【指導参考事項】
1.課題の分類  牛
2.研究課題名  夏季乳房炎の防除に関する試験成績
         (牛乳房炎の総合防除法に関する試験成績)
3.期   間  昭和55年〜58年
4.担   当  道立滝川畜産試験場
5.予算区分  総合助成
6.協力分担  十勝育成牧場、北里大学

7.目 的
 罹患分房のほとんどが泌乳不能となる夏季乳房炎の起因菌、コリネバクテリウム・ピオゲネス(C.p.)とべプトコッカス・インドリクス(P.i.)の乳房内侵入および増殖など、発症機序を解明し、野外で即応できる総合的な予防衛生プログラムを策定する。

8.試験方法
Ⅰ起因菌の乳房内侵入および増殖を抑制する試験
 1-1 接種菌数の違いによる発症の検討
 1-2 乳房人工傷への起因菌塗布による発症の検討
 1-3 ペプトコッカス・インドリクス単独接種による発症の検討
 1-4 発症誘因としての性周期の時期の検討
Ⅱ発症初期牛に対する治療の検討
 2-1 発症初期像の臨床・病理学的観察
 2-2 コリネバクテリウム・ビオゲネス接種後、ペプトコッカス・インドリクスの接種    時期を変えた混合感染試験
 2-3 発症初期牛(2-2)に対する治療試験
Ⅲ予防試験
 3-1 乳房内薬剤注入による予防試験
 3-2 試作ワクチンによる予防試験

9.試験成果の要約
 1.C.p.とP.i.の菌数を各々Ⅰ:109/mL、1010/mL、Ⅱ:107/mL、108/mL、Ⅲ:105/mL、106/mL、Ⅳ:103/mL、104/mLにした混合菌液2mLを若雌牛延ベ11頭44分房の乳槽内に接種したところ1:7/11、Ⅱ:3/11、Ⅲ:1/11、Ⅳ:2/11分房で発症が見られた。個体別の発症では4分房発症1頭、2分房発症3頭、1分房発症3頭、発症無し4頭と個体差が多かったが、接種菌数の多少による病変の差はほとんど見られなかった。
 2.カッターナイフ(乱切)および木綿針(乱刺)による人工傷に、C.p.:109/mL、P.i.1010/mLの混合菌液1mLを3日間連日接種したが、接種部位は3日後痂皮を形成し、2週間後接種部位に病変は見られなかった。同一試験を反復したが、同様に病変形成は認められなかった。シアノクリレート系接着剤による乳頭口被覆は早期(3〜7日後)に剥離した。
 3.P.i.単独接種により、乳槽および乳房中心部接種で一過性化膿炎が起こるが、炎は2週後終熄し、発症は見られなかった。乳房皮内、皮下、乳頭筋肉内、乳頭皮下接種部位は、1週後限局的な硬結となり、膿瘍を形成することはなかった。
 4.発情期、非発情期における感染試験において、発症率に差が認められなかったが、非発情期の非発症牛で感染の持続が見られた。
 5.乳槽で増殖した菌は接種2日以降、膿汁とともに乳腺辺縁へ運ばれ、接種6日以降では乳槽および乳腺部の壊死融解(膿瘍化)をひきおこし、肉芽性増殖(腺維化)が強まる。
 6.C.P.とP.i.の混合感染期間が3日(A群)および7日間(B群)の乳房治療を・膿汁を搾った後、抗生物質(乳房内および筋肉内連日)投与、合成発情ホルモンの投与(筋肉内隔日)および乳房硬結により薬剤が浸透しないものにはDMSO、化膿性炎が終熄に向ったものには副腎皮質ホルモンを併用したところ、18日後A群では乳房硬結は見られず、水様乳汁が分泌されたが、B群では化膿性炎は軽度となったが閉塞又は硬結により予后の泌乳は期待できなかった。
 7.多発期の乳房内薬剤注入については、ディスポーザブルシリンジと18ゲージ注射針を用いることにより、注入上の問題は解決されたが、夏季乳房炎の発生がなく効果を確かめ得なかった。分娩時に発生した乳槽栓塞症は、薬剤注入の間接的な影響と考えられ、今後発生要因の解明が必要と考えられた。
 8.試作ワウチンについては、菌体不活化ワクチン接種群が安全性および効果の点ですぐれていたが、乳房免疫効果が乳汁分泌以前、以降でどう変わるかなど、基礎的研究が今後の課題と考えられた。

10.主要成果の具体的内容

図1 C.p.接種7日後P.i.接種分房の臨床所見

11.今後の問題点
 1.夏季乳房炎感受性の個体差要因の解明
 2.乳汁移行薬剤による治療の検討
 3.乳槽栓塞症の発生要因の解明
 4.乳房の局所免疫発現機序の解明
 5.非発情期牛における持続感染からの発症可能性の検討
 6.乳頭口の被覆による予防

12.指導上の注意事項
 1.乳房注入抗生剤については、化膿性炎持続(膿汁排出)中は、副腎皮質ホルモンの入っていない薬剤を使用し、化膿性炎が終熄に向う時点で肉芽増殖を抑制するための副腎皮質ホルモンを併用することが肝要である。
 2.硬結(線維化)の強いものでは、治療はほとんど期待できないが、牛群の汚染を少くするため膿汁排出中は、隔離、加療することが望ましい。