【指導参考事項】
1.課題の分類  総合農業 作物生産 夏作物 稲(栽培)
          北海道 総合農業 作物生産 夏作物 稲(栽培)
2.研究課題名  イネの穂孕期耐冷性の前歴水温による変動
3.予算区分  経常・別枠(GEP)
4.研究期間  昭和56年〜59年
5.担  当  北海道農試・作一部・稲3研
6.協  力  北海道農試・稲4研
        道立農試(北見、上川、中央、道南)
        県立農試(青森、岩手、宮城、福島)

7.試験目的
 穂孕期耐冷性に対する前歴水温の効果を明らかにし、耐冷素質を高めるための水管理の指針を得る。

8.試験方法
① 品種:はやゆき(耐冷性強)および農林20号(耐冷性弱)、②培養:1/5000アールポットに円形20粒まき、ファイトトロン自然光室24/19℃で培養、主稈穂だけを供試、③水温処理:特定の期間だけ自然光室内の恒温水槽にポットを浸漬して、ポットの水地温を18〜30℃の範囲で、水深を1〜15㎝の範囲で一定に制御、④耐冷性検定:小胞子初期に12℃の自然光室で3〜4日間処理して不稔を誘導し、成熟期に稔実歩合を調査。

9.成果の概要
① 耐冷性を変動させる水温処理時期(Fig1):穂首分化期から開花終期までの水温を25℃にして培養したイネは、水温20℃で培養したイネにくらべて明らかに耐冷性が高かった。この水温による耐冷性の変動は、穎花分化期から小胞子初期まで(Fig1の中期)の水温によるものであり、頴花分化期以前(前期)および小胞子初期以後の水温によっては影響されなかった。
② 前歴水温による耐冷性の変動(Fig2):前歴水温25℃以上であれば耐冷性はほとんど変動しないが、25℃〜18℃の範囲では水温低下にともなって耐冷性も低下した。
③ 前歴水温による耐冷性変動の水深による差異(Fig3):やや冷涼な前歴気温(20/20℃)の下で前歴水温を25℃に高めたときの耐冷性の向上効果は、水深1㎝でも僅かに認められ、水深10㎝までは深くなるほど大きく、10㎝以上では変らなかった。
④ 耐冷性変動の機構(Fig4):前歴水温による耐冷性の変動は水温処理による葯長の変動と対応しており、葯長2㎜以下では葯が短くなるほど耐冷性が低下した。
⑤ 前歴期間の水管理:頴花分化期〜小胞子初期の期間は、小胞子初期の耐冷素質が決定される重要な時期である。耐冷素質向上の視点からみた、この期間の水管理指針は、幼穂を水面下に位置させるに充分な水深を保ちながら、日平均水温25℃を目標に水温上昇を図ることである。
⑥ 上記協力場所(6)の水田における頴花分化期後15日間の平均水温の平年値は、北海道の場所22.5〜23.8℃、東北の場所24.2〜25.3℃の範囲に分布していた。

10.主要成果の具体的データ


Fig1.生育、時期別水温処理による耐冷性の変動


Fig2.前歴水温と耐冷性との関係

稔実指数=(arcsin√冷温処理区稔実歩合)/(arcsin√対照区稔実歩合)


Fig3.冷気温(20/20℃)下で検定した前歴水温上昇による冷害防止効果


Fig4.前歴水温処理による耐冷性の変動と葯長との関係

11. 成果の活用面と留意点
 冷害危険期に達する以前10日間前後の期間(頴花分化期〜小胞子初期)はイネの耐冷素質が決定される重要な時期である。イネ自身の耐冷素質を高めるという観点からこの期間の水管理にもっと留意すべきであり、本成果は耐冷栽培の水管理に新しい意義指針を与えたものとして指導上の参考に資する。

12.残された問題とその対応
① 本成果はファイトトロン内のポット試験により得られたものであるので、本田における効果確認と問題点の検討が望まれる。
② 水温上昇技術の開発