | - | 90 | - | - | - | |
無施用 (tkg/10a) |
100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | |||
(3.86) | (3.86) | (373) | (687) | (4.09) | (596) | (3.55) | (414) | - | - | - | - | - |
表2作物別広葉樹バーク堆肥施用効果(十勝農試)
作物 | 区別項目 | 無施用 | 普通堆肥 |
バーク堆肥 (広C/N33) |
春小麦 |
子実重比 (kg/10a) |
100 (240) |
125 | 129 |
千粒重(g) | 40.3 | 41.5 | 41.5 | |
大豆 |
子実重比 (kg/10a) |
100 (282) |
103 | 110 |
千粒重(g) | 364 | 372 | 372 | |
てん菜 |
根重比 (t/10a) |
100 (5.07) |
112 | 102 |
根中糖分(%) | 16.07 | 15.70 | 15.80 | |
ばれいしょ |
上いも重比 (t/10a) |
100 (3.67) |
109 | 103 |
デンプン価 | 14.79 | 14.91 | 15.68 |
表3 広葉樹バーク堆肥施用効果(中央農試)
項目 区分 |
54年(ばれいしょ) | 55年(てん菜) | 56年(ばれいしょ)新設圃 | ||||
上いも 重比 | デンプン 重 | 根重比 |
項目 区分 |
上いも 重 | デンプン 価 | ||
残効 | 連用 | ||||||
無施用 |
100 (3:56) |
100 (0.523) |
100 (644) |
無施用 | 3.949 | 12.8 | |
バーク堆肥2t(C/N43) | 97 | 95 | 93 | 98 | バーク堆肥(C/N26)2t | 4.338 | 13.8 |
バーク堆肥4t(〃) | 96 | 94 | 100 | 106 | バーク堆肥(〃)4t | 4.489 | 14.2 |
バーク堆肥4t+N増(〃) | 101 | 95 | 94 | 102 | バーク堆肥(〃)6t | 4.776 | 13.7 |
バーク堆肥4t(C/N28) | 100 | 94 | 96 | 99 | |||
堆きゆう肥4t | 102 | 99 | 98 | 100 |
表4腐熟度別のバーク堆肥の効果(ばれいしょ)北見農試
試料No | 施用バーク堆肥の性状 | 上いも重比 | デンプン価 | デンプン重比 | ||||
樹種 | N添加 kg/t | 堆積 期間 | C/ N | |||||
ケイフン | 尿素 | |||||||
1A | 針 | 5 | 5 | 1年 | 28.6 | 97 | 13.9 | 99 |
1B | 広 | 5 | 5 | 〃 | 19.4 | 102 | 14.5 | 108 |
2A | 針 | 5 | 5 | 2年 | 20.4 | 99 | 13.7 | 99 |
2C | 〃 | 5 | 11 | 〃 | 21.7 | 101 | 14.1 | 104 |
3A | 〃 | 5 | 5 | 3年 | 20.7 | 100 | 14.0 | 102 |
3B | 〃 | 10 | 0 | 〃 | 196 | 103 | 14.0 | 105 |
3C | 〃 | 0 | 10 | 〃 | 48.5 | 95 | 14.5 | 100 |
無施用(実収t/10a) | 100(4.71) | 13.7 | 100(0.645) |
(2)土壌の理化学性に及ぼすバーク堆肥の影響
黒色,褐色火山性土および灰色台地土について検討した結果では,バーク堆肥の施用は理化学的性質を良好にする結果であった。
まづ化学性については,PH,CEC,置換性塩基,有効態P205など,いづれも施用量に比例して,各土壌とも高まった。これらの要素は,施用するバーク堆肥がもつ要素であることからすれば当然であるが,土壌改良資材的な性格を充分に発揮するものと考えられた。
しかしながら,作物生産と密接な関係にあるNについては,施用2年目の土壌でみても,無機態Nを特に多くしている点は明らかでない。したがってバーク堆肥による前述の土壌改良の効果も,N的問題が制限因子となって発揮されない点が考えられ,効果を挙げるためには充分な腐熟度のものを守ることが必須条件と考えられる。
物理性の改善も容積重,気相率などには,北見,十勝農試とも共通的な結果が得られているが,十勝農試では、液相率の増加、有効水孔隙,とくにPF1.7〜2.0の低PF領域の増加が顕著にみられるのに対し,北見農試ではやや低下する結果を示し,一致したものとなっていない。この背量に施用バーク堆肥の樹種や,サンプリング時期(施用当年と2年目)の相違,実験条件等の問題があり,今後検討すべきである。十勝農試ではテンシオメーターによっても多水分に推移することを確認し,また地温の上昇はバーク堆肥施用によって高まる等,作物の生育培地環境の改善に大きな効果がみられ,初期生育の向上に結びついている。
また中〜小団粒の増加,粒団の安定性にバーク堆肥が貢献しているほか,徴生物活性が高まっている面もみられる等,土壌の理化学性の改善効果はみられ,生産力的要因の向上は確認された。
表5 バーク堆肥の施用が土壌の理化学性に及ぼす影響
①北見農試
項目 | T-C(%) | CEC(me/100g) | ||||
区別 | 農試 | 南網走 | 常呂 | 農試 | 南網走 | 常呂 |
無施用 | 142 | 3.7 | 3.6 | 28.0 | 16.0 | 15.1 |
バーク堆肥5t | 14-6 | 4.3 | 3.7 | 29.7 | 16.7 | 16.2 |
〃10t | 160 | 5.5 | 39 | 31.8 | 16.8 | 17.1 |
②十勝農試
容積重 (g/100cc) |
三相分布(PF1.6) |
動力水 (PF0〜16) |
有効水 (PF1.6〜3.0) |
|||
固相 | 液相 | 気相 | ||||
無施用 | 70.0 | 25.0 | 39.1 | 35.9 | 13.7 | 14.2 |
バーク堆肥5t | 67.1 | 24.0 | 42.1 | 33.9 | 17.9 | 16.3 |
〃10t | 65.5 | 23.7 | 46.7 | 29.6 | 18.6 | 20.6 |
〃20t | 58.7 | 21.2 | 51.2 | 27.6 | 20.7 | 22.0 |
4 結果の要約
(1)作物の生育収量に及ぼす影響
北見農試(針葉樹バーク堆肥主体)
ア C/N41とやや未熟なバーク堆肥を6t/10a以上施用した場合,てん菜の根重は減収した。
イ N吸収量は多くの場合無施用,堆肥に比べ低下したが,収量面ではバーク堆肥2〜4t/10aの連用,残効により1〜5%程度の増収を示す場合が多かった。
ウ バーク堆肥の施用はてん菜の根中糖分,ばれいしょのデンプン価を高める傾向がみられ,また,小麦の子実重割合,千粒重を僅かに高めた。
エ 以上の結果は各土壌とも概ね共通してみられ,バーク堆肥施用の反応に土壌間差は判然としなかった。
オ 腐熟度を高めたバーク堆肥(鶏糞増量,長期堆積)は,ぱれいしょの収量を高める傾向であったが,その程度は僅かであった。また広葉樹バーク堆肥に比べ,針葉樹バーク堆肥の効果は小さい。
十勝農試(広葉樹バーク堆肥施用)
ア 乳牛敷料としたのち堆積、切返しを充分行ったバーク堆肥は,てん菜根重を高め,堆肥と同程度の効果を示したが,残効は明らかでなかった。
イ 作物別施用効果は,春小麦,大豆で子実重割合や粒重を高め,顕著に増収し,堆肥と同等の収量を示したが,てん菜では無施用区より2%,ばれいしょでは6%の増収と,いずれも堆肥に比べ劣った。
中央農試(広葉樹バーク堆肥施用)
未熟なバーク堆肥(C/N43)の施用はばれいしょ収量を低下させた。C/N28のバーク堆肥では6t/10a施用でも増収したが,デン粉収量では4t/10aが限度であった。
(2) 土壌の理化学性に及ぼす影響(北見,十勝農試)
ア 化学性ではT-C,T-N,CEC,塩基,有効−Pなどはいずれも高まったが,(北見,十勝),可給態Nの増加は明らかでなかった(北見)
イ 容積重の減少,気相の増加は各土壌とも明らかであった(北見十勝)。中小団粒の発達や粒団の安定度は高まった(北見)。また有効水孔隙とくにPF1.7〜2.0の孔隙が増加し,生育初期の地温が高まり,作物の初期生育の向上に貢献していることがみられた(十勝)。
5 普及指導上の注意事項
完熟バーク堆肥を用い年間施用量は2〜3t/10aとし,4tを上限とする。