【指導参考事項】
1.課題の分類  病 害  野 菜
2.研究課題名  弱毒ウイルスTMV-PA18によるモザイク病の防除試験
3.予算区分  別 枠(生物防除)
4.研究実施年度・研究期間  継・中・完  昭和55年〜59年
5.担  当  北海道農試・病昆・病害2研
6.協力・分担関係

7.目  的
 近縁のウイルス間に働く干渉作用を利用し、植物ウイルス病の防除技術を確立する。具体的にはピーマン、トウガラシにおけるTMVの弱毒ウイルスを作出し、その特性、防除効果ならびに実用化に伴う適正使用法を確立する。

8.試験研究方法
 1)ピーマン、トウガラシから分離されたTMVの系統を類別し、その諸性質を調べた。
 2)類別した系統の中から最も適切と思われた系統をHolmes(1934)の方法に従い熱処理(35℃、15日間)し、弱毒ウイルスを作出した。
 3)作出された弱毒株の諸性質、圃場を用いた防除試験、適正使用法について検討した。

9.成果の概要・要約
 1)道内のピーマン、トウガラシのモザイク病株から分離したTMVはトウガラシ系統(P)、トマト系統、黄斑系統および未報告の系統の4種類であったが、P系統の発生が最も多く、道内に広く分布している。
 2)いずれの系統も粒子の形態、粗汁液中の耐性は類似しており、血清学的にも類縁関係を示した。
 3)TMVのトマト系統と普通系統に抵抗性であるピーマン、トウガラシはP系統に容易に全身感染した。また、種子伝染率は24.4%、育苗床における土壌伝染率は60.0%であった。
 4)熱処理によってP系統の分離株P6からピーマン、トウガラシにごく軽い症状を呈するウイルスを作出し、弱毒ウイルス“Pa18”と名付けた。
 5)Pa18はP6および他府県産のP系統に対して完全な干渉効果を示したが、他のTMV系統には不完全であった。
 6)Pa18は8科34種中5科24種の植物に感染したが、全身感染した植物のうち、2、3の植物を除き無病徴か、ごく軽い症状であった。
 7)PVX、PVY、CMVおよびAMVはPa18と重複感染すると、各々の単独感染株より僅かながら症状が強まった。
 8)生育期の異なるピーマンにPa18を接種したが、いずれにも影響はなく、その干渉効果は接種後10〜15日頃から有効となった。
 9)Pa18はピーマン、Nicotiana clevelandiiおよびN.benthamianaでよく増殖した。
 10)Pa18は圧力5Kg/c㎡、高さ3〜5㎝からの噴霧接種により70〜96%のピーマン苗に感染した。
 11)圃場における防除試験において、Pa18は原株P6による病徴発現および生育遅延を顕著に抑制した。また、P6による減収は約40%であったが、これに対しPa18による減収は僅か4.8〜6.3%であった。

10.成果の具体的数字
第1表 TMV3種系統に対するピーマン、トウガラシ品種の反応
供試品種 トウガラシ系統 トマト系統 普通系統
接種葉 全身葉 接種葉 全身葉 接種葉 全身葉
トウガラシ「札幌大長」(R) CS M NS (-) NS (-)
ピーマン「緑王」(R) CS M NS (-) NS (-)
  〃  「工一ス」(R) CS M NS (-) NS (-)
  〃  「昌介」(S) CS M CS M CS M
「東京ししとう」(S) CS M CS M CS M
注)(R):TMVのトマト系統と普通系統に抵抗性、(S):罹病性
  (-):ときにえそ症状となる。CS:退緑斑点、NS:えそ斑点、M:モザイク

第2表 弱毒ウイルスPa18に対するピーマン、トウガラシ品種の反応
ウイルス ピーマン「緑王」 ピーマン「東京ししとう」 トウガラシ「札幌大長」
接種葉 全身葉 接種葉 全身葉 接種葉 全身葉
Pa18(弱毒ウイルス) - m - m - m
P6(強毒ウイルス) CS M.ST CS M.ST CS M.ST
無接種 - - - - - -
注)-:無病徴、m:軽いモザイク、M:強いモザイク、CS:退緑斑点
  ST:萎縮

第3表 防除試験
試験区 上物果実 全果実 モサイク果
発生率(%)
収穫終了時
草丈(cm)
個数 重量(Kg) 個数 重量(Kg)
Pa18(弱毒ウイルス) 153.3a 4.71a 186.7a 5.25a 7.3 62.6a
Pa18+P6 155.0a 4.66a 176.0ab 4.99a 9.8 61.0a
P6(強毒ウイルス) 99.0b 2.93b 133.7b 3.38b 73.6 53.0b
無接種 163.7a 4.95a 204.0a 5.60a 1.3 61.5a
注)1.アルファベットの同文字は5%水準で有意差なし。
  2.モザイク果調査は9〜10月の収穫果実によった。

11.成果の活用面と留意点
 公 表  成果は会議および学会で発表。
 活 用  指導参考事項として普及に移す。
 留意点  高温時に弱毒ウイルスによる障害が出るようなので(茨城園試)、異常高温での利用に注意する。

12.残された問題点
 1)種々な環境、とくに高温条件下における弱毒ウイルスの効果。
 2)さらに有効で、かつ他のTMV系統に対しても干渉効果のある弱毒ウイルスの作出。
 3)弱毒ウイルスと強毒ウィルスの簡易な判別法。