【指導参考事項】
1.課題の分類  栄養飼料 乳牛 北農試
2.課題名:
  北海道東部畑地型酪農(十勝地方)における自給飼料の生産とその評価に関する研究
3.期  間:  昭56〜58
4.予算区分:  経常・特研
5.担  当:  北農試畑作部家畜導入研究室
6.協  力:  帯広畜産大学・十勝農業協同組合連合会

7.目  的:
 自給飼料の乾物含量,栄養価を簡単にしかも精度よく測定する方法論を開発すると同時に,その上にたって該当地域における自給飼料の生産と利用を考えていくための基礎データを整理する。

8.試験研究の内容
Ⅰ 飼料栄養価評価法に関する方法論の開発
 1)サイロ内および梱包乾草からの適正な分析試料の採取法について
 2)牧草サイレージおよびトウモロコシサイレージの乾物定量法
 3)飼料中の各種繊維分画の性質の検討と分画相互間の関係について
 4)乾草,牧草サイレージおよびトウモロコシサイレージのTDN,DCPの簡易推定法
 5)トウモロコシサイレージ,配合飼料および配合飼料原料の簡易デンプン定量法
 6)近赤外分析計(NIR)の粗飼料分析への適用
Ⅱ 十勝地方における自給飼料の生産と利用における現状
 1)乳牛1頭あたりの平均的な飼料畑専有面積から計算される自給飼料の質と量との関係
 2)過去3カ年の間に十勝地方の酪農家が調製した乾草,サイレージの飼料価値
 3)高泌乳牛に対する飼料給与内容
 4)各種草地における牧草の刈取時期と化学組成,栄養価,収量,飼料価格の経時変化
 5)芽室町および帯広市におけるそれぞれ過去14年間および10年間の6月,7月の天候

9.成果の概要と具体的数字
Ⅰ 飼料栄養価評価法に関する万法論の開発
 1)牧草サイレージ,トウモロコシサイレージともに20〜30Kg程度の取り出し量の小堆積から四分法によって縮分し,最終縮分量を250g程度にすることで全体を代表するサンプリングを実施出来た。また,梱包乾草の場合にはドリル式のヘイサンプラーで1梱包から1点づつ(約10g)を採取し,出来るだけ多くのベールからのものを混合して分析サンプルとするのがよいという結果を得た。
 2)一般的に行なわれているサイレージの熱乾法による乾物率測定法では,揮発性物質を飛散させてしまう所から,より真の値に近いトルエン法の場合よりも2〜3%過小評価する事が分った。当然これは補正されねばならないが,それは以下の式を用いる事によって可能であるという結果を得た。今,熱乾法の値をx,トルエン法の値をyとすると,トウモロコシサイレージの場合,y=1.021x+2.3(Se=0.9),牧草サイレージの場合y=1.041x+0.8(Se=0.5)である。また,この場合,飛散する有機物の可消化量をも補正しなければならないが,消化試験を実施した時の両法でのTDN値および飛散有機物の消化率,可消化量を以下の表に示した。

試料 TDN %DM 熱乾飛散有機物 %DM又は%
トルエンベース 熱乾ベース 含量(x) 消化率 可消化量(y)
オーチャードグラス穂ばらみ 77.3 74.0 7.5 29 2.2
オーチャードグラス出穂 68.3 67.4 3.9 33 1.3
オーチャードグラス開花 45.8 40.8 8.3 61 5.1
チモシー出穂 60.1 57.0 7.2 46 3.3
チモシー伸長期 69.1 66.3 7.9 35 2.8
チモシー伸長期 76.3 74.7 6.0 30 1.8
チモシー伸長期 73.3 71.5 6.5 31 2.0
トウモロコシサイレージ黄熟 69.8 65.0 13.5 38 5.1
y=0.435x-0.4(Se=0.9)

 3)飼料中の繊維成分を表現する代表的な分画であるOCW,ADF,粗繊維の含量間には高い相関係数が得られ,1つの成分含量から回帰式によって他の成分含量を実用上,精度よく知り得るという結果が得られた。
 4)酵素分析法によって得られる細胞内容物質(OCC),高消化性繊維(Oa)および低消化性繊維(Ob)の飼料中の含量を用いる事によって以下の回帰式から高い精度でTDN含量を推定出来るという結果を得た。酵素分析は従来の一般分析の設備に加えて,恒温振とう培養機があれば簡易にしかも一度に多数のサンプルの処理が可能であった。

飼料グループ 回帰式 Se
乾草(イネ科又はイネ
  科・マメ科混ばん草)
TDN=1.111×(OCC+Oa)+0.605×Ob-18.8 2.4
アルファルファ乾草 TDN=0.428×OCC+0.379×Oa+34.3 3.3
牧草サイレージ TDN=0.217×OCC+2.197×Oa+30.5 1.9
トウモロコシサイレージ TDN=0.545×OCC+1.413×Oa+26.4 3.0

 5)酵素分析を実施する事により,トウモロコシサイレージおよび乳牛用配合飼料の易エネルギー利用成分であるデンプンを簡易にしかも精度よく推定出来る万法を開発した。
 6)TDN含量を推定するために必要な成分である酵素分析の各分画および粗タンパク質,粗脂肪について非破壊の近赤外分析計(NIR)の検討を行なった。その結果,乾草,トウモロコシサイレージにおいて推定の標準誤差が2%前後(OCC,OCW,Oa,Ob,粗タンパク質および粗脂肪)の比較的小さな値を得,粗飼料分析に有効な方法であるという結果を得た。
Ⅱ 十勝地万における自給飼料の生産と利用における現状
 1)十勝地方の乳牛1頭あたりの飼料畑面積,0.48ha(昭57)の乾物およびTDN生産量の水準を種々の既存のデータより計算した結果,年間を通じて自給飼料の1日あたり乾物給与可能量は9〜12kgであり,この範囲内での給与量を基準としてTDNの自給率を計算すると,牧草のTDN含量が60%の場合,日乳量20kgに対しては55%の自給率であり,70%のTDN含量で60%の自給率に達するという結果であった。また,年間を通してみた場合,.60%のTDNの牧草の場合には6,000kgの,69%のTDNの場合7,000kgの乳量に対してTDN自給率がそれぞれ60%とおおまかに見積られた。
 2)昭55年〜57年産の3カ年の十勝管内の乾草とトウモロコシサイレージの栄養価の調査結果を下表に示した。TDN含量では乾草が54〜57%,トウモロコシサイレージが63〜65%の範囲であった。

  昭55年産 昭56年産 昭57年産
乾草 トウモロコシ
サイレージ
乾草 トウモロコシ
サイレージ
乾草 トウモロコシ
サイレージ
分析点数 99 33 39 13 253 99
粗蛋白質 11.0±3.8 8.8±1.4 9.9±2.7 9.0±1.5 12.0±4.2 8.7±0.7
TDN 54.2±2.6 63.3±2.9 54.7±3.4 64.5±1.3 56.7±3.2 64.7±3.0

 3)管内の6戸の酪農家において,30〜45kg/日の乳量を示す乳牛に対する飼料給与内容の調査を行なった。自給飼料からの乾物給与量は7〜14kgで平均では9.2kgであった。また,給与乾物の自給率は28〜56%の範囲内であった。自給飼料(乾草とサイレージの混合飼料)のTDN含量は57〜59%の非常に狭い範囲にあり,TDN給与の自給率では21〜47%であった。
 4)種々の草地の収量,化学組成,栄養価,摂食可能乾物量および飼料価格の生育に伴う経時的な変化を調査した結果,オーチャードグラス,チモシー草地ともに開花期以降の乾物収量の増加は主として低消化性繊維(Ob)に依存している事が解り,その結果,単にTDN収量を論ずるのではなく,採食可能乾物(TDN)量を考慮する必要があると言えた。
 5)帯広市における過去10年間の無降雨日を6月と7月について調査した結果,乾草の調製に必要な連続3日間の無降雨日を考慮すると,乾草調製に適した期間は6月上旬の5日間と7月下旬の3日間の2回のみというデータを得た。

10.今後の問題点
 1)粗飼料分析におけるビッグベール乾草およびサイレージからの適切なサンプリング法の検討
 2)高泌乳化にともない,自給率の安定と維持・向上のために自給飼料の品質もそれに対応させる必要がある。トウモロコシサイレージに組合されるべき牧草の調製・給与法につき,乾草依存の姿から脱却する方法を考えてみるべきである。

11.普及上の留意点
 1)サイレージの乾物率の補正にあたっては,従来の熱乾法での乾物給与量とは異なる(20Kgの給与で400〜600gがプラスされる計算となる。)結果となるので,混乱のないように,統一的に対処する必要がある。
 2)酵素分析を実施する場合,振とう恒温水そうでもよいが,この場合にも,ポリスチロールビンは横にして水中に浸し,内容物の撹拝をスムースにする。また,酵素を緩衝液に溶かした後はその試料への添加,振とう機へのセットはなるべく短時間で行なう。
 3)サイロ内の乾物率の垂直分布についての検討が出来なかったが,上,中,下部での相異がある事は当然予想される。上,中,下程度にその都度,乾物率を測定する事が必要であろう。