【指導参考事項】
てん菜の短期輪作栽培における収量・糖分の変動解析試験成績
                          道立北見農試  特用作物科
                          道立十勝農試  てん菜科
1.試験期間  北見農試 昭和43〜59年 完了  十勝農試 昭和47年〜59年 完了
2.予算区分  道 単

3.目  的
 てん菜の輪作年限は4年以上が望ましいと指導されているが、現状におげる輪作年限は一般にそれよりも短かく、ばれいしょとの交互作やそれに麦類や豆類などを加えた3年輪作栽培が行われている畑作地帯も多い。そこで3年輪作体系下におげる栽培上の問題点を調査し、当面の対応策について検討するために、北見農試では昭和43年〜59年の17カ年間、湿性黒色火山性土において、また十勝農試では昭和47年〜59年の13カ年間、乾性褐色火山性土において試験を実施した。

4.試験方法
 北見農試
 1)試験区の輪作様式
(1)4年輪作: てん菜− ばれいしょ− 春播小麦− 菜豆 (4R)
(2)3年輪作A: てん菜− ばれいしょ− 春播小麦 (3RA)
(3)3年輪作B: てん菜− ばれいしょ− 菜豆 (3RB)
(4)2年輪作: てん菜− ばれいしょ (2R)
(5)連 作: てん菜 (S)
2)てん菜の対策処理区別 試験年次
(1)直播標準(無処理) 昭和43〜59年
(2)直播種子消毒(タチガレソ湿粉衣)  〃 46〜59年
(3)移植・平畦  〃 46〜59年
(4)移植・高畦  〃 46〜52年
(5)移植・多肥(5割増肥)  〃 53〜59年
3)1区l00㎡、2反復
4)収穫物の残置はいずれの作物とも全量、鋤き込み。
十勝農試
1)試験区の輪作様式
(1)4年輪作: てん菜−ばれいしょ−とうもろこし(スイートコーン)−小豆 (4R)
(2)3年輪作A: てん菜−とうもろこし(スイートコーン)−小豆 (3RA)
(3)3年輪作B: てん菜−ばれいしょ−小豆 (3RB)
(4)連作: てん菜 (S)
2)1区161.3㎡(畦長8.4m、32畦)、2反復
3)てん菜は直播、移植栽培区を設ける(各区1区80.6㎡、16畦)。
4)収穫物の残渣はいずれの作物とも、全量鋤き込み、堆肥などは施用せず。

5.結果の要約
 1)てん菜の収量・品質の変動
 (1)てん菜とばれいしょの根菜類2作物に春播小麦、菜豆もしくは小豆を組み入れた3年輪作におけるてん菜の収量はいずれの場合も4年輪作と比較して減収した。(北見、十勝農試)
 しかし、てん菜、とうもろこし(スイートコーン)、小豆を組み合せた3年輪作では、てん菜の根重は4年輪作よりもわずかに高い傾向を示したが、根中糖分は劣った。これらの結果は直播と移植栽培の間でよく一致していた。(十勝農試)
 (2)てん菜の連作栽培および2年輪作では4年輪作に比べ減収程度は大きく、根中糖分の低下も著しかった。てん菜−ばれいしょの2年輪作を続けた場合、収量は連作栽培より低下した。(北見農試)
 (3)連作および短期輪作におけるてん菜の収量と根中糖分の低下の要因として、北見および十勝農試では病害の多発が大きな要因であることが認められたが、北見農試においては短期輪作のてん菜とばれいしょの組合せで養分収支の不均衝を生じ減収要因の一つと成ったと考えられた。
  すなわち、てん菜とばれいしょの2年輪作は病害の多発とともに、ばれいしょの高収(5,000kg/10a)によりNとK2Oの養分収支が悪化し、てん菜の収量は連作よりも減収した。また、てん菜とばれいしょの根菜類2作物を組み入れた3年輪作でも程度は軽いが、同様に養分収支の不均衡を生じ減収した。(北見農試)
   一方、連作および短期輪作における各種病害の発生は4年輪作と比較して明らかに多いが、連作および輪作圃の土壌分析結果および跡地から採取した土壌にえん麦および大豆を生育させた結果から、連作圃の土壌養分は輪作圃に劣らないことが確認された。(十勝農試)
 (4)短期輪作栽培における減収を軽減する対策
  ①移植栽培では春播小麦を組入れた3年輪作は、てん菜作付後、3巡までは収量、糖分ともに4年輪作の移植標準栽培と変らなかった。(北見農試)
  ②移植・高畦栽培を行った場合、3年輪作では春播小麦との組合せで4年輪作と同等の収量、根中糖分であった。(北見農試)
  ③移植・多肥栽培では3年輪作は4年輪作移植標準栽培と、根重はほぼ同等となるが、糖分は指数で3%低下し、糖量は2〜4%減収した。(北見農試)
  ④根重に対するP205の増肥効果が認められ、直播栽培で4〜11%、移植栽培で6〜12%の増収率を示したが根中糖分はわずかに低下する傾向がみられた。(十勝農試)
  ⑤P205増肥によって、てん菜の側根からのAphanomyces菌の検出割合が少なくなる傾向がみられた。(十勝農試)
2)てん菜以外の作物の収量性
 (1)ばれいしょでは上いも重、でん粉価について輪作様式間の差はみられなかった。(北見、十勝農試)
 (2)とうもろこしでは3年輪作の2巡(6年間)までは減収しないが、その後は年次間のふれは大きいが、減収する傾向があった。(十勝農試)
 (3)春播小麦は3年輪作を12年以上続けた場合、減収する傾向があった。(北見農試)
 (4)菜豆では3年輪作を10年以上続げた場合減収した。(北見農試)
 (5)小豆では3年輪作において落葉病の被害が大きく、収量は4年輪作にくらべ著しく減収した。(十勝農試)

6.主要成果の具体的数字
 1.直播栽培における主要形質の年次推移(タチガレン無粉衣)(北見農試)
輪作様式 収穫株数
株/10a
茎葉重(t/10a) 根重(t/10a) 糖量(kg/10a)
Ⅰ〜Ⅲ
4R (6,691) (4.58) (4.28) (4.43) (3.97) (3.81) (3.88) (667) (653) (671)
3RA 99 96 103 91* 92* 92 89* 92* 90 90
3RB 99 97 99 95* 93* 90 94 93 90 94
2R 96** 102 99 93* 97 81 76** 97 79* 74**
S 95** 95 114 109 82* 88 85** 78** 82* 79**
注 1)Ⅰ昭和43〜49年平均 Ⅱ50〜54平均 Ⅲ55〜59年平均
  2)4Rは実数、その他は4Rを100とした割合
  3)*、**は4Rに対しそれぞれ5%、1%水準で有意

2)根中糖分、有害性非糖分
輪作様式 T/R比 根中糖分(%) 有害性非糖分(mg%) 不純
物価(%)
H-N K Na
4R (1.13) (1.14) (1.20) (16.48) (17.15) (17.36) (27.8) (162) (26.1) (4.47)
3RA 106 111 102 100 97** 101 81 88 100 87
3RB 106 111 102 100 100 100 96 91 108 95
2R 101 122** 122** 97** 97** 98* 83 81 146 92
S 121* 132** 126** 95** 92** 92** 141 105 174 138
注1)は昭和54〜59年の平均

2.収穫本数および根重、根中糖分(昭50〜59年の平均値)(十勝農試)
栽培法 直播 移植
試験区
/形質
収穫本数
(本/10a)
根重
(t/10a)
根中糖分
(%)
糖量
(㎏/10a)
収穫本数
(本/10a)
根重
(t/10a)
根中糖分
(%)
糖量
(㎏/10a)
4R (6,868) (3.75) (16.28) (613) (6,911) (4.45) (16.35) (732)
3RA 94 104 98 102 100 102 98 101
3RB 93 97 99 96 100 95 99 94
S 85 84 90 77 98 85 91 78
注1)4Rは実数、その他は4Rを100とした割合で示す。

3.病害の年次推移(北見農試)
輪作様式 苗立枯病個体率(%) 褐斑病
指数
Ⅱ〜Ⅲ
根腐病 昭和59年
根腐症状
株率(%)
無粉衣
Ⅰ〜Ⅲ
粉衣
Ⅰ〜Ⅲ
罹病度
46〜52
株率(%)
53〜59
4R 24.1 5.3 0.4 0.35 1.1 20.8
3RA 26.8 5.5 0.5 0.38 1.7 31.1
3RB 23.7 6.7 0.5 0.31 1.3 33.7
2R 33.5 7.7 0.6 0.42 2.1 37.9
S 46.1* 10.1 0.9 0.35 0.9 36.5

4.病害の発生(昭50〜59年の平均値)(十勝農試)
栽培法 直播 移植
病害/
輪作様式
苗立枯病
個体率1)
(%)
根腐病発病度(%) 褐斑病
発病
程度2)
欠株率(%)
8月24日

9月27日
根腐病発病度(%) 褐斑病
発病
程度2)
欠株率(%)
8月24日

9月27日
8月24日

9月27日
収穫期 8月24日

9月27日
収穫期
4R 20.3 0.7 1.0 1.3 4.3 0.2 0.6 1.4 0.5
3RA 29.2 0.9 0.9 1.4 7.4 0.5 0.8 1.6 0.6
3RB 35.2 1.5 1.2 1.3 9.2 0.5 0.8 1.6 0.6
S 61.2 2.2 2.1 2.2 12.6 1.9 1.7 2.4 0.7
注)1)調査月日 5月27日〜6月6日
  2)  〃    8月19日〜10月23日

5.移植栽培におけるりん酸増肥と測根のAphanomyces菌検出率(%)
年次 58 59
輪作様式
/施肥量
標肥 りん酸
増肥
標肥 りん酸
増肥
4R 35.0 22.7 35.4 16.2
3RA 40.0 30.0 55.1 21.7
3RB 37.5 32.5 42.5 20.5
連作12〜13年目 45.6 31.3 43.0 25.9
平均 39.5 29.1 44.0 21.1

6.輪作様式別の養分収支試算(北見農試)(kg/10a)
年次 43〜50 51〜59
作物名/
輪作様式
N P2O5 K2O MgO N P2O5 K2O MgO
4R てん菜 5.9 19.0 7.1 3.0 5.6 18.8 6.8 2.9
ばれいしょ 0.0 7.2 -3.2 2.1 -3.7 4.9 -9.6 1.5
春播小麦 1.0 4.2 2.5 1.7 -0.4 4.6 2.7 1.8
菜豆 1.7 10.0 6.4 2.4 1.5 9.8 6.3 2.4
4R 1年間 1.7 10.1 3.2 2.3 0.8 9.5 1.6 2.2
3RA 1.6 10.1 2.1 2.3 0.5 9.4 0.0 2.1
3RB 2.5 12.1 3.4 2.5 1.1 11.2 1.2 2.3
2R 3.0 13.1 2.0 2.6 1.0 11.9 -1.4 2.2
S 5.9 19.0 7.1 3.0 5.6 18.8 6.8 2.9
注1)菜種のN吸収量の2/3は根粒菌からの固定Nとして計算、
  昭和54年の作物体分析値による。
  2)養分収支はばれいしょの収量に合せて2時期に分けて試算した。
  ばれいしょ収量43〜53年平均3500kg、51〜59年平均5200kg/10a。

7.跡地土壌の評価(えん麦、大豆の無肥料ポット栽培)(十勝農試)
年次 作物部位別
/輪作様式
対4R比(%)
えん麦 大豆
地上部 地上部 根部
55 4R (68.6) (393) (182)
3RA 103 106 115
3RB 103 97 131
連作9年目 129 135 182
57 4R (67.8) (578) (395)
3RA 96 105 118
3RB 104 90 120
連作11年目 124 107 121
注1)4Rは実数(g/100個体)、その他は4Rを100とした割合を示す。

8.対策処理
 1)移植栽培(昭和46〜59年平均)(北見農試)
処理区別 根重(t/10a) 糖量(kg/10a)
4R 3RA 3RB 2R S 4R 3RA 3RB 2R S
直播 3.88 3.51 3.54 3.26 3.31 663 596 605 545 522
移植 4.56
(118)
4.38
(125)
4.26
(120)
3.83
(117)
3.91
(118)
789
(119)
753
(126)
735
(121)
644
(118)
623
(119)
処理区別 根中糖分(%) 不純物価(%)
4R 3RA 3RB 2R S 4R 3RA 3RB 2R S
直播 17.13 16.98 17.07 16.51 15.75 4.47 3.87 4.23 4.11 6.16
移植 (101) (101) (101) (102) (101) (90) (95) (87) (93) (97)
 注1)( )内数字は直播を100とした割合で示す。

 2)移植、多肥栽培(昭和53〜59年平均)(北見農試)
処理区別 根重(t/10a) 糖量(kg/10a)
4R 3RA 3RB 2R S 4R 3RA 3RB 2R S
標準 4.84 4.45 4.44 4.01 4.22 838 773 769 680 669
多肥 4.99
(103)
4.73
(106)
4.85
(109)
4.48
(112)
4.78
(113)
844
(101)
801
(104)
819
(107)
745
(110)
746
(112)
処理区別 根中糖分(%) 不純物価(%)
4R 3RA 3RB 2R S 4R 3RA 3RB 2R S
標準 17.36 17.32 17.34 16.92 16.86 4.03 3.66 3.67 3.82 5.98
多肥 16.95
(98)
16.91
(98)
16.90
(97)
16.62
(98)
15.62
(98)
4.80
(119)
4.33
(118)
4.41
(120)
4.56
(119)
6.80
(114)
 注1)( )内数字は標準を100とした割合で示す。

指導上の態度
1.てん菜では直播、移植栽培ともに輪作年限が短かくなると苗立枯病、根腐病などの各種土壌病害や褐斑病が多くなり、一方、養分収支に不均衡を生じることがあり、減収または糖分の低下を引き起こすので、てん菜の輪作年限は移植栽培においても4年以上が望ましい。
2.しかし、止むを得ず輪作年限を短かくする場合でも3年輪作までとし、この場合には、とうもろこし、小麦などのイネ科作物を組み入れ、さらに、施肥管理に留意することが望ましく、2年輪作や連作は避けるべきである。