【指導参考事項】(昭和58年〜59年)
  酸性硫酸塩土壌の簡易判定法
                    中央農試稲作部栽培第一科
                    中央農試化学部土改第一科
                    中央農試化学部土改第二科

目  的
 基盤整備工事その他の土木工事で酸性硫酸塩土壌の混人による農作物の生育障害を未然に防止するため、客土材料およびほ場の土壌の簡易判定法を検討する。

試験方法
1.酸性硫酸塩土壌の実態調査
 土層別の硫黄含有率、分析法別によるSO4の溶出含有率の検討
 FeS混入土壌と、FeS2混入土壌によるpH(H2O)とpH(H2O2)の差異
2.分析法の検討 (塩化バリウムーゼラチン法)
 土壌pHの低下とSO4溶出割合に対するH2O2濃度と経時変化、温度による影響の検討
 全硫黄分析法の検討、可溶性硫黄分析法の検討
3.一般土壌と酸性硫酸塩土壌の比較

試験成果の概要
1)酸性硫酸塩土壌は肉眼的にもかなり明瞭な特徴があり、まず黄鉄鉱(パイライト)を含む土壌は暗青灰色を呈し、中に黄鉄鉱の金色の微粒子を含む。これらは下層に存在する海成洪積土、または凝灰岩質土壌に多く含まれる。一方、硫化鉄(Fes)は黒色の化合物で、硫化水素臭のする土壌に存在する。この土壌の出現するところは上流に温泉、鉱床、火山のある河川土、または河口附近の湖沼跡地、泥炭土の還元土に形成される。そこでこれらに該当する土壌では事前に調査を行う必要がある。
2)客土材料については全硫黄含有率を測定し、Sで0.1%以上、Sで0.1%以上、SO4で0.3%以上、の土壌は酸性硫酸塩土壌とみなされる。全硫黄定量に塩化パリウム-ゼラチン法を用いる場合の前処理法アルカリ溶融法、王水分解法のいずれかをもちいること。
3)すでに酸性硫酸塩土壌の混入した恐れのある土壌では土壌20gに2%過酸化水素(H2O2)を50mL加え、室温中に24時間放置後、そのろ過液でSO4を定量し、原因が硫黄であるかどうか判定すること。

主要成果の具体的データ

図-1 各調査地点の土層別硫黄(S)含量
   P:泥炭層、S:砂土層、C:粘土層


図-2 H2O2 2%添加によるpHの経時変化
   (36点の平均値)


図-3 pH変化に対するH2O2濃度の影響

表1 全硫黄(SO4として表示)分析法の比較*
No. アルカリ溶融 王水 H2O2
30%-20mL
1 3.75 4.00 2.10
2 1.75 1.45 1.00
3 1.26 1.60 1.07
4 0.50 0.33 0.26
5 0.40 0.25 0.23
6 1.90 2.10 0.30
7 0.70 0.70 0.75
8 0.53 0.18 0.15
9 0.15 0.08 0.11
10 0.15 0.07 0.09
11 0.50 0.85 0.20
12 0.70 0.63 0.30
13 0.80 0.29 0.30
土壌:2g使用

表2 一般水田土壌とパイライト混入土壌
   のpH(H2O)とpH(H2O2)の比較
土壌 pH(H2O) pH(H2O2)
一般水田土 5.19±0.17 3.97±0.26
パイライト
混入土
5.27±0.71 3.58±0.98


図-4 H2O2の濃度とSO4溶出量の関係
   ◎は全含量

普及指導上の注意事項
1)農地の基盤整備、客土および傾斜地の均平化等の土木事業の事前調査および事後の調査に適応する。
2)堀り出されたばかりのパイライト混入土壌はpH(H2O)は中性に近く、pHの低下の認められない場合がある。
3)酸性硫酸塩土壌を形成している地層は現在のところ特定できないが、道内各地に存在しているようなので客土材料の選定などにあたっては、十分注意すること。