【指導参考事項】
1.課題の分類  肉牛  飼養
2.研究課題名  秋分娩方式における肉牛の飼養管理技術確立に関する実証試験
3.期   間  (昭54〜58)
4.担   当  新得畜試・種畜部肉牛科・研究部衛生科
5.予算区分  総合助成
6.協力分担  な し

7.目   的
 秋分娩方式は、厳寒期における受胎率の低下、子牛の損耗、分娩前後におけるマグネシウム代謝障害等の阻害要因が予想される。そこで本試験は、これらの阻害要因の防止対策を含めた飼養管理技術を確立し、寒地における安定的な繁殖経営技術の確立をはかる。

8.試験研究方法
1)母牛の生産性向上に関する試験
 ① 受胎率
 ② 放牧地分娩状況
 ③ 繁殖成績
 ④ 分娩前後における母牛の低マグネシウム血症防止
2)子牛の損耗防止と発育促進に関する試験
 ① 厳寒期における子牛の損耗防止
 ② 舎飼期における子牛のクリーブフィーディングの効果
 ③ 放牧による発育の促進
 ④ 秋生まれ子牛の肥育

9.主要成果の概要
 1)まき牛方式と人工授精方式による受胎率は、それぞれ平均して87.1%および84.2%でやや低かった。これは、交配期間が短かかったことと、供試牛に高齢牛が多かったためで、適切な飼養管理を行えば、さらに受胎率の向上が図れるものと考えられる。
 2)放牧地分娩による事故率は11.1%と高かった。分娩事故を少なくするには、畜舎周辺で管理の目が十分行き届く放牧地を用意することが必要である。
 3)離乳期までの育成率および生産率は、それぞれ90.7%および78.0%でやや低かった。
 4)母牛の血清マグネシウムは、分娩後から放牧開始数日後までの間に低下する傾向がみられ、この期間が危険時期で酸化マグネシウムの投与が必要である。
 5)分娩後の子牛の事故は皆無で、下痢の発生も極めて少なかった。厳寒期にあたる12月下旬から3月上旬における子牛の日増体重は、雌雄それぞれ0.91㎏および1.03㎏で良好な発育であった。
 6)子牛の別飼い効果を比較すると、クリープ区と無給与区の日増体量は、それぞれ雄が1.15㎏および0.88㎏、雌が0.97㎏および0.81㎏で別飼いの効果があった。しかし、良質の粗飼料を給与すれば、濃飼無給与でも良好な発育が期待できることが示された。
 7)放牧終了後、去勢牛を簡易畜舎で約6ヵ月間肥育を行った。1頭当たりの飼料摂取量は、乾草約760㎏および濃厚飼料約1,140㎏であった。終了時は、18.1か月齢で体重約600kgに仕上り日増体量は1.2㎏であった。

10.成果の具体的数字
表1 繁殖成績
項目 年次 1(55年) 2(56年) 3(57年) 4(58年)
種 付 頭 数 27 24 26 23 100
受 胎 頭 数 27 22 19 18 86
分 娩 頭 数 28(双子) 23(双子) 19 17 87
雌乳時までの
損 耗 頭 数
2 1 4 2 9
離乳時頭数 26 22 15 15 78
受  胎  率 100.0 91.7 73.1 78.3 86
育  成  率 96.3 100.0 78.9 83.3 90.7
生  産  率 96.3 91.7 57.7 65.2 78.0
注) 受胎率=受胎頭数/種付頭数×100
   育成率=離乳時頭数/受胎頭数×100
   生産率=離乳時頭数/種付頭数×100


図1. 秋分娩牛の血清Mgの季節的変動

表2. 厳寒期の子牛日増体量(12月下旬〜3月上旬)   :㎏
  1年次 2年次 3年次 4年次 平均
O.97 1.05 1.27 O.93 1.03
O.90 0.96 1.01 O.70 O.91

表3.子牛の舎飼時における発育状況  :kg
日増体量 7か月齢体重
1年次 2年次 3年次 4年次 平均 1年次 2年次 3年次 4年次 平均
クリープ区 1.17 1.02 1.24 - 1.15 289 244 291 - 277
0.99 0.93 0.99 - 0.97 244 230 240 - 238
無給与区 0.83 0.97 - 0.86 0.88 213 240 - 216 222
0.82 0.89 - 0.71 0.81 215 223 - 185 208

表4.解体成績
   
項目 牛No. 42 43 44 45 46 47 平均
生体重(%) 538 550 609 689 578 623 597.8
絶食体重(%) 487 502 565 627 530 581 548.7
絶食歩留(%) 90.5 91.3 92.8 91.0 91.7 93.3 91.8
冷枝肉量(%) 267 288 321 355 304 341 312.7
枝肉歩留(% 54.8 57.4 56.8 56.6 57.4 58.757.0

11.今後の問題点
 秋分娩の場合、低マグネシウム血症発症の危険期間が長く、また血清マグネシウムの低下には個体差が認められることから、個体を対象とした効率的予防法を検討する必要がある。

12.成果の取り扱い
 1)秋分娩牛は、冬期間に泌乳期となるので良質の粗飼料の確保が必要である。
 2)放牧地分娩では、管理の目が十分行き届く放牧地を用意することが必要である。
 3)簡易な防風施設と子牛の休息所を設ける必要がある。