【普及奨励事項】
1.課題の分類 食 用 ユ リ 繁 殖 2.研究課題名 ウイルスフリー化処理した食用ユリの生育、収量ならびに増殖法に関する試験 3.期 間 昭和57〜59年 4.担 当 道立中央農試原原種農場作物第2科 5.予算区分 道 単(昭和57〜59年) 6.協力分担 道立中央農試病虫部病理科 |
7.目 的
ウイルスフリー化処理を行った食用ユリについて、それぞれの育成段階におけるフリー化処理の効果と増殖法について検討する。
8.試験方法
(1)りん片繁殖時の増殖能力に関する試験
① ウイルスフリー化処理の効果について
供試材料:「白銀」「渡辺ユリ」のフリー化処理球および一般栽培ほ産球
母球の大きさ:1年球(約60g)と成球のS、M、L(約60〜130g)の3段階
② ウィルスフリー化処理球のりん片繁殖について
「白銀」のフリー化処理球の1年球(約65g)と成球のM、L、2L、3L(約100〜200g)の母球を供試。
(2)1年球育成に関する試験
「白銀」のフリー化処理球と一般栽培ほ産球のりん片仔球を3段階の大きさに区分して供試。
(3)成球育成に関する試験
「白銀」のフリー化処理球と一般栽培ほ産球の1年球を大きさ別に3区分して供試。
(4)木子利用に関する試験
「白銀」のフリー化処理球の1年球と成球に着生した木子を大きさ別に3区分して供試。
(5)ウイルス病汚染に関する試験
「白銀」のフリー化処理球を供試し、環境の異なる3場所で栽培しウイルス病罹病程度を検討。
9.結果の概要・要約
(1)組織培養法によるウイルスフリー化処理した食用ユリについて、りん片繁殖、1年球育成、成球育成における生育・収量ならびにウイルス病汚染と増殖法について検討を行った。
(2)ウイルスフリー化処理の効果は、りん片繁殖では着生仔球数、球径5㎜以上の仔球数の増加や根の発達に認められた。1年球育成、成球育成では、生育・球肥大ならびに着生木子の数や重量がまさった。
(3)りん片繁殖用母球は1年球、成球をとわず大きいものほど効率が良く、使用するりん片重量は安全性の高いりん片仔球を確保するため、1g以上が望ましい。
(4)ウイルスフリー化処理したものの球肥大は良好で3g以上の木子であれば栽培1年で1等級(95g以上)〜3等級(50g以上)の生産が、また12gの1年球で特級球(130g以上)の生産が可能である。
(5)ウイルスフリー化処理したものの増殖に当っては、ウイルス病汚染防止のため環境の浄化と寒冷紗被覆による隔離が必要で、ウイルス病株の抜き取り回数は多くする必要がある。また、寒冷紗で被覆する場合は倒伏防止対策が必要である。
10.主要成果の具体的数字
表1.りん片繁殖におけるウィルスフリー化処理の効果
品種名 | 母球別 | 処理区別 | 供試りん片1g当たり着生仔球 | 球径5mm以上仔球の 根重量割合 |
|
総数 | 球径5mm以上球数 | ||||
白銀 | 1年球 | フリー化処理球 | 0.90球 | 0.93 | 1.15 |
一般ほ球 | 0.83 | 0.84 | 1.06 | ||
成球 (平均) |
フリー化処理球 | 0.62球 | 0.66 | 0.33 | |
一般ほ球 | 0.64 | 0.56 | 0.35 | ||
渡辺ユリ | 成球 (平均) |
フリー化処理球 | 45.2% | 45.7 | 70.1 |
一般ほ球 | 34.3 | 44.8 | 59.9 |
表2.1年球育成、成球育成におけるウイルスフリー化処理の効果
処理区別 | 供試 球重 |
収穫時 の茎長 |
収穫球の 平均球重 |
株当たり 木子数 |
平均 木子重 |
|
一 年 球 育 成 |
フリー化 処理球 |
3.0g | 54.9㎝ | 36.1g | 3.6球 | 2.3g |
1.1 | 39.5 | 22.6 | 2.6 | 1.7 | ||
0.4 | 36.8 | 10.4 | 1.2 | 1.0 | ||
一般ほ球 | 2.8 | 48.6 | 27.7 | 2.1 | 1.6 | |
0.9 | 36.9 | 16.2 | 1.5 | 1.7 | ||
0.3 | 26.2 | 8.9 | 1.1 | 1.5 | ||
成 球 育 成 |
フリー化 処理球 |
32.3 | 134.6 | 240.4 | 10.3 | 4.2 |
22.4 | 130.9 | 210.5 | 11.8 | 4.3 | ||
11.8 | 118.2 | 147.7 | 8.8 | 4.4 | ||
一般ほ球 | 22.8 | 91.7 | 135.3 | 8.8 | 3.2 |
表3.成球育成における木子の利用
木子 着生株 |
供試 木子重 |
収穫時 の茎長 |
収穫球の 平均球重 |
肥大 倍率 |
1年球 | 5.1g | 64.0㎝ | 102.1g | 20.0倍 |
3.1 | 55.7 | 68.1 | 22.0 | |
0.7 | 44.2 | 24.2 | 34.6 | |
成球 | 7.0 | 68.1 | 116.7 | 16.7 |
3.2 | 56.9 | 71.5 | 22.3 | |
1.5 | 51.4 | 43.5 | 29.0 |
表4 ウイルス病汚染と球肥大
栽培環境 | 栽培 年数 |
ウイルス病症状株発生調査(7月16日) | 供試木 子重量 |
収穫球の 平均球重 |
肥大 倍率 |
|||
調査株数 | モザイク型 | 黄化型 | えそ斑点型 | |||||
一般ほ隣接 | 1年 | 64株 | 68.8% | 1.6% | 0% | 3.3g | 43.0g | 13.0倍 |
2 | 70 | 74.3 | 0 | 1.4 | 2.9 | 24.1 | 8.3 | |
3 | 119 | 82.4 | 0 | 3.4 | 2.6 | 27.7 | 10.7 | |
原原種農場内 ろ地 |
1 | 80 | 0 | 1.3 | 0 | 4.0 | 52.5 | 13.1 |
2 | 64 | 0 | 0 | 0 | 4.3 | 53.9 | 12.5 | |
3 | 42 | 0 | 0 | 0 | 4.6 | 54.4 | 11.8 | |
原原種農場 寒冷紗ハウス内 |
3 | 45 | 0 | 0 | 0 | 5.2 | 74.6 | 14.3 |
11.今後の問題点
12.普及指導上の注意事項
ウイルスフリー化処理を行った食用ユリの増殖に当たっては特に次の事項に注意する。(1)1年球ならびに成球育成段階では充実したりん茎を生産するため、十分管理されたほ場を選び、乾燥時にそなえ潅水施設を準備することが望ましい。