【指導参考事項】(昭和52〜58年)
密度の異なるオーチャードグラス草地の生産性と窒素反応性
道立天北農試・土壌肥料科
目 的
天北地方のオーチャードグラス草地は植生的に極めて安定であるが,現実には造成時の要因により株密度の低下した草地も存在する。そこで,密度の異なる草地生産性の経年推移を明らかにするとともに、持に低密度オーチャードグラス草地の生産力的問題点とその対応について検討を加えた。
試験方法
1.密度の異なる草地生産性の経年変化:52年から56年にわたり,播種量(0.2,0.5,2.0kg/10a)を変えて株密度の異なる草地を造成し,経年数の異なる草地を同時に比較する方法で経年的に各種調査を行なった。N施用量は12kg/10a,早春,1,2番刈り後に均等施用。
2.密度の異なる草地のN反応性:58年に7年目(52年造成),3年目(56年造成)草地の0.2kg区(低密度区),2.0kg区(標準区)でN用量試験(6,12,18,24kg/10a・年,3回均等施用)を行なった。
試験成果の概要
1.密度の異なる草地生産性の経年変化
(1)播種量を0.2,0.5,2.0kg/10aとして造成した3年目にそれぞれ25〜30株,40〜50株,60〜70株㎡となり,それ以降安定であった。標準区(2.0kg区)の越冬前茎数は造成年に約1,000本/㎡であり、2〜3年目に2,000本に達したのち6年目にかけて1,500本まで低下した。低密度区(0.2kg区)では造成年に2,000本程度であり標準区の1/2であるが,経年的に漸時その差を縮めた。
(2)低密度草地の収量推移は次のようであった。2年目:全茎数が標準区の50%程度であり,茎数不足のため各番草とも低収であった。3〜4年目:1番草は茎間競合がまだ緩かなため1茎重が高まり,有穂茎数が多くなって増収した。しかし,2・3番草は茎数が標準区に及ばなかったため低収であり,年間収量は標準区と同等になった。5年目以降:茎数はさらに増加して茎間競合が標準区に類似してきたため有穂茎数の差はごく小さくなり,1番草収量の差が認められなくなった。しかし,2・3番は依然茎数が標準区より下廻っていたためやや低収となり,これを反映して年間収量もやや低かった。
2.密度の異なる草地のN反応性
(1)低密度区の年間合計収量はN施用重が少ないとき低かったが,N施用量が増した場合,標準区と遜色なくなった、この傾向は,高Nレベルにおいて,低密度区の2,3番草収量が高かったことを反映している。
(2)N施用量が多いときの低密度区の収量向上は,茎数が標準区にほぼ接近した7年目草地の場合は1番草の有穂茎数及びその1茎重の増加と,2・3番草における1茎重の増加によるものであり一方茎数の形成途上にある3年目草地では1番草無穂茎重の増大と,2・3番草における1茎重と茎数の増加によってもたらされた。
(3)したがって,天北地方のオーチャードグラス草地は初期株密度が25株/㎡(茎数にして500本/㎡)程度であっても,充分な施肥管理を行なえば3年目以降標準密度草地に匹敵する収量をあげることができる。
以上の結果から低密度草地の収量向上には,茎数の増加促進が必要であり,このためには各番草に対して充分量の施肥を行なうとともに,秋施肥も考慮すべきである。
主要成果の具体的データ
表1.収量比の経年変化
(2.0kg区に対する比で表示)
密度 | 経年数 /番草 |
2年目 | 3〜4 年目 |
5〜7 年目 |
0.5kg区 | 年間合計 | 93 | 99 | 98 |
1番草 | 96 | 102 | 98 | |
2,3番草 | 90 | 97 | 98 | |
0.2kg区 (低密度) |
年間合計 | 87 | 97 | 94 |
1番草 | 87 | 109 | 100 | |
2,3番草 | 87 | 88 | 90 |
表2.株数の変化(株/㎡)
区 | 経年数(年) | |||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | |
0.2(低密度) | 35 | 33 | 36 | 26 | 32 | 30 |
0.5 | - | 51 | 48 | 40 | 47 | 48 |
2.0(標準) | 191 | 93 | 67 | 61 | 65 | 71 |
図1 1茎重、茎数の経年変化(2.0kg/10a)播種区を100をして表示)
図2 越冬前の乾物蓄積量
図3 3年目草地低密度区のN反応性
(標準区〔2.0kg区〕を100として表示)
表3.造成年の秋施肥効果
区 | 乾物収量(kg/10a) | ||
有穂茎 | 無穂茎 | 計 | |
標準区 | 261 | 110 | 371 |
秋施肥区 | 396 | 119 | 515 |
普及上の注意事項
(1)本試験結果の適用は冬枯発生の少ない天北地方の鉱質土の採草地とし、造成時における低密度草地を対象とする。
(2)造成年の秋施肥は冬枯れ発生を助長する恐れがあるので,9月中旬以前に収穫可能となった草地を対象とし,播種期が遅延するなど越冬前の生育量が充分でない草地については翌年から行うことが望ましい。