【指導参考事項】
水田土壌の有効態珪酸の評価および珪酸資材の施用効果
北海道農試農芸化学部土壌肥料第2研究室
目 的
現行測定法による水田土壌の有効態珪酸量については必ずしも稲の珪酸含量と一致しないことから再検討が求められている。このため現行法に代わる有効な測定方法を検策する。
試験方法
従来法にかわる新法の検策を現地圃場における実態調査、圃場試験、室内実験を通して行ない、その実用性の可否について検討する。
1)圃場試験
多湿黒ボク土圃場において、珪カル施用が土壌有効態珪酸量及び稲茎葉中の珪酸含量に及ぼす影響について従来法(酢酸バッファー法)と新法(インキュベーション法、土壌溶液法)を比較検討する。
2)実態調査及び現地試験
珪カル(珪酸マンガン苦土石灰、珪酸苦土石灰)を施用した道内18地点の水田土壌について1)と同様の検討を行なった。
3)室内実験
道内各種土壌を湛水培養し、この溶液中の珪酸濃度と、この土壌(風乾土)を0.2N-塩酸及び酢酸バッファーで抽出した珪酸、アルミニウム量との相互関係について検討
4)有効態珪酸測定方法
(1)酢酸バッファー法(従来法)
風乾土をpH4・N・酢酸ナトリウム溶液で珪酸を抽出する。
(2)インキュベーション方法
移植1〜2週間後の湛水土を採取し、これを風乾し、土壌(10g)と水の比を1:6として40℃で1週間インキュベートし、その溶液中の珪酸を有効態珪酸とする。
(3)土壌溶液法
湛水期間中の土壌より土壌溶液を採取(遠心分離法による。pF2.7)し、その珪酸濃度を測定。
試験成績
(1)従来法による土壌珪酸と稲体茎葉珪酸量との相関は道内土壌では高いものではなく、抽出量の増加量に対応して稲体の珪酸含量が増加しない点が指摘され、土壌によっては有効珪酸を過大評価する場合がある。
(2)新法による土壌珪酸量と従来法によるそれとの相関は認められないが、一方稲の茎葉の珪酸含量とは従来法よりいずれも高い相関があり、土壌の有効態珪酸の測定法として有効な方法であることが認められた。
(3)現在、茎葉中の珪酸含量が13%以上では珪カルの施用効果はないとされているが、この値に相当するインキュベーション法の珪酸値はSiO2で16㎎/100g土、土壌溶液法では、幼形期の珪酸濃度でSiO2 22ppmと見做された。
また従来法であっても、道内土壌においてはSiO2 22ppm以上は必要である。
(4)珪カルを施用することにより土壌の有効態珪酸量は増加するが、その程度は、150Kg/10aの珪カル施用量に対し、酢酸バッファー法で約SiO2 6㎎/100g土、インキュベーション法でその約1/3、土壌溶液法(移植後10日の土壌)で約1/6であることが多湿黒ボク土において認められた。
また珪カルの連用効果は幼形期以降発現することが窺われた。
(5)土壌の珪酸供給力は、酸可溶(ここでは0.2N-塩酸)の珪酸とアルミニウムのモル比をとることでよく示し得るが、酢酸バッファー液可溶の珪酸とアルミニウムについても同様なことが言えよう。
またSi・Al比は土壌溶液中の珪酸濃度(インキュベーション法)ともよい相関を示し、湛水期間外に採取した土壌についても土壌の有効態珪酸を評価し得ることを認めた。
(6)基準量内の施用量であれば、土壌の有効態りん酸の減少を伴う場合も含めて初期生育の抑制はないものと思われる。珪カル300kg以上の多量施用の場合は初期生育の抑制がみられ、これはりん酸の吸収抑制が一因とみなされた。
主要成果の具体的数字
第1図 酢酸バッファー法と稲茎葉中珪酸含量
第2図 インキュベーション法と茎葉珪酸含量
第3図 土壌溶液中珪酸量と茎葉中珪酸含量との関係
第1表 資材の処理と各種珪酸測定値及び
茎葉珪酸含量との関係(1例)
土壌 | 珪カル 施用量 kg/10a |
酢酸バッファ ー法SiO2 mg/100g土 |
インキュベー ション法 SiO2濃度 |
土壌溶液中 SiO2濃度 1〜2週後 |
茎葉中 (収穫期) 珪酸含量% |
A | 0 | 9.4 | 22.2ppm | 18.3ppm | 10.74 |
120 | 12.4 | 22.9 | 19.7 | 11.39 | |
B | 0 | 9.7 | 14.6 | 10.O | 6.43 |
120 | 11.6 | 15.3 | 10.2 | 6.43 | |
C | 0 | 8.7 | 20.4 | 16.4 | 10.44 |
150 | 10.2 | 20.8 | 17.5 | 10.11 |
第2表 珪カル施用が稲体珪酸含量及び土壌珪酸量に及ぼす影響(多湿黒ボク土)
珪カル 施用量* Kg/10a |
稲体中珪酸含量(%) | 酢酸バッ ファー法 SiO2mg /100g |
インキュベ ーション法 |
土壌溶液中珪酸SiO2・ppm | |||||||||
7月 16日 |
幼形期 | 出穂期 | 収穫期 | SiO2 ppm |
SiO2 mg/100g |
6月 4日 |
6月 23日 |
7月 27日 |
8月 22日 |
||||
茎葉 | 籾 | ||||||||||||
初年目 (58年) |
0 | 7.54 | 7.06 | 9.36 | 13.23 | 3.53 | 12.1 | 23.3 | 14.0 | 22.2 | 21.7 | 24.8 | 8.8 |
150 | 7.92 | 7.29 | 9.58 | 14.31 | 3.33 | 18.1 | 27.2 | 16.3 | 31.6 | 27.8 | 25.1 | 10.2 | |
300 | 6.80 | 7.16 | 9.77 | 14.91 | 3.47 | 23.0 | 27.0 | 16.2 | 38.0 | 30.5 | 28.4 | 10.4 | |
7月 12日 |
出穂期 | 収穫期 | SiO2 ppm |
SiO2 mg/100g |
6月 4日 |
7月 22日 |
8月 25日 |
||||||
茎葉 | 籾 | ||||||||||||
連用 6年目 (57年) |
0 | 4.89 | 6.10 | 10.35 | 3.77 | 24.2 | 14.6 | 22.9 | 18.4 | 9.0 | |||
200 | 6.07 | 7.39 | 11.65 | 4.23 | 27.2 | 16.4 | 34.4 | 25.5 | 11.1 | ||||
400 | 5.91 | 8.34 | 13.28 | 4.24 | 29.3 | 17.7 | 36.8 | 27.6 | 15.4 |
第4図 pH4酢酸バッファーと1/5-塩酸とによる抽出珪酸
第5図 土壌溶液中珪酸とSi/Al(1/5N-塩酸抽出)との関係
指導上の注意事項
分析法上の問題点として土壌中の2価鉄が珪酸発色の際妨害原因となる。土壌溶液中に2価鉄が多いと見做される場合は2価鉄を除去する必要がある。
インキュベーション法による土壌溶液採取は口過法でもよい。インキュベーション法、土壌溶液法、いずれの場合も得られた試料液の分析法は従来法の分析の際に使用した分析法を適用できる。