【指導参考事項】
1.課題の分類  農業施設 牛 管理
2.研究課題名  畜産施設におけるカラマツ材利用試験
          −カラマツ材利用牛舎の構造・環境調査−
3.期   間:  昭56〜58年度
4.担   当:  中央農試、新得畜試、根釧農試
5.予算区分:  道単
6.協力分担:  道立林産試、寒地建築研究所

7.目   的
  道産カラマツ材を畜産施設に利用するため、カラマツ材等を利用した既存施設の構造・環境を調査し、低コストで適正な環境を具備した牛舎設計の指標を得る。

8.方   法
 ◎カラマツ材利用開放型牛舎の環境調査 (昭56〜57)....新得畜試
     ◇調査牛舎:襟裳肉牛牧場肥育牛舎 ◇調査期間:昭56年1月〜2月
 ◎既存牛舎の構造・環境調査 (昭56〜58).....中央農試、根釧農試
     ◇既存牛舎に関するアンケート調査(昭56):十勝支庁を除く全道(成牛25頭以上)
     ◇既存牛舎構造・環境調査(昭56〜58):根室地区9戸(うち環境調査4戸)

9.結果の概要
 〈1〉カラマツ材利用開放型牛舎の環境調査結果
 ①調査牛舎は、農業用PT型ハウス標準仕様書(林産試)に従って建築された、開放型棟換気方式の育成・肥育牛舎(表1)である。
 ②棟開口部(幅20cm)の吹き出し風速は舎外風速により変化し1〜3m/sで、この部位からの換気回数は13〜39回/Hであった。水分収支法による牛舎全体の換気回数は28〜108回/Hと推定され、南側上壁開放・棟換気による通風は良好であった。このため、舎内温は外気温+3〜4℃程度で調査期間中の最低では-7℃(外気-13℃)となった。また、舎内湿度、CO2濃度は表2に示すように外気と大差無く、舎内空気柱状は良好である。
 ③9月〜5月に肥育した肉用種延98頭の発育調査では特に著しい生産性の低下を認められなかった。
 〈2〉既存牛舎の構造・環境調査結果
 ①アンケート調査(実回答数55)の結果、構造材は小屋組み:木材(54%)、木材+軽量鉄骨(23%)、壁:ブロック(57%)、木材+ブロック(17%)、木材(12%)となっており、中柱のある牛舎は85%(うち木柱36%)であった。断熱材は、屋根26%、壁15%が使用しており、換気方式は強制23%、自然58%、併用19%であった。
 ②既存牛舎の構造調査結果を表3に示す。カラマツ材の利用は古くからみられ、自家所有林の利用が多い。建築単価は年次の差はあるが自家労力を投入するほどコストは下がり、近年では約2.5万円/㎡である。換気方式は、窓・戸の開閉によるものが多く、断熱材は20mm厚程度のものの利用が多かった。
 ③上記牛舎のうち4戸(A〜D)についての環境調査結果を表4に示す。換気方式はAが棟換気(10cm)による自然換気となっている他は、主に窓の開閉による。Bは夜間窓を閉め、C,Dは水道凍結の恐れが無い限り窓を開けている。
 Aは棟換気であるが幅10cmと狭く、閉鎖的で窓が固定式であるため開放率も5.7-7.7%と小さいので、開放型牛舎に比較して換気回数6〜11回/Hと少なく舎内湿度も高いが、CO2400-500ppm,NH40.5ppm以下であることから空気性状はほぼ満足しうるものである。
 B〜Cの開放率は窓を全開にしても3%程度で、閉じた場合にはBのように保温状態は良いが、換気回数は著しく低下し、湿度、CO2,NH4濃度も高くなり空気性状の悪化がみられる。
 C,Dは窓を開けているため、Bに比較して換気回数も多く湿度も低いが、外気温が-10℃C以下になると舎内温が0℃程度になっており、厳寒期には保温のため窓を閉めるようになり換気状態の悪化が予想される。
 このように窓・戸の開閉のみでは十分な換気が期待できない。しかし、棟換気方式では舎内温が低下するので、ある程度の温度保持を必要とするつなぎ飼い牛舎の低コストな換気方法、牛舎構造については今後の検討が必要である。

10.主要成果の具体的数字
表1 開放型牛舎の諸元
牛   舎 肉牛肥育・育成
寸   法 11.7×32.4m
収容方式 踏み込み式
収容頭数 4群 59頭 
平均体重 458.3kg
換気方式 南面上部開放、
北面軒開放19cm
棟換気(20cm)
(開放率18.4%)

表2 開放型牛舎の環境調査結果(58.1/25-26)
項目/時刻 15:00 19:00 24:00 5:00 9:00 11:00
外気 温度℃ 1.4 2.1 -0.6 -3.6 -2.2 -1.2
湿度% 86 67 67 61 50 47
舎内/ 温度℃ 1.5 2.0 -0.3 -3.2 -1.3 -0.8
湿度% 89 73 70 66 52 56
CO2濃度2ppm 380 330 380 530 600 430
開口部風速3 1.4 2.5 2.5 1.8 1.2 0.9
 *1:1.5cm 3ヶ所平均、*2:1.3m 4ヶ所平均

表3 既存牛舎の構造調査結果(S.58 1-3月、別海町、中標津町、標津町)
No 牛舎 建築
年次
牛舎寸法m 収容
方式
牛床
構 造 材
小屋組/壁
断熱
換気方式 その他
A* 育成 58 13.0×39.6 FS 77 木造トラス/木造 なし 棟換気(10cm)  
B* 成牛 55 10.8×32.6 ST 43 木造/ブロック 20mm (窓開閉)  
C* 56* 10.8×30.6 CT 40 木造トラス/木造 20mm (窓開閉) 2.4万/㎡
D* 56* 10.8×36.3 ST 37 軽鉄+木/木造 20mm (窓開閉) 2.5万/㎡
E 46* 10.8×27.0 ST   木造/木造 なし (窓開閉) 0.4万/㎡
F 42 10.8×30.6 ST   木造/木造 なし (窓開閉) (キング式)
G 50 10.8×28.8 ST   木造/ブロック なし 換気筒5本 0.8万/㎡
H 52* 10.8×55.8 ST   木造/木造 なし 棟換気(4.8センチ) 0.8万/㎡
I 48* 10.8×36.0 ST   木造/木造 なし (窓開閉)  
 注:建築年次の*印は自家建設。収容方式 FS:フリーストール、ST:スタンチョンタイ
 CT:コンフォートタイ

表4 既存牛舎環境調査結果(B〜Dは調査期間中の20:00-5:00の平均)
農家No. A B C D
調査日等 北側戸開 〃閉 1 2 3 1 2 3 1 2 3
外気温℃ -7.1 -2.9 0.1 4.8 0.9 -1.6 5.2 0.7 -4.3 -8.4
舎内温℃ -5.9 -4.3 10.8 11.9 12.2 7.4 6.8 9.2 5.2 5.0 2.8
外気湿度% 45.2 79.6 94.1 97.5 96.9 84.1 79.7 85.0 70.1 85.5
舎内湿度% 72.9 81.6 93.9 95.6 95.5 91.0 85.5 84.1 86.3 86.2 91.0
換気回数 9.4 6.8 2.6 3.0 4.3 10.5 8.7 11.6 14.1 6.8 6.8
ガス濃度
(ppm)
CO2:400-500ppm
(96頭収容)
CO2:1200ppm
NH4:5ppm
CO2:1000ppm
NH4:7.5ppm
CO2:800ppm
開放率% 7.7 5.7 3.0 - 9.8 2.5 - 8.4 2.4 - 6.1
牛舎容積 6.79m3/100kg 6.76m3/100kg 4.24m3/100kg 4.17m3/100kg
 注:換気回数の下線は、ガス濃度測定時のもの(Dについては、日時が異なる)。

11.普及上の留意点
①設計・施工にあたっては、農業用PT型ハウス標準仕様書に従う。
②飲水器は不凍型ものとを使用する。